【完結】メゾン漆黒〜この町の鐘が鳴る時、誰かが死ぬ。

大杉巨樹

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プロローグ

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 令和5年7月7日

 この日、H県の禍津町まがつちょうにある七星妙見宮ななほしみょうけんぐうに数人の女子高生たちが訪れていた。七夕の夜にお参りすれば意中の人とうまくいくという流言を信じたからだったが、せっかく週末の夜に家を抜け出したので肝試しでもやろうということになり、境内に設けられた東屋に座り、プレイベントとして一人ずつ怖い話を披露しようとしていた。蒸し暑く、生温い風が汗ばんだ肌を不快に撫でる夜だった。

「じゃあ一番はあたしからね。最近さ、ニュースでよくやってる女子高生連続殺人ってあるでしょ?あの報道ってさ、殺された女子高生はみんな身体の一部に欠損があるとか言ってるけどさ、その欠損部分ってどこか知ってる?」

 一番目の少女が聞くと、別の少女がすかさずハイハイッと手を上げ、一番目の少女は舌打ちした。

「それってさあ、銭形ぜにがたちゃんが言ってたよ。死体にはみんな、頭が無いんでしょ?あんましムゴいんで報道規制されてるって」
「チェッ、知ってたかあ」

 一番目が悔しがり、別の一人が怪訝な顔をする。

「え、誰?銭形ちゃんって」
「知らないの?都市伝説系YourTuber。結構人気よ?」
「へえ~そうなんだ、てかさ、頭無いってヤバない?」
「ねー。でさ、都市伝説系YourTuberといえばさ、こんな話知ってる?」

 一番目のネタばらしをした少女が早くも二番目の怖い話を始める。

「えーとね、幻のYourTuberって話。若い女の子のYourTuberでさ、その子も都市伝説系なんだけど、その子のチャンネルって見える人と見えない人がいるんだって」
「何それ怖い」
「いや怖いのはここからだって。その子ってさ、変なエルフのコスプレしてるらしいんだけど、もしその子の姿が見えた人は目から血を出しちゃうんだって」
「ええーヤバッ!絶対見たくないわそんなの。あ!でも心晴こはるなら見たことあるんじゃない?あんたの専門でしょ?」

 心晴と呼ばれた少女はずっと黙って聞いていたが、名指しされるとニンマリ口角を上げ、コホンと一つ咳をした。

「んーとね、その話、ちょっと違うな。そのチャンネルってクロノアチャンネルっていうんだけどさ、そこの主を見たら目から血が出るんじゃなくて、KikTokでクロノアって検索して、出てきたピタ止めチャレンジをやったらそうなるんだよ」
「出た!ピタ止め!最近流れてくんのあればっかでさ、ウザない?」
「再生数稼ぎっしょ」
「いやもっとオリジナリティある動画あげろっちゅう話」

 話が拡散してしまい、心晴はまたコホンと咳をする。他の三人が心晴を見る。心晴が三番目の怖い話を始める。

「じゃあ次は私でいいかな?そのピタ止めチャレンジの話なんだけどさ、クロノアチャンネルで検索して流れてくるひよこを影に合わせてピッタリ止めたらね、綺麗なドレス姿の女の人が出てくるの」
「ああ~ありがち!てかさ、ドレスって引きなくない?せめてビキニとかさ」

 すぐに話に茶々を入れられ、心晴は口を挟んだ少女を睨む。睨まれた少女はごめんと言って口をつぐんだ。心晴がまた話し出す。

「そのドレスの女の人ってさ、20年くらい前に死んだモデルさんなんだ。イケメン俳優とホテルにお泊りしてさ、そこでクスリやって、オーバードーズを起こして死んだって話。当時は結構ワイドショーとか賑わせたらしくてさ、その俳優も芸能界から永久追放されたんだ。でね、そのモデルの写真がピタ止めで出てくるんだけど、ピタ止めを成功させるとそのモデルの顔が自分の顔に変わってね、驚いて見てるとだんだんその顔がドロドロ溶け出して、最後には骸骨になるんだって。で、それを見ちゃうと目から血を流すってわけ」

 心晴がそこまで話すと、他の三人の顔からはおチャラけれた雰囲気が消え、おおーと喉の奥からくぐもった声を出した。それを見て、心晴は満足そうに頷く。

「で、そのモデルが死んだときの話なんだけど…」
「いやまだ話続くんかい!」

 心晴が話を続けようとすると一人が突っ込む。心晴はその少女にまあまあと手でおさえる仕草をし、話を続けた。

「ここからが都市伝説なんだけどさ、実はその追放された俳優は罪を被っただけで、その死んだモデルと本当にホテルにいたのは結構有名な議員の息子だったらしいんだよ。何かの圧力で罪をもみ消したのね。でね、その息子なんだけど、モデルが死んだ何年か後に火事で焼け死んだんだ。でね、その火事ってのが結構ヤバくて、部屋の中の物はほとんど焼けてなくて、まるでその息子だけを焼くようだったっていうの。人体発火現象みたいにね。都市伝説界隈ではさ、何者かが特殊能力を使ってその息子を成敗したんだなんて言われてる」

 心晴はそこまで語ると、他の三人の顔を見回した。唾液をコクンと飲み込みながら、余韻の沈黙を作る。虫の声だけがジージーと濁音を鳴らせていた。

「信じるか信じないかは、あなた次第です」

 心晴が神妙な顔でポーズを決めると、三人がぷっと息を吐く。

「いや聞いたことあるわそれ!何かの番組で」

 四人が笑い転げ、次に四人目が手を上げる。

「じゃああたしが最後でいいかな?」
「あんた大丈夫?本職のすぐ後で」
「いや私、都市伝説テラーで食べてないから」

 すっかり心晴が場の雰囲気を持っていった中、

「大丈夫大丈夫、とっときのやつあるから」

 と、四人目が顔から笑みを消す。そしてゆっくりと首を後方に回し、境内から上に登る細い階段を指差した。

 「今から行って帰ってくるあの丘ってさ、一年中彼岸花が咲いてるんだよ。彼岸花って秋しか咲かないはずなのにさ」

 四番目が重々しい声色で話し始め、他の三人も身を乗り出したが、その内容にまたふっと空気が弛緩した。一番目が口を開く。

「いや知ってるわ。禍津町の有名な七不思議の一つだし。なんだったらその彼岸花があるから肝試しの終点に設定したんだし」
「じゃあさ、何で彼岸花がずっと咲いてるか知ってる?」
「う~ん…確かUFOがどうとか?」
「そうそう、50年前に大量の隕石がここの山に落下して、その時にUFOも目撃されたって」
「いやあんた、それも七不思議の一つ!」

 得々と語る四番目に今度はニ番目が突っ込む。四番目が口を尖らせる。

「じゃあこれは?アブダクションってあるでしょ?UFOにさらわれるやつ。そのね、50年前に来た宇宙人が禍津町の住人をさらって人体実験をしてね、そんで開放された人たちが禍津町の北西部に集落を作ったんだけど、その集落の人たちはみんな改造されて人狼になっちゃって、月夜の夜には狼に変身するっていう…」

 四番目が懸命に語るのを聞き、一番目と二番目がため息をつく。

「いやあんたそれ、七不思議をいくつか組み合わせただけじゃん」
「ほーんとそれ!年中咲いてる彼岸花でしょ?それからUFOに人狼伝説にぃ、湖に沈んだ村ってのもあったよね。あとなんだっけ?」
「だからセフィロトでしょ?てかさあ、セフィロトの人たちが人狼なわけないじゃん。あんたさ、心晴に対抗しようとして必死すぎ」

 二人から嘲られ、四番目はさらにムキになる。

「いやいや、怪しいでしょ、あのセフィロトの連中って。中で何やってるか分かったもんじゃないよ。あそこではさ、夜中にみんな全裸になって乱交してるって噂もあるんだよ」
「あ、何かそれ聞いたことあるかも」

 四番目の粘り勝ちで話が膨らみかけたその時、しばらく黙って聞いていた心晴が、

「ちょっと!」

 と声を荒げた。三人の視線が心晴に集まる。

「セフィロトの悪口言わないで!あそこには漆黒の君様がいらっしゃるんだから!漆黒の君様がね、私たちを悪いものから守って下さってるの!」

 途端に顔を歪め、おかしなことを言い出した心晴に三人は唖然としてその顔を見つめた。すると、心晴の目からつっと、赤い液体が溢れ出す。三人はギャアっと悲鳴を上げ、慌てて立ち上がって心晴から飛び退った。心晴はニヘラと顔を歪ませ、 恍惚とした表情を浮かべてあらぬ方を見つめた。

「ああ……漆黒の君樣………」

 心晴の見る方向からバサバサと鳥の羽ばたく音がし、大きな黒い影が漆黒の闇の中に消えていく。突風が吹き上げ、ザワザワと山の木々がせせら笑うように揺れていた。






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