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第一章
第七十六話 再展開……(iv)
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魔法を発動する。前提条件は完全に満たされている。
「『夜明ケノ誓イ』」
魔法の効果は――自身の魔力を、他人の魔力へと変換すること。この場合は、久宮誓依の魔力に変換されることになる。
これが、結界の鍵だ。
……いつだったか、悠可の魔力を俺の魔力に変換して取り込んだことがあったけど――時間を掛ければ、誰にでも出来るようになると言った。
そう――時間をかければ。
俺くらいの凡人でも、二百年くらいの時間をかければ、出来るようになる。
結界に久宮誓依の魔力を送り込む。
その瞬間、上空に魔法陣が展開される。結界を解除しようとする者に焦点が定められる。
しかし俺は『夜明ケノ誓イ』の発動で手一杯で、対抗魔法を発動することが出来ない。そして。俺を狙うこの魔法は、発動した後に反応しても、間に合わない。
だから。だから、二人について来てもらった。超遠距離魔法を操れる二人に。
三百メートル程離れた場所で、魔法陣が砕け散る音が聞こえた。一瞬だけ振り返り、二人を見た。
何があっても、そこから動かないようにしてくれ。
そう言うと同時、一枚目の結界が光の粒となって拡散した。
歩み始める。二枚目の結界。俺は魔剣に手をかけた。そして、左手から誓依の魔力を結界に注ぐ。魔剣を振り上げる。
正面上方に、魔法陣が現れる。
――魔法陣が光を散らして、決定的な破滅をもたらす一撃が俺の心臓に突き刺さる。
突き刺さるその直前に。俺は振り上げた魔剣で光線を反射した。真式清盟に作ってもらった回数制限付きの魔剣。反射した光線は魔法陣を粉々に砕く。
三枚目。
ここからが勝負だ。ヴァルミリア。
三枚目の結界に、防御機構は存在しない。だから、展開するだけなら容易い。
魔力を注ぎ込んだ。
結界が千々に乱れ、光を散らして消滅する。
瞬間。
幾千もの魔法陣が周囲に展開された。その全ては俺と誓依の命を破壊するために構成されたものだ。俺は結界の発動準備に入る。しかしそれは間に合わない。分かっている。そんな隙を与えてはくれないことなど。分かっている。
炎が。氷が。光が。闇が。風が。あらゆる種類の魔法があらゆる角度から殺意を持って到来する。
消滅させていく。対抗魔法を起動する。
間に合わない。
誓依の周囲の魔法を全てかき消した時点で、豪雨の如く力の集合が降り注いだ。憎い。許さない。彼らの意志を継いだ災害が現出する。
不意に肩が熱を持った。天界への門が開かれつつある、今の空と同じ色の液体が飛び散る。背後で悲鳴が聞こえる。魔法が貫通したのだと気づくのは少し後になってからだ。そんな事に意識を割いたが最後、生じた刹那の空白に身が潰えることは自明だった。
全ての魔法が消滅する。或いは着弾する。
第二陣。
誓依の周囲の魔法陣を消す。
首を魔法が掠めた。脇腹に衝撃を感じる。熱が失われていく。頭に靄がかかる。先が見えなくなる。でも。俺は。まだ。救っていない。救い終わっていない。償いをしていない。だから死ぬことはない。約束を果たすまで。醒めていく。冷めていく。冷静に。そうだ。俺は。ずっと。この時を。準備が終わる。これで――。
「展開セヨ――『破魔ノ結界』」
結界を展開する。今度は終わらせるためではなく。繋ぐために。生きるために。望海と未来――そして、誓依を守護するための、結界。降り注ぐ魔法が結界に触れ――消滅していく。触れた魔法の対抗魔法を即座に発動する性質を持たせた。
結界は――俺の得意分野だから……。
彼女を見る。僅かに。睫毛が動く。永い夜が明けていく音を聞いた。ずっと夢に見た、朝焼けの色を宿す美しい瞳が、俺を捉えた。涙が浮かぶ。声が聞こえる。足を動かす。ずっと。待たせてごめん。少女が抱き着いてくる。意外と泣き虫だよね。君は。なんて。
彼女が魔法を――創り出す。傷口から魔力が流れ込んでくる。温かい。懐かしい。あふれ出る感慨が彼女の名を呼ばせる。誓依。ありがとう。
俺は上空を指差す。天使。召喚が近い。……任せてもいいかい?
彼女の魔法は、俺たちが使っている――いわば狭義の魔法の外側に存在する。彼女の魔法は、定義そのものに干渉する。天使の生の定義を、壊すことが出来る。
彼女は優しい微笑みを浮かべて、頷いた。
ありがとう。祈利。姿は変わったけど、綺麗な魔力は変わらないね。あなたの魔力、大好きよ。……ちょっとだけ、眠っていて。そう長くは待たせないから。
彼女が魔法を発動する。本当の魔法を。俺たちの、つぎはぎの魔法なんか目じゃない、本当の奇跡を。世に、知らしめる。
――彼女の澄んだ美しい声が奇跡を紡ぎ出し彼女の手に光の槍が現れるのを見ながら俺は深い眠りに落ちていく。
「『夜明ケノ誓イ』」
魔法の効果は――自身の魔力を、他人の魔力へと変換すること。この場合は、久宮誓依の魔力に変換されることになる。
これが、結界の鍵だ。
……いつだったか、悠可の魔力を俺の魔力に変換して取り込んだことがあったけど――時間を掛ければ、誰にでも出来るようになると言った。
そう――時間をかければ。
俺くらいの凡人でも、二百年くらいの時間をかければ、出来るようになる。
結界に久宮誓依の魔力を送り込む。
その瞬間、上空に魔法陣が展開される。結界を解除しようとする者に焦点が定められる。
しかし俺は『夜明ケノ誓イ』の発動で手一杯で、対抗魔法を発動することが出来ない。そして。俺を狙うこの魔法は、発動した後に反応しても、間に合わない。
だから。だから、二人について来てもらった。超遠距離魔法を操れる二人に。
三百メートル程離れた場所で、魔法陣が砕け散る音が聞こえた。一瞬だけ振り返り、二人を見た。
何があっても、そこから動かないようにしてくれ。
そう言うと同時、一枚目の結界が光の粒となって拡散した。
歩み始める。二枚目の結界。俺は魔剣に手をかけた。そして、左手から誓依の魔力を結界に注ぐ。魔剣を振り上げる。
正面上方に、魔法陣が現れる。
――魔法陣が光を散らして、決定的な破滅をもたらす一撃が俺の心臓に突き刺さる。
突き刺さるその直前に。俺は振り上げた魔剣で光線を反射した。真式清盟に作ってもらった回数制限付きの魔剣。反射した光線は魔法陣を粉々に砕く。
三枚目。
ここからが勝負だ。ヴァルミリア。
三枚目の結界に、防御機構は存在しない。だから、展開するだけなら容易い。
魔力を注ぎ込んだ。
結界が千々に乱れ、光を散らして消滅する。
瞬間。
幾千もの魔法陣が周囲に展開された。その全ては俺と誓依の命を破壊するために構成されたものだ。俺は結界の発動準備に入る。しかしそれは間に合わない。分かっている。そんな隙を与えてはくれないことなど。分かっている。
炎が。氷が。光が。闇が。風が。あらゆる種類の魔法があらゆる角度から殺意を持って到来する。
消滅させていく。対抗魔法を起動する。
間に合わない。
誓依の周囲の魔法を全てかき消した時点で、豪雨の如く力の集合が降り注いだ。憎い。許さない。彼らの意志を継いだ災害が現出する。
不意に肩が熱を持った。天界への門が開かれつつある、今の空と同じ色の液体が飛び散る。背後で悲鳴が聞こえる。魔法が貫通したのだと気づくのは少し後になってからだ。そんな事に意識を割いたが最後、生じた刹那の空白に身が潰えることは自明だった。
全ての魔法が消滅する。或いは着弾する。
第二陣。
誓依の周囲の魔法陣を消す。
首を魔法が掠めた。脇腹に衝撃を感じる。熱が失われていく。頭に靄がかかる。先が見えなくなる。でも。俺は。まだ。救っていない。救い終わっていない。償いをしていない。だから死ぬことはない。約束を果たすまで。醒めていく。冷めていく。冷静に。そうだ。俺は。ずっと。この時を。準備が終わる。これで――。
「展開セヨ――『破魔ノ結界』」
結界を展開する。今度は終わらせるためではなく。繋ぐために。生きるために。望海と未来――そして、誓依を守護するための、結界。降り注ぐ魔法が結界に触れ――消滅していく。触れた魔法の対抗魔法を即座に発動する性質を持たせた。
結界は――俺の得意分野だから……。
彼女を見る。僅かに。睫毛が動く。永い夜が明けていく音を聞いた。ずっと夢に見た、朝焼けの色を宿す美しい瞳が、俺を捉えた。涙が浮かぶ。声が聞こえる。足を動かす。ずっと。待たせてごめん。少女が抱き着いてくる。意外と泣き虫だよね。君は。なんて。
彼女が魔法を――創り出す。傷口から魔力が流れ込んでくる。温かい。懐かしい。あふれ出る感慨が彼女の名を呼ばせる。誓依。ありがとう。
俺は上空を指差す。天使。召喚が近い。……任せてもいいかい?
彼女の魔法は、俺たちが使っている――いわば狭義の魔法の外側に存在する。彼女の魔法は、定義そのものに干渉する。天使の生の定義を、壊すことが出来る。
彼女は優しい微笑みを浮かべて、頷いた。
ありがとう。祈利。姿は変わったけど、綺麗な魔力は変わらないね。あなたの魔力、大好きよ。……ちょっとだけ、眠っていて。そう長くは待たせないから。
彼女が魔法を発動する。本当の魔法を。俺たちの、つぎはぎの魔法なんか目じゃない、本当の奇跡を。世に、知らしめる。
――彼女の澄んだ美しい声が奇跡を紡ぎ出し彼女の手に光の槍が現れるのを見ながら俺は深い眠りに落ちていく。
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