草稿集

藤堂Máquina

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重心移動

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 満員の電車は急激に速度を落とした。

 一瞬の間に重心は前方に偏り、そしてその重みは60キロほどの物体を押しのけるとようやく停車した。

 鈍い音がした。

 誰かがつぶやく。

 誰もが手に持っていた携帯は警察を呼ぶためには使われずにSNSのサーバーが一気に重みを増す。

 不快感と不満感が車内に充満する。

 冷房の効いた車内だが、そこには温度とは別の風が前方から後方へと流れる。

 それに伴って時間を確認していた人々は路線情報を更新し続ける。

 ワンパターンに動く。

 目的地に電話をかける車内には口から放たれる雑言と謝罪が広がっていく。

 それの声を聞く人々の心に暗い影が生まれる。

 どこにも隠すことのできない暗い塊は視線となって外へ放出される。

 目安は30分ほどである。

 後ろの車両は少しはみ出ているものの駅で止まっている。

 乗客たちは流れるように降りると車内が少し軽くなる。

 ブルーシートをかけられたバラバラは質量的に微妙に軽くなったのだが、それを持つ駅員の手は重い。

 駅員たちの頭は重さに耐えきれずに下を向いた。
 
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