ハズれキャラの井口くんには小悪魔な後輩が憑いている

じゃけのそん

文字の大きさ
8 / 32
第1章 修学旅行編

第7話 シスコンバリアは全てを無効化する

しおりを挟む
 我が家まであと半分といったところ。
 俺のすぐ隣を並んで歩いていた葉月は。

「あっ」

 という声を漏らし、唐突に立ち止まった。

「どした、う〇こでも踏んだのか」

 そう言いつつ振り返ると、奴が指さしていたのは、車道を挟んで向かいにあるロ〇ソン。俺のバイト先だった。

「センパイ、わたしコンビニ寄りたいです」

 この状況から察するからして。
 これはおそらくいつものアレだ。

「今日暑いですし、アイス買って帰りましょ」

「無理」

 俺は葉月の提案に速攻でノーを突きつける。

 その理由は単純明快。
 付き合えば間違いなく奢らされるからだ。

「なんでですかー。買いましょうよアイス」

 しかしそれを口実に断ろうとしても、「えー、そんなつもりないですよー」とかなんとか言って、上手いこと言いくるめられた後、無理やり連行され。

「センパイ今日の午前中ずっとチャック全開でしたよね。クラスの人がセンパイのことネタにしてましたよ」と、自覚のなかったことを暴露された上に。

「妹にバラされたくなかったら新作のプリン奢ってください」と、脅迫を受けることになる。(実体験)

 故に俺はこの状況の対策として、守るべき3か条を設けた。

 一つ、ついて行かない。

 二つ、押しに負けない。

 三つ、奴のペースで話さない。

 これさえ守ればこの状況は回避できる。はず。

「別にアイス好きじゃねぇし」

「いやいや、アイス好きじゃない人類なんていないでしょ」

 それはつまり、俺は人類ではないということですかね。あなたの勝手な偏見で、俺の人権を奪わないで頂きたいのですけど。

「別に嫌いでもいいじゃないですか。暑いんだし」

「暑いんだし、で全てを正当化しようとするそのスタンスやめろ」

 まったく引く様子のない葉月に、俺は本音をぶつける。

「てかシフト無い日までバイト先行きたくねぇ」

「いいじゃないですか、ちょろっとアイス買うだけなんですから」

 そのちょろっとが無駄な出費に繋がるんだよ。

「俺は一刻も早く家に帰って、陽葵ひまりにただいま言いたいの」

 捲し立てるように言うと、急に葉月は黙り込んだ。
 やがてゲテモノを見るかのような目で俺を見ては。

「どんだけシスコンなんですか……」

 と、嫌悪感丸出しでそう呟いたのだった。

「いい加減やめてくださいよ、それ」

「やめるって何を」

「シスコンアピです」

 シスコンアピも何も、俺がシスコンなのは紛れもない事実なんだが。天使のように愛らしい我が妹を、俺は心の底から愛しているんだが。

「キモいこと言ってる自覚ないんですか?」

「あるわけないだろ。これのどこがキモいってんだ」

「逆にどこがキモくないのか知りたいくらいですよ……」

 そう言うと葉月は呆れた顔でため息を吐いた。

「さすがのわたしもドン引きです……」

「お前に引かれたところで痛くも痒くもないわ」

 嫌悪感丸出しの葉月を前に、俺は断言する。

「俺は陽葵にさえ嫌われなければそれでいいの」

 俺は妹が好きだ。
 この世界の誰よりも。
 それこそ嫁にもらってやりたいくらいに。

 俺にとっての一番が陽葵だからこそ、シスコンアピはガンガンするし、それでどれだけ葉月に引かれようとも、俺が受けるメンタルダメージはほぼ皆無に等しいのだ。

 これぞまさにシスコンバリア。
 全ての雑音を無効化する最強の盾。
 俺と陽葵の愛の障壁を舐めないでいただきたい。

「だったらなおさら手遅れかもですね」

 やがて葉月は冷たい声音でそう言った。
『手遅れ』という不穏な言葉が気になり、俺は即折り返す。

「何だよ、手遅れって」

「多分ですけどあの子――」




「えっ……」

 言葉の真意を聞いたその瞬間、俺の頭の中は真っ白。今まで前のめりだったはずの気持ちが、一気にどん底へと落ちた。

「す、すまん。もっかい言ってくれん?」

「だーかーらー。あの子センパイのそういうところウザがってますって」

 どうやら聞き間違えじゃない。
 冗談……とかでもないっぽい。

 ひ、陽葵が……?
 俺のことをウザがってる……?

「い、いやいや、そんなまさか」

 陽葵が俺をウザがるとか万に一つもあり得ない。
 あり得な……

「……マジ?」

「マジです」

 葉月の顔は真剣そのものだった。
 いつもの俺をおちょくる雰囲気とは明らかに違う。

「ち、ちなみにどの辺を?」

「ぜんぶです」

「全部……!?」

 些細な事かと思ったら、全部なの……!?

「こんなのが兄ならそりゃそうですよ」

「こんなのって……」

 クリーンヒット。
 無敵だったはずのシスコンバリアがボロボロと崩れ行く音がする。

「だから今日はおとなしく、わたしとコンビニ行きましょう」

「ごめん、ちょっと今ショック過ぎて無理」

 俺は人から嫌悪されることには慣れている。それは『陽葵にさえ嫌われなければいい』というシスコン魂があるからこその慣れ。

 他者が原因で傷つくことはほぼ無いし、自分が腫物である事実に興味も関心もない。飛んでくる罵声やらも全部含めて、俺はそれらを雑音として処理してきた。

 でも、相手が陽葵となったら話は別だ。


 悠にぃ、嫌い。


 とでも言われようものなら。
 その瞬間俺は魂が抜けて植物状態になるだろう。
 何なら心臓が止まってお陀仏の可能性まである。

「ひ、ひまりぃぃ……ゔぅぅ……」

「いや、落ち込みすぎでしょ……」

 気が付けばシスコンバリアの耐久値はゼロ。メンタルズタボロの俺は、近くの電信柱に頬を擦り付けながら泣いていた。

「そんなに好かれたいんですか」

「あだりまえだろぉぉぉぉ……」

 涙目のまま葉月を見る。
 するとそんな俺に同情してかこんな提案を。

「ならお土産の一つでも買って帰ったらどうですかね」

「お土産……?」

「例えばスイーツとか」

 スイーツ……
 そうか、スイーツか……。

「スイーツ買って帰ったら嫌われないで済む?」

「手ぶらよりはマシだと思いますよ。知りませんけど」

 やがて葉月は、何か思い立ったような顔をした。そして流れるように対岸のロ〇ソンを指さしては、「だからセンパイ、行きましょう」と力強く言った。

「そのくらいの気遣い、できる兄なら当然です」

 できる兄なら当然。
 まるで俺を鼓舞するようなその一言で、ボロボロだった俺の心に熱が満ちる。見慣れたはずのその青い看板が、今は驚くほどに神々しく映った。

「これはわたしからの助言です」

「……っっ!!」

 可能性しか感じなかった。
 妹の目線に立ったこの助言。
 これが出来るということはつまり――

「さてはお前、妹だろ!」

「わたしに兄妹はいません。センパイだって知ってるでしょ」

 そう言えばそうでした。
 こいつバチバチに一人っ子でした。

「まあ、妹キャラではありますけど」





 こうして俺たちはコンビニへ。
 葉月の意見も参考にしつつ、クリームがたっぷりと乗ったプリンと、暑いので、ついでにガ〇ガリ君を購入することに。(アイス嫌いは大嘘です)

 それらをレジに持って行った際。
 背後から不審な手が伸びてきた。

「できる兄なら妹にアイス奢るくらい当然です」

 その言葉と共に置かれたのは、超高級アイスのハーゲンさん。

「お前は後輩であって妹ではない」

「じゃあ今だけセンパイの妹ってことで」

「ふざけんな。俺の妹は陽葵ただ一人だ」

 何とか奢りを回避しようとした俺だったが。

「空振りズッコケに胸部観察」

「えっ?」

「アイス奢ってくれないなら、今日の体育でセンパイがポンコツ晒した上に、女子の胸をいやらしい目で見てたことを大好きな妹にチクります」

 などと身に覚えのあり過ぎる脅しを受け。
 結局今日も葉月の手の上で転がされる俺なのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき
恋愛
毎朝六時。 黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。 それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。 ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。 床下収納を開けて、封筒の束を確認する。 まだある。今日も、負けていない。 儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。 愛は演技。体は商売道具。金は成果。 ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。 完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。 奢らない。 触れない。 欲しがらない。 それでも、去らない。 武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。 赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

処理中です...