蛙鳴蝉噪

藤堂Máquina

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赤と青

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時間はゆっくりと進んでいる。
透明な器に液体を注ぐ。
葡萄から作られたアレだ。
右手でボトルの口を掴むとそのまま僅かに傾ける。
左手のグラスでそれを受け止めると少しだけ回してみる。
硝子のそれからは仄かに酸味を帯びた香りを漂わせる。
腕を持ち上げてそれを運ぶと唇につける。
更に腕を動かすだけでワインは喉元へ垂れていく。
柔らかく喉を刺激した後に口元を自由にする。
紫が私の頬を伝う。
小さな紙でそれを拭き取る折りたたんで手から離す。
内臓を潤したのは掌に収まるような量だ。
あっという間に無くなってしまった。
注ぎなおす必要がある。
面倒な所作だ。
時に人はそれを「贅沢」とも言うらしい。
ナイトテーブルにそれを置くと足を組みなおす。
電灯に手を伸ばす。
明かりを弱くすると暗い世界への視界はその鮮明さを増す。
部屋の隅から黒が近寄ってくる。
細い足が規則的に動く。
後ろ足に力を入れると私の元へと飛ぶ。
膝に衝撃が走る。
爪が刺さる。
赤が滴る。
カーペットの赤が赤になる。
暗室だ。
もしかしたら私に寄るそれは灰色だったのかもしれない。
湿度を覚えた布はそれを分け与えようと小さくまとまる。
乾けばきっと見えなくなるだろう。
汚れているとも思わない程度のシミだ。
きっと他にも見えない色で染められているのだろう。
床から目を離すと数キロの重みを思い出した。
彼は一瞬こちらの顔をみると小さく丸くなった。
暗がりから出るとやはりそれは灰色であった。
瞳は青だ。
華奢なそれは私の体に負担を与えなかった。
動けなくなった私は再び喉の渇きを思い出す。
望む物は手の届く範囲にある。
腕を伸ばすと指先にそれは触れた。
しかしバランスを崩した。
滑り落ちて床に寝る。
割れなかったのは不幸中の幸いと言えよう。
元々中身なんて殆ど無かった。
容器の中で跳ねたそれは紫の中を一泳ぎしてから顔を出す。
ドロっと零れる。
白い床に広がる。
濃いピンクにも見える。
それはカーペットまで手を伸ばす。
縁を辿ると次第に力を失った。
灰色はすっかり黒だ。
再び腕を伸ばす。
堅い胴を持ち上げると残りを移し一息の内に飲み干す。
興覚めだった。
そして器も再び色を失った。
私の視線を跳ね返して黒だったようにも見えた。
光る傘を無視すると窓に目を向ける。
広がるのは都会の青だ。
今日も星は見えない。
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