2 / 25
捻くれ者2
しおりを挟む
時期は3月の終わりだ。
チケットに書いてある情報なんてものは大してあてにはならない。
搭乗する飛行機と座席が書いてあるだけだ。
乗り継ぎの空港での搭乗時間ですら書いてない。
況してやその先の私の人生を導くものではない。
例によってメキシコ経由の殆ど最短ルートである。
成田からの搭乗である。
成田空港までの道のりの段階から列車の運休によって遠回りさせられた私だ。
私の心はこの時既に疲れていた。
普段あまり焦るようなことはないのだが、飛行機の時間に遅れるような状況になるのは避けなければならない。
流石に時間に余裕を持って出てきたものの、それでも落ち着いてはいられなかった。
勿論結果から言えばかなり余裕に到着した。
しかし実際感じることと言えば、身体的な疲労に比べても、精神的な疲弊の方が私自身に与える影響は大きく、回復に時間がかかるということだ。
成田からメキシコまでは特にこれといった出来事はなかった。
乗り継ぎに関しても、使えもしない英語で何となく通過しただけのことである。
前回違った点について語るにはメキシコからの機内について話すべきだろう。
そこにいたのは日本人の旦那さんを持つというコロンビア人の女性とその娘であった。
話すと旦那さんは今関東に住んでいるそうだ。
旦那さんに会いに時々日本を訪れるようで、今回もその復路ということらしい。
娘さんは話した感じだと高校生が大学生くらいらしく見えた。
しっかりしており、私のコロンビア入国の際にも入国審査表の記入を手助けしてくれた。
それは大いに助かったのだが、話好きの婦人に付き合うために眠ることが許されなかった。
コロンビア人の女性、特に北の方の出身であると陽気な人が多いらしい。
この人もそういう類の人なのだろうか。
そう思いながら航空機内の旅に耽っていた。
話をコロンビアに移そう。
仕事として行ったのがこの時である。
この時の到着も夜中であった。
空港自体の到着は確か23時頃であった。
そして例によって迎えに来たのは社長であった。
両替や手荷物検査などをしていたために、私が空港から出たのはもう少し後である。
社長は前回と同じように車で迎えに来て、そして私の荷物を積むと、私の滞在する家へと走らせた。
前回と違うところと言えば私のスーツケースが二つになったことくらいである。
コロンビアでの私は、日本語学校の生徒の家にホームステイすることになっていた。
「ホームステイをする」ということは聞いていたが、どこにあって、誰の家かは聞いていなかった。
正直に言えば前回来た時お世話になった家がよかった。
かなり環境が良く、お金を持っていそうだったからである。
さらに言えばそこの生徒と仲良くなっていたために気が楽だったというのもある。
しかしその期待に反して、車は違う方向へと向かっていた。
社長は車内で仕事の話を始めた。
その時聞かされたことだが、到着して3日後にもう授業があるようだった。
そして前任者はもうやめてしまったため、その人の作成した引き継ぎを見て授業をしなければならなかった。
前任が辞める前に口頭での引継ぎは必要だろう。
せめてもう一週間食い止めれば私とて授業の引継ぎができるというものだ。
しかも一クラスならまだしも、私に課されたものは四クラスであった。
私自身、日本語教授経験が完全に無い訳ではなかった。
しかし、ボランティアなどが中心で、具体的なカリキュラムのある学校においての教授経験は無い。
その上ここでの教科書は独自のものを使っているようで、日本にいる間に少し分析したものの、私の目から見ても不完全で、質問したい項目もとても多かった。
しかし、到着早々「できない」という言葉を口にする訳にもいかず、とりあえずなんとなく承諾したように振る舞った。
しかし、レベルも全く違う四クラスを3日後にしなければいけないというのは、思いの外負担になるのである。
話しているとそのうち車は止まった。
私達が到着したのは住宅街の一角にある平屋であった。
外から見ても実に立派な門であり、頑丈なそうな壁はセキュリティ面でも安全そうであった。
家の前の歩道に車を止めると、社長はインターホンを押しに外へ出た。
その間、私はトランクからスーツケースを引っ張り出していた。
自分で持ってきたものだが、客観的に見ると無駄なものの多いトランクであった。
同時に二つ持つことができない程に私の腕は細く、それだけトランクの重さもあった。
きっと私の腕を梃子にしたところでこのスーツケース二つというものは動かないだろう。
そんなことを考えながら私の腕は意外にも簡単に片方のそれを持ち上げた。
ガタガタした歩道であった。
脇には芝が生え、所々に背の低い木々が植えられていた。
それを除けば見晴らしは良く、危険なことも起こりにくいように感じた。
社長は何回かインターホンを押していたようだが、家からの反応はなかった。
そのうち彼女は携帯電話を取り出すと、家主にメッセージを送っていた。
多分10分は待たなかっただろう。
家の灯りがつくと、中から50歳手前の女性が出てきた。
どうやら元々社長の知り合いの女性らしい。
真夜中であり、多少申し訳ない時間とはいえ、事前に連絡してあったはずだからもっと早く出てきてくれればいいのにと思った。
彼女たちは目を合わせるとすぐに抱き合ってコロンビア流の挨拶を交わした。
そして私が紹介された後、家の中に招き入れられた。
入り口を入るとそこは殺風景なガレージであった。
自転車の他には数点の花瓶のようなものが置いてあるだけだったのである。
そこを抜けると実際の屋内であった。
私は持参したスリッパに履き替えると足を踏み入れた。
飛行機の中でも履いていたスリッパである。
安物ではあるが履き慣れていた。
踵を引きずって進むと一番奥の部屋に連れていかれた。
その時の私はと言うと、すっかり眠気が襲って来ており、ベッドを借りたかった。
しかし日本人の代表として招かれているだけにマナーを守る必要があると思った。
そうして社長からいくつかの注意点を聴き終えるとその日の私のすべきことは全て完了したようだった。
この国では朝にシャワーを浴びるのが普通だ。
そう言う訳で、コートを脱ぐと着替えもせずにベッドで深い眠りについた。
これはマナーに反していた可能性も否めないが、私の余裕はと言うと日本の空港に着く前に既に失われていたので許していただきたい。
チケットに書いてある情報なんてものは大してあてにはならない。
搭乗する飛行機と座席が書いてあるだけだ。
乗り継ぎの空港での搭乗時間ですら書いてない。
況してやその先の私の人生を導くものではない。
例によってメキシコ経由の殆ど最短ルートである。
成田からの搭乗である。
成田空港までの道のりの段階から列車の運休によって遠回りさせられた私だ。
私の心はこの時既に疲れていた。
普段あまり焦るようなことはないのだが、飛行機の時間に遅れるような状況になるのは避けなければならない。
流石に時間に余裕を持って出てきたものの、それでも落ち着いてはいられなかった。
勿論結果から言えばかなり余裕に到着した。
しかし実際感じることと言えば、身体的な疲労に比べても、精神的な疲弊の方が私自身に与える影響は大きく、回復に時間がかかるということだ。
成田からメキシコまでは特にこれといった出来事はなかった。
乗り継ぎに関しても、使えもしない英語で何となく通過しただけのことである。
前回違った点について語るにはメキシコからの機内について話すべきだろう。
そこにいたのは日本人の旦那さんを持つというコロンビア人の女性とその娘であった。
話すと旦那さんは今関東に住んでいるそうだ。
旦那さんに会いに時々日本を訪れるようで、今回もその復路ということらしい。
娘さんは話した感じだと高校生が大学生くらいらしく見えた。
しっかりしており、私のコロンビア入国の際にも入国審査表の記入を手助けしてくれた。
それは大いに助かったのだが、話好きの婦人に付き合うために眠ることが許されなかった。
コロンビア人の女性、特に北の方の出身であると陽気な人が多いらしい。
この人もそういう類の人なのだろうか。
そう思いながら航空機内の旅に耽っていた。
話をコロンビアに移そう。
仕事として行ったのがこの時である。
この時の到着も夜中であった。
空港自体の到着は確か23時頃であった。
そして例によって迎えに来たのは社長であった。
両替や手荷物検査などをしていたために、私が空港から出たのはもう少し後である。
社長は前回と同じように車で迎えに来て、そして私の荷物を積むと、私の滞在する家へと走らせた。
前回と違うところと言えば私のスーツケースが二つになったことくらいである。
コロンビアでの私は、日本語学校の生徒の家にホームステイすることになっていた。
「ホームステイをする」ということは聞いていたが、どこにあって、誰の家かは聞いていなかった。
正直に言えば前回来た時お世話になった家がよかった。
かなり環境が良く、お金を持っていそうだったからである。
さらに言えばそこの生徒と仲良くなっていたために気が楽だったというのもある。
しかしその期待に反して、車は違う方向へと向かっていた。
社長は車内で仕事の話を始めた。
その時聞かされたことだが、到着して3日後にもう授業があるようだった。
そして前任者はもうやめてしまったため、その人の作成した引き継ぎを見て授業をしなければならなかった。
前任が辞める前に口頭での引継ぎは必要だろう。
せめてもう一週間食い止めれば私とて授業の引継ぎができるというものだ。
しかも一クラスならまだしも、私に課されたものは四クラスであった。
私自身、日本語教授経験が完全に無い訳ではなかった。
しかし、ボランティアなどが中心で、具体的なカリキュラムのある学校においての教授経験は無い。
その上ここでの教科書は独自のものを使っているようで、日本にいる間に少し分析したものの、私の目から見ても不完全で、質問したい項目もとても多かった。
しかし、到着早々「できない」という言葉を口にする訳にもいかず、とりあえずなんとなく承諾したように振る舞った。
しかし、レベルも全く違う四クラスを3日後にしなければいけないというのは、思いの外負担になるのである。
話しているとそのうち車は止まった。
私達が到着したのは住宅街の一角にある平屋であった。
外から見ても実に立派な門であり、頑丈なそうな壁はセキュリティ面でも安全そうであった。
家の前の歩道に車を止めると、社長はインターホンを押しに外へ出た。
その間、私はトランクからスーツケースを引っ張り出していた。
自分で持ってきたものだが、客観的に見ると無駄なものの多いトランクであった。
同時に二つ持つことができない程に私の腕は細く、それだけトランクの重さもあった。
きっと私の腕を梃子にしたところでこのスーツケース二つというものは動かないだろう。
そんなことを考えながら私の腕は意外にも簡単に片方のそれを持ち上げた。
ガタガタした歩道であった。
脇には芝が生え、所々に背の低い木々が植えられていた。
それを除けば見晴らしは良く、危険なことも起こりにくいように感じた。
社長は何回かインターホンを押していたようだが、家からの反応はなかった。
そのうち彼女は携帯電話を取り出すと、家主にメッセージを送っていた。
多分10分は待たなかっただろう。
家の灯りがつくと、中から50歳手前の女性が出てきた。
どうやら元々社長の知り合いの女性らしい。
真夜中であり、多少申し訳ない時間とはいえ、事前に連絡してあったはずだからもっと早く出てきてくれればいいのにと思った。
彼女たちは目を合わせるとすぐに抱き合ってコロンビア流の挨拶を交わした。
そして私が紹介された後、家の中に招き入れられた。
入り口を入るとそこは殺風景なガレージであった。
自転車の他には数点の花瓶のようなものが置いてあるだけだったのである。
そこを抜けると実際の屋内であった。
私は持参したスリッパに履き替えると足を踏み入れた。
飛行機の中でも履いていたスリッパである。
安物ではあるが履き慣れていた。
踵を引きずって進むと一番奥の部屋に連れていかれた。
その時の私はと言うと、すっかり眠気が襲って来ており、ベッドを借りたかった。
しかし日本人の代表として招かれているだけにマナーを守る必要があると思った。
そうして社長からいくつかの注意点を聴き終えるとその日の私のすべきことは全て完了したようだった。
この国では朝にシャワーを浴びるのが普通だ。
そう言う訳で、コートを脱ぐと着替えもせずにベッドで深い眠りについた。
これはマナーに反していた可能性も否めないが、私の余裕はと言うと日本の空港に着く前に既に失われていたので許していただきたい。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
還暦女性と青年の恋愛
MisakiNonagase
恋愛
ますみは61歳。子育てもとうに終わり、孫もいて、ここ数年ロックバンドの推し活に生きがい感じている。ますみは推し活のオフ会やライブ会場で知り合った世代を超えた「推し活仲間」も多く、その中で二十歳の大学生の悠人とは特に気が合い、二人でライブに行くことが増えていった。
ますみと悠人に対して立場も年齢も大きく違うのだから、男女としての意識など微塵もなかったが、彼のほうは違った。
そんな世代を超えた2人の恋愛模様を書いたストーリーです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる