太陽に焼かれる日常

雨月葵子

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生きる場所

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 直視できない太陽を見上げながら「帰りたい」と呟いた。
 家に帰りたいわけではない。何も汚れていない青の時間を過ごす生徒達を毎日見ていると疎ましくなる。
 そういえば、自分が高校生の頃に、「スカートが短い」「前髪切れ」「ピアス禁止」「アホ」「バカ」「若いだけ」なんて言いながらいつも不機嫌な先生がいた。
 今なら分かるよ、先生。
 狭い世界で満足していた青春に帰りたい気持ち。
 でも、知らなかったことで生きていけた時間に戻ることはできない。それなら否定して、できるだけ遠ざけるしかない。
 
 腕時計を確認すると十二時二十五分。彼は五分後にラジオ番組が終わると電話をかけてくる。
 そして結婚の話を持ち出すのだ。私はまだ本当のことを言えていないのに、話は進んでいく。
 私はため息を抑えられずに吐き出した。
 数学の教師として高校で働いて五年が過ぎた。繰り返す日常が楽だから愚痴と引き換えにしてきた。
 5年の緩やかなでこぼこ道が終わろうとしている。
 転んだ日、報われた日、泣いた日、笑った日、何もなかった日に糸を通して繋いできた。

 腕時計を確認すると十二時三十分。
「先生ー!! 一年生の紀野くんがナイフ持って教室で暴れてる!」
 彼からの電話よりも先に、一人の生徒が私を呼んだ。
 私の日常を終わらせるのは彼ではなかった。
 ポケットの中で震える携帯を握りながら、「帰りたい」と強く思った。
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