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第3部 他殺か心中か
死刑執行(※グロ注意)
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スケバン女がまるで試合の終わった柔道選手が道場を後にするように、深々と頭を下げて部屋から出ていく。
後から入ってきた男たちの先頭にいたスキンヘッドの男は庭木用のラチェット式大枝切りバサミを持っており、出来島に近づくとそのハサミを出来島の手首に当てた。
「カシラ、ケジメの品、いただきます!」
そうだ、スキンヘッドの男は確か、出来島と同じ野崎組の組員だった───
翔伍は思い出す。あれは去年の秋口のまだ残暑厳しい日、トラを罠に嵌めようと廃工場に隆二と小南彩香を監禁していた。彩香からの電話を受けた萌未が動き出し、それを察知した翔伍も後をつけた。そして萌未が工場に着いてから間もなく、目論見通りトラが現れ、翔伍が仕込んだ大力お抱え暗殺集団の銃弾に倒れた。
本来、ヤクザが誰かを始末する際、見せしめにする場合を除き、死体は跡形も残らないようにする。役所に届けずとも火葬してくれる斎場を抑えていたり、化学薬品を用いて死体を跡形もなく解体したりとその方法は各組ごとにいろいろあるが、トラ抹殺の場に選んだ廃工場は本来、暗殺部隊が死体を処理するための設備だった。なので事が成った暁には隆二と彩香も殺害し、トラの遺体と一緒に解体し、海に流す手筈だった。そして残った萌未は、薬漬けにして翔伍の手中に収まる予定だったのだ。だがあの日、そんな時間を与えず野崎組が乗り込んできたため、隆二と萌未は開放せざるを得なかった。
今、ガラスを隔てて翔伍の目の前にいるスキンヘッドの男、あの廃工場に乗り込んできた野崎組の先頭にいたのも、彼だった。今なら分かる、あの男は、野崎組に潜入していたスパイだったのだ、と───。
スキンヘッドはハサミの柄に力を込めると手首をそのまま切り落としにかかった。ヤクザの指切りは聞いたことがあるが、手首とはさすがにやり過ぎではないかとも思ったが、すでに出来島は男根を千切り落とされているのだ、今更手首などどうということはない……いや、スピーカーの声は死刑執行と言っていた。ここは死体解体も兼ねた施設で、生きたまま出来島を解体しようとしているのかもしれない──
ギリギリと骨を切る音がし、翔伍は全身の毛を泡立てた。さすがの翔伍も、その凄惨さに戦慄した。目覚めた出来島の声が耳をつんざく。
「グアァァ!ま、又市!何をするんや!」
「カシラ、いや、出来島さん、もうあんたは野崎の人間やない。親父から破門状が出てます。そんで今日は落とし前をつけてもらいに来ました」
スキンヘッドが言い終えると、パキン、と手首が切れ、出来島はその反動でダランと手首の無くなった腕を垂らして前のめりになった。男のうちの一人が落ちた手首を桐の箱に丁寧に入れている。スキンヘッドはすかさずもう一方の手首に鋏を当てた。
「や…めろ……も、もう、じゅう…ぶんやろ……」
出来島はすでに虫の息だ。スキンヘッドは要領を得たのか、今度は早めにもう一方の手首を切り落とす。と同時に支えの無くなった出来島は前に倒れ、勢いよく頭を床にぶつけた。落ちた手首は桐の箱を持つ男とは別の男が持っていたビニール袋に無造作に放り込んだ。きっと片方の手首だけを戦利品として持ち帰るのだろう。残りの部位の扱いはぞんざいだった。スキンヘッドは次に足首に鋏を当てる。出来島は出血で意識が朦朧としてきたのか、もう声を上げることなくぐったりしていた。
「ぐ…ぎぃ……いぃぃ……」
足首は少し手こずっていた。出来島が断末魔のような声を上げる。が、その声は脆弱で、濁りきっていた。何とか一方の足首を切り、最後の足首に取り掛かる。切られた足はまた無造作にビニール袋に詰められた。
「こ…ころして……くれ。もう、殺して…くれ…」
出来島が何とか声を振り絞ってそう言い終えた時、もう一方の足首が切り落とされた。スキンヘッドがふうっと一息つき、また切り離され足首がビニールに放り込まれる。手首も足首も全て切り落とされた出来島は赤ん坊のように床に横たわり、四肢の先から血を垂れ流していた。残りの二人の男たちが出来島の脇と両腿を抱えて退場していく。スキンヘッドが出ていく間際、チラッと翔伍に目をやりニヤリとしたが、特に言葉は吐かなかった。そしてガチャリ、と部屋を隔てている壁際のスチールの扉の鍵が開く音がした。
辺りはまた静かになり、空調の乾いた音だけが流れていた。翔伍は疲れて重くなった身体を起こし、スチールの扉に向かう。そして扉を開けると、さっきまで出来島のいた部屋へと足を踏み出した。出来島が繋がれていた壁際から血の海が広がっており、鉄臭いの匂いが鼻を襲った。
死刑執行………
もはや翔伍もその対象なのは確実だった。翔伍は部屋を見渡す。入ってきた扉と、男たちが出ていった扉以外には抜けられそうな所は無さそうだ。天井に吊されたカメラがこちらを見据えていた。
スキンヘッドたちが出て行った扉を開け、覗いてみる。やはり白い通路が部屋沿いに伸び、そこにはもう人の気配は無く、冷たい通り風が頬を撫でた。恐る恐る通路を進むとまた大きな防災壁が道を塞ぎ、その前に同じように台上に置かれた寄木細工の箱があった。箱を繰ってバラすと例によって一枚の写真と鍵が出てきた。写真には小学生低学年くらいの男女六人が明るい日差しの中でまばゆい笑顔を向けている。
翔伍のよく知る六人だった。その一人は翔伍だ。そして一虎、拓也、夏美、加代…それにまひるだ。翔伍の幼馴染みたち。よくこんな写真があったなと思う。翔伍がその写真を見るのは初めてだった。
この写真は翔伍たちが住んでいた池橋市の北のハイキングコースになっている公園に訪れた時に撮った物だろう。まひるの父親がよく遊びに連れて行ってくれたことを、今更ながらに思い出した。
翔伍はその写真をスーツのポケットに仕舞い、防火壁の扉に鍵を差した。いよいよ次は自分の番か……そんな思いが胸を過ぎり、生唾を飲んだ。そしてゆるゆると扉を開く。だがその先にはまた通路があり、ジリジリとした思いで進むと今度は荷物用のエレベーターが口を開いて待っていた。エレベーターの箱の中に入ると目の前の壁に操作パネルのようなプレートが張り付いている。ボタンは無く、代わりに何かをはめ込むような窪みがある。何かを差し込むようになっており、おそらくそれが無いと動かないのだろう。パネルの前にはまた台座が置いてあり、その上には寄木細工の箱があった。
一体何故この様なまどろっこしい手順を踏ませているのだろうか?これが遊園地のアトラクションであったなら少しは楽しめたかもしれないが、先程の出来島に対する残酷な仕打ちを見せられた後ではもはや苦痛でしかない。苦々しい思いで寄木細工を弄ると、やはり一枚の写真と、赤くて丸いプラスティックの部品が出てきた。
写真には年配の女性と小さな女の子が写っている。女の子の小学校の入学式の記念に撮った物だろうか、紺色の制服を着て微笑む女の子の肩に手を乗せ、母親と思しき女性も目を細めている。そのやや化粧濃い目の母親の顔を、翔伍はよく知っていた。出来島に紹介され、クラブ若名で一緒に働くことになった綺羅ママだ。店では常に化粧の濃い顔を歪めて配置の自分に吠えていた印象しかないが、娘の前ではこんなにも穏やかな顔が出来るのだな……。
数秒写真を眺めてからまたポケットに仕舞い、赤い部品を操作パネルに差し込んだ。それはスイッチのボタンだったらしく、押し込むとガタンとエレベーターが揺れ、搬入口が閉まって動き出した。重力が加わり、箱が上へと進んでいるのが分かる。やがてガタンと揺れて止まり、今度は入ってきた搬入口を背に左手の壁が開く。そこから細い通路を進むと、観覧車のゴンドラのような、四面がガラス張りになっている小さなボックスが口を開けていた。
早く終わらせてくれ、そんな思いでボックスに乗り込んだ。こんな大仰な施設から脱出できるとは思えず、すでに諦めの境地に入っていた。中に入ると前後左右真っ暗な空間が広がっていて、その暗闇に圧迫された。唯一、入った扉と反対側に操作パネルのような画面が光っており、さっきのエレベーターと同じように差込口の穴がある。そしてやはり、寄木細工の箱がその手前に鎮座していた。
翔伍にはすでにその中にどんな写真が仕込まれているのか予想がついていた。そして、箱を操って出てきた写真を見て、その予想が当たっていたことを確認した。そこに写っていたのは優しそうに微笑んだ中学生くらいの女の子と、眼鏡をかけた仏頂面の小さな女の子だった。どこかの遊園地で撮ったのだろう、その二人は姉妹で、姉の方は詩音、そして妹の方はおそらく萌未だ。どちらも若名で自分が担当した女性だ。
それぞれの写真が示すもの………それは、翔伍がこれまでに手をかけてきた人間たちだった。一枚目は彩香、二枚目にまひるとトラ、そして拓也。三枚目が詩音だ。おそらくそれらの写真を仕掛けた者は、翔伍の洗脳能力のことを知っている。いや、もはやこの施設にいる人間全てに、翔伍の正体はバレているのだろう……。
さて、いよいよ始まるか───翔伍は覚悟を決め、写真と一緒に入っていた部品を操作パネルに差し込む。そしてそれを押すと、後部の扉が閉まると同時にボックス全体が今度は前方へと動き出す。十メートルほど進んだだろうか、ボックスは宙空でピタリと止まり、それと同時に下方の空間を四方のライトが一斉に照らす。翔伍の乗るボックスは体育館のような広い空間に宙吊りになっているのが分かった。すぐ下にはサッカーゴールのように二つに区切られたスペースがあり、センターラインの真上のド真ん中にボックスは位置している。右下の区画には一人の男が、左下の区画には数人の男たちが全員全裸で立っていた。そして、ボックスの真正面には周囲の壁から突き出た長細い部屋があり、ガラスを張られた窓際に様々な仮面を被った男女十数人がこちらをじっと伺っていた。
『これより、虎舞羅を偽った者たちの死刑を執行します。執行者は新見六紗子及び荒牧鷹八』
またあの無機質な声が、館内に響き渡る。が、今度の宣告でも翔伍の名前は呼ばれなかった。
後から入ってきた男たちの先頭にいたスキンヘッドの男は庭木用のラチェット式大枝切りバサミを持っており、出来島に近づくとそのハサミを出来島の手首に当てた。
「カシラ、ケジメの品、いただきます!」
そうだ、スキンヘッドの男は確か、出来島と同じ野崎組の組員だった───
翔伍は思い出す。あれは去年の秋口のまだ残暑厳しい日、トラを罠に嵌めようと廃工場に隆二と小南彩香を監禁していた。彩香からの電話を受けた萌未が動き出し、それを察知した翔伍も後をつけた。そして萌未が工場に着いてから間もなく、目論見通りトラが現れ、翔伍が仕込んだ大力お抱え暗殺集団の銃弾に倒れた。
本来、ヤクザが誰かを始末する際、見せしめにする場合を除き、死体は跡形も残らないようにする。役所に届けずとも火葬してくれる斎場を抑えていたり、化学薬品を用いて死体を跡形もなく解体したりとその方法は各組ごとにいろいろあるが、トラ抹殺の場に選んだ廃工場は本来、暗殺部隊が死体を処理するための設備だった。なので事が成った暁には隆二と彩香も殺害し、トラの遺体と一緒に解体し、海に流す手筈だった。そして残った萌未は、薬漬けにして翔伍の手中に収まる予定だったのだ。だがあの日、そんな時間を与えず野崎組が乗り込んできたため、隆二と萌未は開放せざるを得なかった。
今、ガラスを隔てて翔伍の目の前にいるスキンヘッドの男、あの廃工場に乗り込んできた野崎組の先頭にいたのも、彼だった。今なら分かる、あの男は、野崎組に潜入していたスパイだったのだ、と───。
スキンヘッドはハサミの柄に力を込めると手首をそのまま切り落としにかかった。ヤクザの指切りは聞いたことがあるが、手首とはさすがにやり過ぎではないかとも思ったが、すでに出来島は男根を千切り落とされているのだ、今更手首などどうということはない……いや、スピーカーの声は死刑執行と言っていた。ここは死体解体も兼ねた施設で、生きたまま出来島を解体しようとしているのかもしれない──
ギリギリと骨を切る音がし、翔伍は全身の毛を泡立てた。さすがの翔伍も、その凄惨さに戦慄した。目覚めた出来島の声が耳をつんざく。
「グアァァ!ま、又市!何をするんや!」
「カシラ、いや、出来島さん、もうあんたは野崎の人間やない。親父から破門状が出てます。そんで今日は落とし前をつけてもらいに来ました」
スキンヘッドが言い終えると、パキン、と手首が切れ、出来島はその反動でダランと手首の無くなった腕を垂らして前のめりになった。男のうちの一人が落ちた手首を桐の箱に丁寧に入れている。スキンヘッドはすかさずもう一方の手首に鋏を当てた。
「や…めろ……も、もう、じゅう…ぶんやろ……」
出来島はすでに虫の息だ。スキンヘッドは要領を得たのか、今度は早めにもう一方の手首を切り落とす。と同時に支えの無くなった出来島は前に倒れ、勢いよく頭を床にぶつけた。落ちた手首は桐の箱を持つ男とは別の男が持っていたビニール袋に無造作に放り込んだ。きっと片方の手首だけを戦利品として持ち帰るのだろう。残りの部位の扱いはぞんざいだった。スキンヘッドは次に足首に鋏を当てる。出来島は出血で意識が朦朧としてきたのか、もう声を上げることなくぐったりしていた。
「ぐ…ぎぃ……いぃぃ……」
足首は少し手こずっていた。出来島が断末魔のような声を上げる。が、その声は脆弱で、濁りきっていた。何とか一方の足首を切り、最後の足首に取り掛かる。切られた足はまた無造作にビニール袋に詰められた。
「こ…ころして……くれ。もう、殺して…くれ…」
出来島が何とか声を振り絞ってそう言い終えた時、もう一方の足首が切り落とされた。スキンヘッドがふうっと一息つき、また切り離され足首がビニールに放り込まれる。手首も足首も全て切り落とされた出来島は赤ん坊のように床に横たわり、四肢の先から血を垂れ流していた。残りの二人の男たちが出来島の脇と両腿を抱えて退場していく。スキンヘッドが出ていく間際、チラッと翔伍に目をやりニヤリとしたが、特に言葉は吐かなかった。そしてガチャリ、と部屋を隔てている壁際のスチールの扉の鍵が開く音がした。
辺りはまた静かになり、空調の乾いた音だけが流れていた。翔伍は疲れて重くなった身体を起こし、スチールの扉に向かう。そして扉を開けると、さっきまで出来島のいた部屋へと足を踏み出した。出来島が繋がれていた壁際から血の海が広がっており、鉄臭いの匂いが鼻を襲った。
死刑執行………
もはや翔伍もその対象なのは確実だった。翔伍は部屋を見渡す。入ってきた扉と、男たちが出ていった扉以外には抜けられそうな所は無さそうだ。天井に吊されたカメラがこちらを見据えていた。
スキンヘッドたちが出て行った扉を開け、覗いてみる。やはり白い通路が部屋沿いに伸び、そこにはもう人の気配は無く、冷たい通り風が頬を撫でた。恐る恐る通路を進むとまた大きな防災壁が道を塞ぎ、その前に同じように台上に置かれた寄木細工の箱があった。箱を繰ってバラすと例によって一枚の写真と鍵が出てきた。写真には小学生低学年くらいの男女六人が明るい日差しの中でまばゆい笑顔を向けている。
翔伍のよく知る六人だった。その一人は翔伍だ。そして一虎、拓也、夏美、加代…それにまひるだ。翔伍の幼馴染みたち。よくこんな写真があったなと思う。翔伍がその写真を見るのは初めてだった。
この写真は翔伍たちが住んでいた池橋市の北のハイキングコースになっている公園に訪れた時に撮った物だろう。まひるの父親がよく遊びに連れて行ってくれたことを、今更ながらに思い出した。
翔伍はその写真をスーツのポケットに仕舞い、防火壁の扉に鍵を差した。いよいよ次は自分の番か……そんな思いが胸を過ぎり、生唾を飲んだ。そしてゆるゆると扉を開く。だがその先にはまた通路があり、ジリジリとした思いで進むと今度は荷物用のエレベーターが口を開いて待っていた。エレベーターの箱の中に入ると目の前の壁に操作パネルのようなプレートが張り付いている。ボタンは無く、代わりに何かをはめ込むような窪みがある。何かを差し込むようになっており、おそらくそれが無いと動かないのだろう。パネルの前にはまた台座が置いてあり、その上には寄木細工の箱があった。
一体何故この様なまどろっこしい手順を踏ませているのだろうか?これが遊園地のアトラクションであったなら少しは楽しめたかもしれないが、先程の出来島に対する残酷な仕打ちを見せられた後ではもはや苦痛でしかない。苦々しい思いで寄木細工を弄ると、やはり一枚の写真と、赤くて丸いプラスティックの部品が出てきた。
写真には年配の女性と小さな女の子が写っている。女の子の小学校の入学式の記念に撮った物だろうか、紺色の制服を着て微笑む女の子の肩に手を乗せ、母親と思しき女性も目を細めている。そのやや化粧濃い目の母親の顔を、翔伍はよく知っていた。出来島に紹介され、クラブ若名で一緒に働くことになった綺羅ママだ。店では常に化粧の濃い顔を歪めて配置の自分に吠えていた印象しかないが、娘の前ではこんなにも穏やかな顔が出来るのだな……。
数秒写真を眺めてからまたポケットに仕舞い、赤い部品を操作パネルに差し込んだ。それはスイッチのボタンだったらしく、押し込むとガタンとエレベーターが揺れ、搬入口が閉まって動き出した。重力が加わり、箱が上へと進んでいるのが分かる。やがてガタンと揺れて止まり、今度は入ってきた搬入口を背に左手の壁が開く。そこから細い通路を進むと、観覧車のゴンドラのような、四面がガラス張りになっている小さなボックスが口を開けていた。
早く終わらせてくれ、そんな思いでボックスに乗り込んだ。こんな大仰な施設から脱出できるとは思えず、すでに諦めの境地に入っていた。中に入ると前後左右真っ暗な空間が広がっていて、その暗闇に圧迫された。唯一、入った扉と反対側に操作パネルのような画面が光っており、さっきのエレベーターと同じように差込口の穴がある。そしてやはり、寄木細工の箱がその手前に鎮座していた。
翔伍にはすでにその中にどんな写真が仕込まれているのか予想がついていた。そして、箱を操って出てきた写真を見て、その予想が当たっていたことを確認した。そこに写っていたのは優しそうに微笑んだ中学生くらいの女の子と、眼鏡をかけた仏頂面の小さな女の子だった。どこかの遊園地で撮ったのだろう、その二人は姉妹で、姉の方は詩音、そして妹の方はおそらく萌未だ。どちらも若名で自分が担当した女性だ。
それぞれの写真が示すもの………それは、翔伍がこれまでに手をかけてきた人間たちだった。一枚目は彩香、二枚目にまひるとトラ、そして拓也。三枚目が詩音だ。おそらくそれらの写真を仕掛けた者は、翔伍の洗脳能力のことを知っている。いや、もはやこの施設にいる人間全てに、翔伍の正体はバレているのだろう……。
さて、いよいよ始まるか───翔伍は覚悟を決め、写真と一緒に入っていた部品を操作パネルに差し込む。そしてそれを押すと、後部の扉が閉まると同時にボックス全体が今度は前方へと動き出す。十メートルほど進んだだろうか、ボックスは宙空でピタリと止まり、それと同時に下方の空間を四方のライトが一斉に照らす。翔伍の乗るボックスは体育館のような広い空間に宙吊りになっているのが分かった。すぐ下にはサッカーゴールのように二つに区切られたスペースがあり、センターラインの真上のド真ん中にボックスは位置している。右下の区画には一人の男が、左下の区画には数人の男たちが全員全裸で立っていた。そして、ボックスの真正面には周囲の壁から突き出た長細い部屋があり、ガラスを張られた窓際に様々な仮面を被った男女十数人がこちらをじっと伺っていた。
『これより、虎舞羅を偽った者たちの死刑を執行します。執行者は新見六紗子及び荒牧鷹八』
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