草稿集

藤堂Máquina

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日本人形

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 話せば長くなるのだけれど一度話しておかねばなるまい。

 私がこの髪の伸び続ける日本人形と対峙しているのは当然「ことの成り行き」だなんて言葉で片付くものではなく歴とした訳がある。

 そもそも私は幽霊だとか超常現象とかを信じるような人間ではない。

 科学的に証明されているものや、その目で見て、理解出来てからそのものを認めることにしているのである。

 もちろんそれは一つの考えで、頭の片隅にはその類のものの存在に期待している部分もある。

 そして私がこの場所に足を踏み込んだ理由というのも恐らくそのようなことをはっきりさせようという考えが無意識に働いたのだろう。

 かれこれ20年ほど生きているもののそういう不思議な経験はしたことはない。

 敷地内に墓地のあるお寺の近くに住んでいるものの何かを見ただとか、寒気がしたとかもない。

 だからと言ってそこに何も存在していないわけでもないようだ。

 昔から霊が目撃されているという話をよく聞く。

 それを踏まえ、幸運というべきか、残念ながらというべきか私には「霊感」と呼ばれるは備わっていない。

 だからこそ「怖いもの見たさ」という言葉が適切であるようにこのような状況を招いたのだ。

 霊感の無い私だ、普通だったら何かが見える訳もない。

 だが日本人形の艶やかな髪は私の目の前でなびきながら伸び続けている。
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