捻くれ者

藤堂Máquina

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ひねくれもの3

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目が覚めたのは翌朝の6時半頃であった。
時差のせいでもあるのか、眠かった割にあまり長い時間眠れなかったのである。
正確には覚えていないものの、多分眠ったのは深夜二時前くらいだろう。
せいぜい四時間ちょっとだ。
飛行機でもあの婦人のお陰で思ったより眠れなかったために睡眠不足が懸念された。
そうかと言ってこれから再び眠れる訳でもなかったために荷解きをすることにした。
コロンビア人は朝早い人が多いらしい。
私が荷物を触っていると人の気配がしてくる。
この家の家族か、隣の家か、それとも外なのかはよくわからない。
外はまだ暗いが、これが当たり前なのかもしれない。
私はトイレに入ると自分の不潔さを考え始めた。
飛行機に乗っている時間と睡眠時間を合わせると丸2日ほどシャワーを浴びていなかった。
そのため早速シャワーを浴びることにした。
私の借りている部屋は広く、部屋の中にシャワーとトイレがあって。
鍵も渡されているため、実質宿屋の部屋のようであり、キッチンを使う場合を除いて外へ出る必要はなさそうであった。
シャワーをから上がると暖が欲しくなった。
日本と違って湯に浸かる習慣はない。
そのためいつも肌寒いのである。
外から光が入ってくる時間だ。
太陽光でも浴びて体内時計を調節しよう。
そう思いカーテンに手を伸ばす。
カーテンを開けるとここが入口のあのガレージしか見えない部屋であることに気が付いた。
これでは病気になってしまいそうだ。
部屋の設備に関しては申し訳ないのだが、心の部分で良くない。
外が見えないことと、反対に門を出入りする人たちから丸見えになってしまうことからカーテンは閉めたままにすることにした。
そのうち社長から電話がかかって来た。
多くは仕事の内容であり、時折私の体調についても触れた。
電話自体はそう長いものではなく、すぐに切られた。
仕事しに来たとは言え、時差ボケも治らない段階で電話をしてくるなんて気の早い話だ。
せめて落ち着くまでの数日は休みが欲しい。
しかし昨日の会話の通り、会ったことの生徒たちの学力を考慮しながら授業の準備をしなければならない。
こう放り出されてしまっては、はじめは自己紹介なんかをさせてレベルを見るほかない。
一コマ二時間がここに来て面倒に思える。
しかしやるからには妥協をしたくない。
引継ぎの小さなメモだけもらっていたのでそれを見て教科書のページを確認する程度のことはした。
ホームステイ先の家族とのコミュニケーションは覚束ないスペイン語であった。
時折携帯の翻訳を使うことで基本的な意思疎通をすることができた。
去年の見学の際は生徒が間に入って通訳のようなことをしてくれていたのだが、ここではそうはいかないようだ。
ここの家の生徒は大学生で、あまり家にはいないらしく、実質その両親や他の家族と住むことになっているようだ。
そしてその会話の際、ホームステイにかかる費用の話なんかも出た。
まだ給料を得るほどに働いていないのに、出費ばかりかさむものだ。
もし無一文で来ていたらどうなっていたのだろう。
言われた金額は思っていたよりも高かった。
給料の三分の一ほどである。
ホームステイであり、安く済むと聞いていただけに正直驚いた。
日本で働いても割合としては変わらないのかもしれないが、元の給料が安いだけに驚いたのである。
具体的な金額を聞いていなかったのは私のミスだが、かかる費用として話してくれなかった方にも問題があるように思った。
前回来た時は学校が負担してくれていたために、今回もそういうことがあるのではないかという期待していた自分もいる。
そもそも生活に必要なお金について話した際にそのような話が出なかったからそう思ったのだった。
それから朝食をいただいた。
内容はアレパと卵であった。
アレパはトウモロコシの粉から作られるパンのようなもので、こちらではかなりメジャーな食べ物だ。
日本にいたころに比べると慣れない。
とりあえず空腹は無くなるのだが、食べ慣れないものだからそれほど食欲も湧かなかった。
味に関していえば悪くはない。
しかしこれだけの料理にも金銭の要求があると思うとそう嬉しくもなかった。
それにアレパに乗っていたチーズにも少しの警戒があった。
前回コロンビアに訪れた際に食べたチーズは私の消化器官をいじめてくれたのだ。
しかしこれは広く流通しているものであり、私の食道を可愛がってくれたのは山の上で作られたものである。
そう思うとそれらをまとめて口の中へ放り込んだ。
食事が終わると部屋に戻る。
するといつもついてくる影がある。
一匹の犬。
年老いた犬だ。
私は犬種に詳しくないが、あの小型犬はプードルか何かなのだろう。
目が白くなっていて、殆ど見えていないそうだ。
犬にはよくあることらしい。
慣れない私には少し不気味に思えた。
しかし、私が何かを食べている時なんかは私の足元へやってきて、慣れるととても可愛く思えた。
私の実家には猫がいる。
猫とは兄弟のように仲良くしていた。
それ故に犬とも仲良くなれればいいのにと思った。
荷物の整理をあらかた終えると、再び眠気が襲ってきた。
いっそ昼食の時間まで眠ってしまおうかと考えているところへ、この家のお手伝いをしている人が私の部屋へと訪れた。
彼女はコーヒーを私の元まで運んできたのだ。
多分誰に言われて来たわけでもない。
この家の決まりなのか、この街の決まりなのか、それともこの国の決まりなのかはわからないが、ここにおいての常識と言ったところだろうか。
これもお金を払う必要があるのかはわからないが、淹れたてのコーヒーを断るのも良くないと思い、快く受け取ることにした。
コロンビアのコーヒーはやはり美味い。
それは去年訪れた際にも思ったことである。
酸味の苦手な私には後味を引く果物のような味をあまり好まない。
果物を食べている時ならいいのだが、それをコーヒーには求めていないのだ。
その点ここのコーヒーは飲みやすいのだ。
そこらにある小さなカフェテリアに入っても、大抵どこに行っても好みの味で出てくるだけにコーヒーを頼まない選択肢が無いほどだ。
適度なカフェインが私を覚醒させる。
そうして昼食の時間までスペイン語の教科書のページをめくっていた。
昼食もご馳走になった。
当然これにもお金を払う必要がある。
私がこれほどお金について述べるのにも理由がある。
一つに、ホストファミリーと言うのだからあまりお金の話をしてほしくなかったのだ。
現金を用意して渡すのがあまり好きではない。
後で見たコンプライアンスの書かれた用紙には、「給料から引かれる」と書いてあり、その方が気持ち的に楽だったのだが、ホストファミリーに言われたでもなく、いつの間に現金で渡すのが学校の方針となっていた。
さらに言うなれば初めから食費込みで請求してくれた方が幾分か気分もマシだとも思った。
二つに、他の先生が滞在している家の中には食費を取らないところもあるらしい。
家によって差ができるのはホストファミリーの好意によるものなのだが、他の話を聞くと疑問を覚える点が確かにあるのだ。
そう言うわけで私の待遇と言うのもあまり良くないように感じてしまうのだ。
さて、食事についてだが、基本的に、昼食なんかをみると豆が入っている。
私自身、これが嫌いという訳ではないのだが、何回も食べていると飽きるのである。
まあまあ味が強いのと、独特な風味、そして日本とは違う味付けが原因だろう。
しかし、これを食べるのがコロンビアでは一般的なため、慣れる必要がある。
前述の通りまずいものではない。
ただ飽きるのだ。
食べているうちに慣れるのか、嫌いになるのかを問われれば、「嫌いになる」と答えたくなるが、それは明言すべきではなかったことだと思う。
食事中はホストファミリーから色々な質問をされた。
私は覚えたてのスペイン語を使う絶好の機会であったが、おそらく私の話はあまり通じてなかったのだと思う。
もっと多くの時間をスペイン語に費やす必要がある。
少なくともここで生きていくには必要なことだ。
食事を終えて少し経った頃、再び職場からの電話があった。
一度で済ませてくれればいいものを何度も分けるのは私の体調を案じていたのだと強引に解釈しよう。
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