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第3部 他殺か心中か
囚われの幼馴染
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2003年12月27日
涼平と喫茶店で別れ、小山夏美は本来の予定である病院に向かった。トラが入院している総合病院だ。トラこと神崎一虎は夏美に取って幼馴染で、昔から何かと頼りになる存在だった。だが、今は拳銃で胸を撃たれて意識不明の重体となり、もう三ヶ月近くもペースメーカーに繋がれたまま眠っている。夏美は彼の病室にできる限り日参していた。
猛々しかった容貌が日に日に痩せていき、いつ覚めるとも分からない蒼白な顔を眺めていると、泣きそうになる。それは辛いことだったが、よう、と何事も無かったようにいつか目覚めるのではないかと、それだけを期待して毎日訪れていた。
「夏美ってさあ、トラのこと好きなんちゃうん?」
開け放った窓枠に腰掛け、夜風に銀髪を揺らしながら、加代が聞いた。夏美はピクついた眉を押さえ、引きつりかけた頬を誤魔化すように微笑んで見せる。
「もちろん好きよ。拓也も、クロもね」
名前を二つ足したのはわざとらしかったな、と思う。加代は口数こそ少ないが、人の心の機微には敏感なのだ。
「ふう~ん」
こちらを向いた加代の目は髪と同じ銀色に光り、少女から大人の女へと移行しようとするその姿は、月をバックにして見るとまるで幽玄な一匹の妖かしのようだった。
「私はね、夏美が、好きよ」
あれは夏美が中学を卒業する年のことだった。夏美たちが住む幸寿荘にはベランダが無い。細長く茶色いミルフィーユのような二階建ての棟が東西に二つ、ドンと構えているだけだ。夏美の住む東棟の窓からは東側は民家で西側はこの西棟が見えるだけなので眺望は絶望的。それに対して今いる加代の住む西棟の二階は西に開けていてまだ開放感があった。
夏美は物心ついた頃から中学を卒業するまでの間、池橋市にある文化住宅に住んでいた。築年数半世紀は経っているだろうというその縦長の住居には東西の二棟を合わせて四十ほどの世帯が暮らしていて、みんな貧乏だったが仲は良かった。
そしてそこには夏美と同い年の加代とまひるの二人の女の子が住んでおり、三人でよく一緒に遊んだ。母子家庭だった加代のお母さんは水商売をやっていて、夜は加代だけになるのをいいことに夜になると毎晩のようにまひるとお泊りに行き、三人でよくガールズトークに花を咲かせた。
幸寿荘にはトラとクロという二人の同い年の男の子もいた。後に近くの一戸建ての家に越してきた拓也も加わり、夏美たち六人は小学校が終わった放課後はいつも集まって遊んだ。
特に好きだったのは「盗っ人探偵」という鬼ごっことかくれんぼを融合させたような遊びで、トラなんかはそこから発展させて自分たちを探偵団だと名乗り、身の回りの出来事に不審な点があると謎解き遊びのテーマにしたりした。ある日、加代の家の扉に悪質な落書きがあった時なんかはトラが指揮を取り、犯人を探した。そして当時小学校低学年だった加代のクラスメイトの男の子が犯人だと分かり、加代に謝らせて落書きも消させた。後で分かったことだが、犯人を割り出せたのは結局トラが腕力に物を言わせたからで、推理なんかではなかった。加代はいわゆる韓国系二世で、その頃はそういう人種差別への意識がまだ低く、加代はクラスでいじめに遭っていて、そいつらの中に犯人の目星をつけるのは容易だったのだ。
トラはそんな風に、夏美たち六人の中ではリーダー的存在だった。拓也は頭が良くて格好良かったし、クロはいつも冷静沈着で相談相手としては重宝したけど、腕っぷしの強かったトラが一番頼り甲斐があり、弱い者虐めにも果敢に立ち向かうトラのことが夏美も大好きだった。
正直、小学校高学年くらいからは男としても意識していたと思う。
だけど自分たちの中には太陽のような存在のまひるがいて、トラもきっとまひるが好きなのだと思っていた。まひるは学校でも幸寿荘でもアイドルのような存在で、屈託のないキラキラした笑顔を夏美も羨望の眼差しで見ていた。
だから、中学三年の夏、まひるが亡くなった時には夏美もショックだった。警察は自殺だと判断したが、トラや拓也はそれを信じず、子どもの頃のように探偵団を名乗って犯人を突き止めると息巻いていた。
夏美と加代はというと、その頃幸寿荘をマンションに建て直すという話が持ち上がっていて、各家々には好条件での立ち退きの要請がされており、二人の家もそれに乗って中学を上がると同時に引っ越すことになっていた。そして二人とも、まひるが亡くなったことは悲しかったけれど、過去に拘ることよりも未来に思いを馳せる方に意識が向いていた。
「私はね、夏美が、好きよ」
加代が夏美にそう言ったのは、夏美が幸寿荘を引っ越すという前日に、加代の家に最後のお泊りに行った時だった。
うん、知ってるよ。
夏美は心の中で呟いた。加代は、女の子が好きな女の子、そのことを薄々気づいていた。
「私は、トラが好きだったかも」
加代が打ち明けたので、夏美も打ち明けた。口に出すと胸にチクリと棘が刺さっているような感じがして、その想いは間違いなかったのだと思い知らされた。だけど、行動を起こす気にはなれなかった。
それから結局幸寿荘は取り壊されることとなり、五人はバラバラに進学した。トラは女子禁制の商業高校へ行き、拓也とクロは自分たちの学区ではトップクラスの進学校に合格した。夏美は偏差値で言うと真ん中へんの普通校、加代は女子高に通うことになっていた。
「なあ?」
加代が神妙な顔をする。
「うん、何?」
「私ら幼馴染み、バラバラになっても、私と夏美だけは一緒にいような」
「もう、何真面目な顔で言ってんのよ。当たり前やんか」
「そっか。よかった」
加代が手を差し延べてきたので、優しくそれに合わせる。
「ここでの暮らし、楽しかったな」
そしてにっこりと微笑み、私は、まひるの三人で川の字で寝た日々に思いを馳せ、若くして失われた命にまつ毛を伏せ、その彼女をいつまでも想っているトラにペーソスを抱いた。
加代との約束通り、夏美と加代は高校生になってもよくツルンで遊び、高校を卒業後は二人してキャバ嬢になった。夏美は源氏名も夏美と名乗ったが、加代は源氏名を玲緒と変え、プライベートでもその名前で呼ぶようにと言った。加代という名前は捨ててしまいたいようだった。
男連中はというと、拓也は大阪の国立大、クロは有名私学に進学し、トラはよく分からない間に事業主になっていた。リーダーシップのあるトラには、学業よりもそっちの方が似合っていると思えた。そして全員が社会人になると、クロはなぜか北新地の高級クラブの黒服になり、トラはトラで新地にナイトの店をオープンさせた。そして夏美と加代がクロの働くクラブへ入店することによって、また五人が北新地で集結することとなる。拓也だけは建設会社に就職して普通のサラリーマンになっていたが、結局拓也も社長に気に入られて新地で飲み歩くようになり、それぞれ立場は違えど、北新地の地で旧交を温め直すことになったのだ。
だがそれも束の間だった。玲緒は薬物所持で警察に捕まり、現在刑務所にいる。トラは銃弾に倒れて意識不明の重体となり、拓也に至っては車で河に突っ込んで命を落とした。六人のうち、五体満足で動き回れるのは自分とクロの二人だけになってしまった………
一体、なぜこんなことになってしまったんだろうと思う。
夏美は中学を卒業してから社会人になるまでの十年弱の間はそれぞれ別々の道を歩んでいると思っていた。だが実際は五人とも、いや、亡くなったまひるでさえも、幸寿荘という長屋のあった土地に縛られて生きていたのではないかという気がしている。
トラの父親は広域指定暴力団である神代組の幹部で、池橋市の地上げで儲けてのし上がった人物だった。トラがどこまで地上げに関わっていたのか夏美は詳しく知らないが、彼の収入源である十三のビルを手に入れたのは、多かれ少なかれ父親の事業に関連してのことだと聞いた。
また、拓也もただ普通のサラリーマンとして就職したわけではなく、まひるの死因をずっと探り続け、その延長線上でフジケン興業に入社したのだということも知った。
玲緒はトラのビルのテナントの一つを占める風俗店を仕切る立場としてトラに雇われることとなったが、後にトラが逮捕されるきっかけを作ることになった。玲緒は詳しいことを夏美にも隠していたが、そこにはあの土地に絡んだきな臭い陰謀の臭いがしている。
そして、夏美がそれらの情報を知ることになったのは、キャバ嬢の頃に付き合うことになった男から聞いたからだった。
トラは色恋について多くは語らなかったが、夏美は彼がずっとまひるに想いを寄せていたと踏んでいる。なので、彼女の死因にもずっと拘っていた。そしてその死因に幸寿荘の地上げが関わっていることを知り、幸寿荘の大家の娘である詩音……大塚志保のことも知った。さらには大塚の後添の子、萌未とも……。
「あなた、萌未のことが好きだったんでしょう?」
今、目の前のベッドで横たわっている真っ白い顔を覗き込みながら聞く。だが、その答えは彼からは返ってこない。
「私はさ、あなたを忘れるために田岡と付き合ったけど、結局忘れられなかったな……」
いつものように、トラに話しかける。だけど今日は、なかなかぶっちゃけちゃったな、と、夏美は頬を赤らめた。そう、自分は当時ボクシングで世界チャンプの道を邁進していた田岡と付き合ったのだったが、一線から身を引いた時、田岡は神代組の用心棒的存在になっていた。そして彼から聞いたのだ、池橋市に纏わるいろいろなことを。
「結局、あなたも、私も、幸寿荘に、そして北新地に囚われちゃったのね」
夏美の吐く息が、空調の音しかしない病室の乾いた空気を湿らせた。
涼平と喫茶店で別れ、小山夏美は本来の予定である病院に向かった。トラが入院している総合病院だ。トラこと神崎一虎は夏美に取って幼馴染で、昔から何かと頼りになる存在だった。だが、今は拳銃で胸を撃たれて意識不明の重体となり、もう三ヶ月近くもペースメーカーに繋がれたまま眠っている。夏美は彼の病室にできる限り日参していた。
猛々しかった容貌が日に日に痩せていき、いつ覚めるとも分からない蒼白な顔を眺めていると、泣きそうになる。それは辛いことだったが、よう、と何事も無かったようにいつか目覚めるのではないかと、それだけを期待して毎日訪れていた。
「夏美ってさあ、トラのこと好きなんちゃうん?」
開け放った窓枠に腰掛け、夜風に銀髪を揺らしながら、加代が聞いた。夏美はピクついた眉を押さえ、引きつりかけた頬を誤魔化すように微笑んで見せる。
「もちろん好きよ。拓也も、クロもね」
名前を二つ足したのはわざとらしかったな、と思う。加代は口数こそ少ないが、人の心の機微には敏感なのだ。
「ふう~ん」
こちらを向いた加代の目は髪と同じ銀色に光り、少女から大人の女へと移行しようとするその姿は、月をバックにして見るとまるで幽玄な一匹の妖かしのようだった。
「私はね、夏美が、好きよ」
あれは夏美が中学を卒業する年のことだった。夏美たちが住む幸寿荘にはベランダが無い。細長く茶色いミルフィーユのような二階建ての棟が東西に二つ、ドンと構えているだけだ。夏美の住む東棟の窓からは東側は民家で西側はこの西棟が見えるだけなので眺望は絶望的。それに対して今いる加代の住む西棟の二階は西に開けていてまだ開放感があった。
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そしてそこには夏美と同い年の加代とまひるの二人の女の子が住んでおり、三人でよく一緒に遊んだ。母子家庭だった加代のお母さんは水商売をやっていて、夜は加代だけになるのをいいことに夜になると毎晩のようにまひるとお泊りに行き、三人でよくガールズトークに花を咲かせた。
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トラはそんな風に、夏美たち六人の中ではリーダー的存在だった。拓也は頭が良くて格好良かったし、クロはいつも冷静沈着で相談相手としては重宝したけど、腕っぷしの強かったトラが一番頼り甲斐があり、弱い者虐めにも果敢に立ち向かうトラのことが夏美も大好きだった。
正直、小学校高学年くらいからは男としても意識していたと思う。
だけど自分たちの中には太陽のような存在のまひるがいて、トラもきっとまひるが好きなのだと思っていた。まひるは学校でも幸寿荘でもアイドルのような存在で、屈託のないキラキラした笑顔を夏美も羨望の眼差しで見ていた。
だから、中学三年の夏、まひるが亡くなった時には夏美もショックだった。警察は自殺だと判断したが、トラや拓也はそれを信じず、子どもの頃のように探偵団を名乗って犯人を突き止めると息巻いていた。
夏美と加代はというと、その頃幸寿荘をマンションに建て直すという話が持ち上がっていて、各家々には好条件での立ち退きの要請がされており、二人の家もそれに乗って中学を上がると同時に引っ越すことになっていた。そして二人とも、まひるが亡くなったことは悲しかったけれど、過去に拘ることよりも未来に思いを馳せる方に意識が向いていた。
「私はね、夏美が、好きよ」
加代が夏美にそう言ったのは、夏美が幸寿荘を引っ越すという前日に、加代の家に最後のお泊りに行った時だった。
うん、知ってるよ。
夏美は心の中で呟いた。加代は、女の子が好きな女の子、そのことを薄々気づいていた。
「私は、トラが好きだったかも」
加代が打ち明けたので、夏美も打ち明けた。口に出すと胸にチクリと棘が刺さっているような感じがして、その想いは間違いなかったのだと思い知らされた。だけど、行動を起こす気にはなれなかった。
それから結局幸寿荘は取り壊されることとなり、五人はバラバラに進学した。トラは女子禁制の商業高校へ行き、拓也とクロは自分たちの学区ではトップクラスの進学校に合格した。夏美は偏差値で言うと真ん中へんの普通校、加代は女子高に通うことになっていた。
「なあ?」
加代が神妙な顔をする。
「うん、何?」
「私ら幼馴染み、バラバラになっても、私と夏美だけは一緒にいような」
「もう、何真面目な顔で言ってんのよ。当たり前やんか」
「そっか。よかった」
加代が手を差し延べてきたので、優しくそれに合わせる。
「ここでの暮らし、楽しかったな」
そしてにっこりと微笑み、私は、まひるの三人で川の字で寝た日々に思いを馳せ、若くして失われた命にまつ毛を伏せ、その彼女をいつまでも想っているトラにペーソスを抱いた。
加代との約束通り、夏美と加代は高校生になってもよくツルンで遊び、高校を卒業後は二人してキャバ嬢になった。夏美は源氏名も夏美と名乗ったが、加代は源氏名を玲緒と変え、プライベートでもその名前で呼ぶようにと言った。加代という名前は捨ててしまいたいようだった。
男連中はというと、拓也は大阪の国立大、クロは有名私学に進学し、トラはよく分からない間に事業主になっていた。リーダーシップのあるトラには、学業よりもそっちの方が似合っていると思えた。そして全員が社会人になると、クロはなぜか北新地の高級クラブの黒服になり、トラはトラで新地にナイトの店をオープンさせた。そして夏美と加代がクロの働くクラブへ入店することによって、また五人が北新地で集結することとなる。拓也だけは建設会社に就職して普通のサラリーマンになっていたが、結局拓也も社長に気に入られて新地で飲み歩くようになり、それぞれ立場は違えど、北新地の地で旧交を温め直すことになったのだ。
だがそれも束の間だった。玲緒は薬物所持で警察に捕まり、現在刑務所にいる。トラは銃弾に倒れて意識不明の重体となり、拓也に至っては車で河に突っ込んで命を落とした。六人のうち、五体満足で動き回れるのは自分とクロの二人だけになってしまった………
一体、なぜこんなことになってしまったんだろうと思う。
夏美は中学を卒業してから社会人になるまでの十年弱の間はそれぞれ別々の道を歩んでいると思っていた。だが実際は五人とも、いや、亡くなったまひるでさえも、幸寿荘という長屋のあった土地に縛られて生きていたのではないかという気がしている。
トラの父親は広域指定暴力団である神代組の幹部で、池橋市の地上げで儲けてのし上がった人物だった。トラがどこまで地上げに関わっていたのか夏美は詳しく知らないが、彼の収入源である十三のビルを手に入れたのは、多かれ少なかれ父親の事業に関連してのことだと聞いた。
また、拓也もただ普通のサラリーマンとして就職したわけではなく、まひるの死因をずっと探り続け、その延長線上でフジケン興業に入社したのだということも知った。
玲緒はトラのビルのテナントの一つを占める風俗店を仕切る立場としてトラに雇われることとなったが、後にトラが逮捕されるきっかけを作ることになった。玲緒は詳しいことを夏美にも隠していたが、そこにはあの土地に絡んだきな臭い陰謀の臭いがしている。
そして、夏美がそれらの情報を知ることになったのは、キャバ嬢の頃に付き合うことになった男から聞いたからだった。
トラは色恋について多くは語らなかったが、夏美は彼がずっとまひるに想いを寄せていたと踏んでいる。なので、彼女の死因にもずっと拘っていた。そしてその死因に幸寿荘の地上げが関わっていることを知り、幸寿荘の大家の娘である詩音……大塚志保のことも知った。さらには大塚の後添の子、萌未とも……。
「あなた、萌未のことが好きだったんでしょう?」
今、目の前のベッドで横たわっている真っ白い顔を覗き込みながら聞く。だが、その答えは彼からは返ってこない。
「私はさ、あなたを忘れるために田岡と付き合ったけど、結局忘れられなかったな……」
いつものように、トラに話しかける。だけど今日は、なかなかぶっちゃけちゃったな、と、夏美は頬を赤らめた。そう、自分は当時ボクシングで世界チャンプの道を邁進していた田岡と付き合ったのだったが、一線から身を引いた時、田岡は神代組の用心棒的存在になっていた。そして彼から聞いたのだ、池橋市に纏わるいろいろなことを。
「結局、あなたも、私も、幸寿荘に、そして北新地に囚われちゃったのね」
夏美の吐く息が、空調の音しかしない病室の乾いた空気を湿らせた。
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