蛙鳴蝉噪

藤堂Máquina

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朝もや

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悪夢から目覚めたあさというものは
どうしてこうも眩しいのだろうか
それがとても美しいということではない
むしろ不快でたまらないのだ
真っ暗な寝室のカーテンの隙間から
手を伸ばすあいつは
広い世界の中のほんのちっぽけな自分という存在を
嫌というほど知らしめてくるのだ
まだうまく働かない頭では
自分のことを認識するほどの
高尚な視点を持つことができない
客観なんてものは人類にのみ与えられた
ある種特権のようなものであるのだろうが
その時の無力な私にとってはそれを放棄する他ない
人間というものに戻るにはまだ時間を要する
思い出したかのように時計の針は歩みを続ける
一秒間に一コマだけの歩幅も
今は
時間という壮大な世界の一端だけを認識するしかない残念な私に
暗闇の寂しさ思い出させる
再び目を開けると
そこは何もないだけの薄暗い四角が続いている
そういえば私には
手足が生えている
きっと足もだ
火照った体にとってはもはや「重さ」だけとなった毛布を
鈍い感覚で押しのける
思った以上に器用には動かない
なんてかわいそうな生き物だ
たった二本しか持たぬ腕にすら自由を与えてやれないなんて
今度は足に力を込める
バタバタと鳴く乱暴な足は
宙を蹴るだけのように
その動きに意味をもたない
毛布は踊る、されどそこから離れようとはしない
もやを掴むように
するりと抜けては再び体に絡みつく
なんてこともないように
幾度も翻るのだ
今度はそれすら諦める
遂にはそれと別れることを選ばず
体をひねってベッドの下へと体を運ぶ
ベッドはそう高くはないものの
痛みはないこともない
天井に手を伸ばしてみたところで
その境界はわからない
白いはずが、この時間というのは単に青いだけなのかもしれない
枕元から音がする
アラームの音
そこでようやく目が覚める
きっと今までのだって悪夢の一部だったのだ
カーテンとカーテンはわたしを遮る何かだ
奴らを引き裂くと
明るい森へと向かっていった。
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