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潮騒
しおりを挟む潮風の影響だろうか。
ところどころ錆びたじめじめしたトンネルを抜けると眩しい海が広がっていた。
真昼の日差しはミラーに反射して肌を撫でる。
運転すること二時間。
約一年ぶりに目にした光景に思わず少しだけ窓を開けた。
冷房の効いていた車内に外の熱気が流れ込む。
一瞬の不快感はもう片方の窓から抜け、洗練された爽快な海風だけが通り過ぎてゆく。
車は一度信号で止まる。
ブレーキの衝撃で助手席で眠っていた葉子が目を覚ます。
彼女は外の光に気が付くと窓をいっぱいに開けた。
目をつぶりたくなるような強い風が流れるとそれは彼女の声をさらった。
実のところ少しは聞き取れたのだがわざと聞こえなかったふりをして彼女の様子をうかがった。
彼女はまだ声の吸い込まれていった先を見ては、余計に音のない言葉を風に放つのだった。
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