ヘビー短編集

篁 しいら

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泡沫の夢

泡沫の夢 1

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私は夢の中にいる。
明言出来る確固たる理由はただ一つ。
アナタが私の前にいるから。
アナタに私が触れられるから。
アナタが私に笑顔をくれるから。


アナタはもう、現実にはいないことを私が知っているから。
 

アナタは、私の手が届かない場所へと旅立った。昔、月に手を伸ばしてそれを叶えた偉人ですら行けない場所へと。
私は泣いた、みんなも泣いた。
みんなは忘れようとした、私も忘れようと努力した。
それでもアナタの存在は、私たちの中にいつまでもいつまでもいつまでもそこにいた。
アナタは旅立って、みんなはみんな別の方向を見つめてバラバラになった。

そんなアナタが、私の目の前にいる。
私はアナタを抱きしめた。
生前のような温かさが、私の触覚が感じ取る。
アナタの香り、生前の時に私が愛した香りがした。
アナタを撫でた、アナタの少し短めの毛先が私の指に絡みつく。



私はこの幸せ全てに感謝した。
私はこの幸せ全てに絶望した。



アナタはいつものようにそばに来て、私の膝に頭を乗せて撫でて欲しいとせがむ。
私はその願いにいつも通りに応えた、アナタは幸せそうに目を細めた。

アナタは最後、病気でこの世を去った。
最後に見たアナタはやせ細り、薬によって生きながらえ、息をするだけで精一杯の状態だった。
けど、今のアナタは。私の撫でているアナタは、1番素敵で綺麗で一緒に居られるだけで嬉しかった、あの時のアナタだ。
アナタの最後に、私は何かを与えられただろうか--


ふと、誰かが近づいてきた。
畳の上を土足で歩く誰かを、私はアナタを撫でながら見上げた。
その誰かは私たちをただ無機質に見つめて、口を開いた。



「もう、終わりの時間だ」



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