異世界最強のセンセイ~王女の妹と令嬢達の先生になったんだが、教え子たちが可愛すぎて授業どころじゃない~

古澄典雪

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第一章

第七十七話 結界………(v)

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 まどろみの世界から手を伸ばし、意識を少しずつ現実に近付けていく。目を開く。

「……あ、起きました?」

「……は?」

 ……………いや、え?

 俺の顔を覗き込んでいるのは聖女だった。聖女――綾空沙也夏あやそらさやか。赤と白のコントラストが鮮やかな――確か、巫女服と言ったか――装束をまとっている。

 いやしかし、それは現実にはあり得ない光景と言うか、何が起こっているのかわからないというか……。

「……ちょっと記憶を整理させてくれ」

「どうぞ」

 ……そうだよな?結界を解除して……誓依を救って……そこで記憶が途切れている。

 とりあえず。

「……俺が誓依を救ったのって、妄想でも夢でもないよな?」

「ええ。久宮さんは三重結界から解放されて、召喚された天使を一撃で消滅させました」

 よかった夢じゃなくて。まじで。ほんとに。

「……えーと、で、なんで沙也夏が極星国に?」

 沙也夏は微笑を浮かべて黙っている。

「……っていうか、皆は無事?……どこにいる?」

「……無事なのは確かです。でも……あなたらしくもない勘違いをしてらっしゃいますよ」

「……勘違い?」

「はい――ここは、明涼国です」

 …………え?

 え?

「だからあなたの大切な人たちに会うのは、ちょっと先の事になりそうですね」

「……帰してもらうことは……」

「……そうですか。守ってあげようと思ってはるばる極星国まで行ったのに、もう帰っちゃうんですか。そうですか」

 沙也夏は、つんと顔を背けて不機嫌アピール。

「……守って?」

「あなたは結界を解除しましたよね?」

「うん」

「ヴァルミリアは久宮さんと時明祈利を憎んでますね?」

「………ああ、そっか」

「久宮さんは目覚めたばかりで現在の国際情勢なんて分からないでしょうし……極星国にあなたを留めておけば、確実にヴァルミリアがあなたの魔力を捕捉してちょっかいを掛けてくるでしょうし」

「……なるほどね」

「だから危険な橋を渡ってまで極星国に行ったんですよ。そして匿ってるんです」

「……ありがとう、沙也夏」

「いえいえ。……これで貸しは三つですかね?」

「…………」

「こんなに尽くしてるんだからお返しには期待してもいいですよね?」

「…………善処します」

「それで、由理君……いえ、祈利君の方がいいんですか?」

「いや、今まで通り由理って呼んでくれ……」

「わかりました……それでですね――まず、私の膝枕の具合はどうです?初めてなのでよく分からないんですけど……」

 …………。

 にこにこと笑う沙也夏。俺はそれを見上げる形でいる。

「………ちょっと待って本当に失礼しましたッ」

 だから俺の顔を覗き込んでいたわけか。気づくかそんなの。いや気づくだろ。

 ……気が動転しているみたいだ。落ち着こう。グロタンディーク素数を数えるんだ。

「な、なにゆえに膝枕?」

「この部屋、クッションも何もないですし。ベッドに寝かせるわけにも……」

「床に転がしておいてくれればいいから……」

「それもどうなんですかね……」

「……っていうか、まず、って言った?」

「はい。もう一つ聞くことがあります」

「……なに?」

「『最古ノ魔術師』と『最怪ノ魔術師』を巡る一連の出来事ですけど――」

 沙也夏は首を少し傾ける。

「――どこまで、計算通りなんですか?」
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