草稿集

藤堂Máquina

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 彼女に会ったのはそれが最後であった。

 未練が全く無いと言えば嘘になるが、それ以上に『悲しい』だとか『寂しい』だとかいう感情は湧いて来なかった。

 もしかしたら心のどこかで再会を期待していたのかもしれないし、口では強がっていたものの、幸福を願ってしまっていたのかもしれない。

 それ故にネガティブな感情が私の心を占める割合というのはそう大きなものではなかった。

 だが皮肉にもこれらの考えを肯定したものはつい先日の知らせであった。

 彼女は亡くなったようだ。

 理由は聞いていない。

 通夜に参加すると私は少しばかりの泪を流した。

 別れた時にもう二度と会わないと誓ったはずなのに、それが確定してだけなのに、どうしてこうも違った感情が生まれるものなのだろうか。

 私は弱く、一方で無表情を装って帰路に着いた。
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