異世界最強のセンセイ~王女の妹と令嬢達の先生になったんだが、教え子たちが可愛すぎて授業どころじゃない~

古澄典雪

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第一章

知られなければならない過去

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 細かい経緯なんて思い出したくもなかった。確かなのは、もう――現在に生きる価値がないという事実だけだ。

 全ては過ぎ去った流れ。どれだけ手を伸ばしても、もう、届くことはない。結界に包まれて、世界から隔絶された彼女を見てそう思った。

 彼女は眠るように目を閉じている。

 彼女は永い夜に閉じ込められた――他ならぬ俺の手によって。

 ……俺が彼女の暗殺を承諾しなければ、そう遠くない内に、誓依は彼ら――国際魔術師会の人間によって、その命を絶たれてしまうだろう。そう思った。確信した。

 だから申し出を受理した。そして裏切った。彼女を――俺自身にも手が出せない世界に、隔離した。

 これで俺が、世界から排斥されることは確実になった。しかし、そんなことはどうでもよかった。

 そうだろう?

 もう、現在に価値はなくなったのだから。

 俺は教え子たちに別れの挨拶をした。そして、俺が持つ能力を分割して、譲渡する。

 一人には、魔法に関する膨大な知識を。

 一人には、魔力の動きを完全に把握することによって、数瞬先の未来さえも見通せる技術を。

 一人には、過酷な果ての世界でも生活できる、身体強化の術式と、その扱い方を。

 一人には、俺が鍛錬の末に得た、原初魔法の性質を直感的に理解できる、感覚を。

 最後の一人には、を、与えた。

 ……そういうことにした。誓依の能力は、元は俺の能力だったのだと。世界には、そう思っていてもらおう。

 国際魔術師会はもちろん、そうでないことを知っている。

 しかし彼らは――自分たちの理解の範疇外にあるからと言って、一人の少女を殺そうという判断をすぐに下せるくらいに――狭い世界の、限られた少数の人員で構成されているので、世界中の人々に広まった情報を塗り替えるのには相当な時間を要するはずだ。

 裏返せば……時間をかければ、可能だということになるが。

 それでも良いと思った。長くは続かない嘘だとはいえ、撹乱することが出来れば良いのだと。まあ……彼らに対する、ちょっとした反抗だ。

 そして俺は、分割した能力に名前を与えた。

 太古の昔から続く大いなる知識の集成に、『最古ノ魔術師』の名を。

 未来を見通す技術に――先見の明から、『最明ノ魔術師』の名を。

 生命を拒絶する地においても、最高の能力を発揮できる術式に、『最果ノ魔術師』の名を。

 複雑怪奇な――しかし可能性に満ちた魔術の世界での羅針盤となる感覚に、『最巧ノ魔術師』の名を。

 そして。

 彼女の比類ない才能に――。

 遠く、遥かな時間に隔てられた――先の見えぬ未来までも、俺の望みが届くように。名を与える。

 ……彼らも、この名を改変することはないだろう。そう思った。

 そこに込められた意味に、気づくことはないだろうから。
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