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私達は泣きつかれ、地面に仰向けになって寝っ転がった。 全く背景がないと思っていた道だと思っていたのだが、空にはゆったりと流れる雲が僅かな風に運ばれて横に流れていた。
私はいつも思うのだが、空の雲を見るだけで金が貰える仕事はないだろうか? それか、自分が好き勝手に暴れていたら褒められる仕事はないだろうか?
いや、どっちにしてもろくな仕事じゃないかもしれない。 寧ろ、人の道に外れて他人を泣かせてしまう仕事かもしれない。
それはダメだ、じいちゃんに怒られちゃうじゃないか。
そんなことより、なぜ私がここに居たんだっけか? と、当初の目的を思い出そうとしてうーんと、眉間に皺を寄せた。 そんな私を見て見ぬふり出来なかったのか、隣にいる自分が呆れたように話しかけた。
「で、これからどーすんの?」
「ん? 何が?」
「何がって、死ぬこと辞めるなら次のしたいこと、見つけまいじゃん」
「あ、確かにそうだ」
無責任な回答をした私に対し、彼女は聞こえるようにため息をついた。
「考え無しに来た訳? 馬鹿じゃないの?」
「は? 馬鹿じゃないですぅ、考えてなかっただけですぅ~」
「それを一般的には馬鹿とか阿呆とか言うんですけどぉ? 何まだ足りない? 何が『大人として君を見てないことにしたくなんだ、キリッ!』だよボケカス、ちゃんと次の目標立ててから来いや」
「口が変に達者なこって、今の若者の方が素直で可愛らしくて優しいわ。 誰に似てこうなったんですかねぇ、ほんと」
「そりゃあもう、一人しかいなくない?」
「それはそうだな」
私達は互いを見る、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになって拭きもしていないそっくりな顔を見て、ひでぇ顔だなと互いに爆笑した。
一通り笑い終わった私達は、放課後に友達と河原で座って話すように自然と言葉を繋いでいく。
「ねぇ、君は何したい?」
「私? 私はそうだなぁ……とりあえず、遊びたいかなぁ」
「ああ確かに遊びたいよなぁ。 沢山」
「そ、真面目に生きてるのも良い子で生きるのも、馬鹿らしくない?」
「けどなぁ、大人は真面目で良い人の方が、意外に生きやすいんだぜ?」
「は? 私の周りにそんな大人いねぇんだけど」
「居るんだよ、それが。 少なくとも東京は真面目で良い人の方が不真面目でクズな人より多いんだぜ?」
「絶対嘘だわ」
「嘘じゃねーよ、信じろよ」
「やだね、この目で見るまで信じない」
彼女の方が先に立ち上がる。 そしてニヤリとイタズラを思いついたクソガキのように笑うと、私が止める暇もないほど即決で、自分の肌である羊皮紙を思いっきり左肩から斜めに破った。
「え、あ、お、ぶへっ!?」
彼女の奇行に言葉を迷っていると、私と同じサイズに破けた羊皮紙を彼女は迷いなく寝っ転がった私に被せてきた。
私は対応出来ずにわたわたしていると、上から彼女は優しくて元気で、何かを期待している子供のような無邪気な声で言った。
「これからは私も一緒に居てやンよ、楽しもうぜ人生」
私はバッと目を開けて起き上がる、周りを見渡せばいつの間にか元いた場所に戻っていた。
おいおい夢オチとかサイテーなどと呟こうとした時、妙に視界がクリアなことに気がついて目元に触れた。
何かある、これ眼鏡だ。
私が寝ている間に入手していた眼鏡を一旦とって、少し観察した。
なんと上等なメガネだ、このご時世に素材が硝子とは。
そういやあのクソガキは自分の目で見ると言っていたか、これは一本取られたな。
「よし、気合い入れ直し……ん?」
私は眼鏡をかけ直し、気合を入れる時に私は必ず1度髪を触った。 するとその髪にも私が知らない何かが装着されている、外れないように触れてみる。 それは頑丈な糸とゴムで作られた、髪ゴムだった。
「まじかよ、ハハッ! そういや、この上着もなかったな」
いつの間にか寝ていた私に掛けられていた布を、私はまさかと思い掴んで広げてみる。空の光を吸収する素材でも入っているのか、角度によって色が変化して見える腰までのジャケットが掛けられていた。 どうも革製のようで、縫い目はビシッとカッコよく決まるように縫われている。
ああほんと、自分って最高だわ。
私はよっこいしょと起き上がると、バンッと1度シワを伸ばして革製のジャケットを羽織った。 私のサイズにピッタリなようで、前のボタンもしっかり止まる。
「さてさて、前に進みますかね」
私はもう一度後ろを見る。 その道には余り物は無いかもしれない。 それにだいぶ苦しくて辛くて、歩きづらかった。だがこの道で見たものは、どれも今の私にとっては大切な大事な過去だった。
私は小さく「ありがとう」を呟くと、方向を180度変えて歩き出す。
ここから先の人生は本当に、未知の世界になるだろう。
だがもう私は独りじゃない、私には過去がある。
なのでここからは鼻歌を歌いながら、胸を張って歩いていこう。
さぁ、世界を楽しもうじゃないか、私よ。
→
私はいつも思うのだが、空の雲を見るだけで金が貰える仕事はないだろうか? それか、自分が好き勝手に暴れていたら褒められる仕事はないだろうか?
いや、どっちにしてもろくな仕事じゃないかもしれない。 寧ろ、人の道に外れて他人を泣かせてしまう仕事かもしれない。
それはダメだ、じいちゃんに怒られちゃうじゃないか。
そんなことより、なぜ私がここに居たんだっけか? と、当初の目的を思い出そうとしてうーんと、眉間に皺を寄せた。 そんな私を見て見ぬふり出来なかったのか、隣にいる自分が呆れたように話しかけた。
「で、これからどーすんの?」
「ん? 何が?」
「何がって、死ぬこと辞めるなら次のしたいこと、見つけまいじゃん」
「あ、確かにそうだ」
無責任な回答をした私に対し、彼女は聞こえるようにため息をついた。
「考え無しに来た訳? 馬鹿じゃないの?」
「は? 馬鹿じゃないですぅ、考えてなかっただけですぅ~」
「それを一般的には馬鹿とか阿呆とか言うんですけどぉ? 何まだ足りない? 何が『大人として君を見てないことにしたくなんだ、キリッ!』だよボケカス、ちゃんと次の目標立ててから来いや」
「口が変に達者なこって、今の若者の方が素直で可愛らしくて優しいわ。 誰に似てこうなったんですかねぇ、ほんと」
「そりゃあもう、一人しかいなくない?」
「それはそうだな」
私達は互いを見る、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになって拭きもしていないそっくりな顔を見て、ひでぇ顔だなと互いに爆笑した。
一通り笑い終わった私達は、放課後に友達と河原で座って話すように自然と言葉を繋いでいく。
「ねぇ、君は何したい?」
「私? 私はそうだなぁ……とりあえず、遊びたいかなぁ」
「ああ確かに遊びたいよなぁ。 沢山」
「そ、真面目に生きてるのも良い子で生きるのも、馬鹿らしくない?」
「けどなぁ、大人は真面目で良い人の方が、意外に生きやすいんだぜ?」
「は? 私の周りにそんな大人いねぇんだけど」
「居るんだよ、それが。 少なくとも東京は真面目で良い人の方が不真面目でクズな人より多いんだぜ?」
「絶対嘘だわ」
「嘘じゃねーよ、信じろよ」
「やだね、この目で見るまで信じない」
彼女の方が先に立ち上がる。 そしてニヤリとイタズラを思いついたクソガキのように笑うと、私が止める暇もないほど即決で、自分の肌である羊皮紙を思いっきり左肩から斜めに破った。
「え、あ、お、ぶへっ!?」
彼女の奇行に言葉を迷っていると、私と同じサイズに破けた羊皮紙を彼女は迷いなく寝っ転がった私に被せてきた。
私は対応出来ずにわたわたしていると、上から彼女は優しくて元気で、何かを期待している子供のような無邪気な声で言った。
「これからは私も一緒に居てやンよ、楽しもうぜ人生」
私はバッと目を開けて起き上がる、周りを見渡せばいつの間にか元いた場所に戻っていた。
おいおい夢オチとかサイテーなどと呟こうとした時、妙に視界がクリアなことに気がついて目元に触れた。
何かある、これ眼鏡だ。
私が寝ている間に入手していた眼鏡を一旦とって、少し観察した。
なんと上等なメガネだ、このご時世に素材が硝子とは。
そういやあのクソガキは自分の目で見ると言っていたか、これは一本取られたな。
「よし、気合い入れ直し……ん?」
私は眼鏡をかけ直し、気合を入れる時に私は必ず1度髪を触った。 するとその髪にも私が知らない何かが装着されている、外れないように触れてみる。 それは頑丈な糸とゴムで作られた、髪ゴムだった。
「まじかよ、ハハッ! そういや、この上着もなかったな」
いつの間にか寝ていた私に掛けられていた布を、私はまさかと思い掴んで広げてみる。空の光を吸収する素材でも入っているのか、角度によって色が変化して見える腰までのジャケットが掛けられていた。 どうも革製のようで、縫い目はビシッとカッコよく決まるように縫われている。
ああほんと、自分って最高だわ。
私はよっこいしょと起き上がると、バンッと1度シワを伸ばして革製のジャケットを羽織った。 私のサイズにピッタリなようで、前のボタンもしっかり止まる。
「さてさて、前に進みますかね」
私はもう一度後ろを見る。 その道には余り物は無いかもしれない。 それにだいぶ苦しくて辛くて、歩きづらかった。だがこの道で見たものは、どれも今の私にとっては大切な大事な過去だった。
私は小さく「ありがとう」を呟くと、方向を180度変えて歩き出す。
ここから先の人生は本当に、未知の世界になるだろう。
だがもう私は独りじゃない、私には過去がある。
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