草稿集

藤堂Máquina

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反射

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二、三日遠くへ行く用事があってホームで電車を待っていた。

 その日は彼女が駅まで送ってくれるというので一緒に列車を待っていた。 

 いつものように当たり障りのない話をしているうちに私の乗るそれは到着し、私は乗り込んだ。

 吊革に掴まり外を見るとまだ先ほど立っていた場所に彼女の存在を確認できた。

 しかし顔の部分だけガラスが反射してしまって表情がよくわからなかった。

 顔を見るたまに少し角度を変えようと体を動かした瞬間、列車は動き出し駅を後にした。 

 微かな揺れを感じながら考える。

 彼女はどんな表情をしていたのだろうか。 

 もちろんこれが最後の別れになるわけでもなく、数日後に会うわけだからそう考えることでもない。

 ましてや駅まで送ってくれる彼女のことだ、笑顔で送ってくれたにしろ、寂しげな表情でこちらを見ていたにしろ、私が不安になることはないし、焦ることもないことはわかっていた。 

 問題はと言うと彼女から私の表情が見えていたかということだった。

 もちろんやましいことはないのだけれど、顔の見えない彼女に戸惑った表情をしてしまったのではないか、それが余計に不安にさせてしまったのではないか、そう考えてしまうのだ。

 どちらにしろ、宿に着いたら連絡する必要がある。

 彼女の表情がわからないと自分の表情もわからなくなってしまうだなんて、なんでもないガラス一枚が鏡になった瞬間であった。
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