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【第四章】隣にいるのが当たり前
10.線を引いても、君は俺を隣に置く
涼は少しだけ考えるみたいに視線を落として、それから静かに口を開いた。
「そうだね。親戚の集まりに、立場が曖昧なまま来るのは居心地悪いよね」
うん、やっぱりこの人はそう言う。
まず俺の気持ちを受け止めてくれる。否定もしないし、無理に押し切ったりもしない。
「分かった。俺から先方に伝えるよ」
「え、涼が?」
思わず聞き返すと、涼は当たり前みたいに頷いた。
「うん。今回は趣旨が違うから『恋人を連れて行く』とは言わないよ。手伝いを申し出てくれてる人がいるって形にする。それで向こうがいいって言ったら、颯太も来やすいよね」
横で聞いていた仁さんがくすっと笑う。
「相変わらず真面目だねぇ」
「兄貴が適当すぎるだけだろ」
なんて言いながら、もうスマホを手に取ってる。
判断から行動までが早いよね。
こういうところ、仕事できる人なんだなって実感する。
短い通話のあと、涼は「分かりました」とだけ言って電話を切った。
「来てもらうのは全然問題ないって。でも気を遣わせるくらいなら当日少し動いてもらった方が助かる、だってさ」
その一言で、ようやく肩の力が抜けた。
……よかった。
勝手に入り込むわけじゃないし、かといって過剰に歓迎されるわけでもない。
ちゃんと線を引いたうえで、そこにいていいって。
涼が守ってくれる距離感が、こんなに安心できるなんて。
「これでいい?」
「うん」
準備とか配膳なら全然出来るし、役割がある方が俺も気が楽だ。
でも、もちろん――
「これからも涼と一緒にいるなら、そういう場では一線引くよ。涼の立場もあるし、みんなが歓迎ってわけじゃないと思うから」
そう言って涼を見ると、何か言いたそうな顔をしてる。
俺たちを見比べながら、それまで黙っていた仁さんが「なるほどね」と呟いた。
「颯太くんのそういう真っ直ぐなとこ、いいね。涼が好きになるのわかるわー」
別に特別なことじゃない。
ただ、涼には迷惑かけたくないし、正直でありたいとは思ってる。
この人の邪魔はしちゃだめだから。
「颯太、ありがとう。でも俺のせいで困らせてごめんね」
「え? いや、困ってないよ」
慌てて首を横に振ったら、「そう?」と微笑まれる。
「そういうんじゃなくて。その、俺が勝手に気にしてるだけで」
「でも、俺のこと考えてくれたんだよね?」
柔らかくそう言われて、言葉が詰まる。
……この人、こういうところがすごいんだよね。
全て見透かしてくるから、誤魔化しようがない。
「当日は無理しなくていいからね。手伝いも、できる範囲でいいから。疲れたらすぐに言って」
「いや、大丈夫だよ」
「颯太が辛い思いするのが嫌なんだ」
だからそういうの、ずるいんだってば。
過保護って分かってるのに、拒否しづらい言い方するんだから。
「はい、ご馳走様でした。あ、色んな意味で!」
空気をぶった切るみたいに、仁さんがぱん、と手を合わせた。
色んな意味でって、何。
仁さん、ちょっとテンションが空回りしてる気がするけど……そこにはあえて触れないことにする。
ふと横を見ると、リボンがソファの上で丸くなり、目を細めて小さく鼻をひくつかせている。
「なんで眠そうなの……」
こんなに賑やかなのにな。ほんと警戒心、どこに置いてきたの。
前足をちょこんと曲げたその姿は、まるで小さなぬいぐるみ。
思わず顔が緩む。
そっとリボンの頬に手を添えて、軽くキスを落とす。
うっすら目を開けたリボンは俺を見て、またふわりと眠りに戻った。
「……颯太」
「ん?」
俺に近づいてくる涼の顔には、いつもの穏やかさに加えて、別のものが混じってる。
「涼。妬かない妬かない」
横で仁さんも、にやにやと肩を揺らしながら俺たちを見ている。
「え、何……?」
「ていうか、颯太くん無自覚だよね」
「ああ。だからちょっと困るんだよ」
ちょっと待って、ほんとに何の話?
二人の意見がなぜか一致してるっぽいけど。この姿、なかなか見れなそうだから貴重かもしれない。
「よし、そしたら出るわ。泊めてくれてありがとね」
そのまま流れを変えるように、仁さんが立ち上がる。
「兄貴、今からどこ行くんだよ」
「せっかくだから撮影もしたいし、久しぶりに会いたい人もいるから。今夜はホテル取るから心配なく」
軽く手を振って、自分の荷物を担ぐ。
相変わらずリュックとカメラだけ。
海外から帰ってきたはずなのに身軽なんだよね、この人。
仁さんはかなり名の通ったフォトグラファーらしい。
収入だって相当あるはずなのに、いかにも高級ブランドです、みたいな物は一つも持ってない。
でもよく見ると、シャツの生地とか靴の手入れまで、全部きちんとしてるんだよね。
それは、涼も同じで。
仕事ではあれだけの立場にいて、いくらでも“分かりやすい高級品”を持てるはずなのに、見せびらかすようなことはしない。
派手さはないのに、持ち物はどれも質がいい。
……やっぱり似てる。
目立つことで価値を示すんじゃなくて、自分が納得できるものを静かに選ぶ感じとか。
外側じゃなくて、中身にちゃんとお金をかけるところとか。
こういうところに、同じ場所で育った時間が残ってる気がした。
「じゃあな。ありがと、涼」
「ああ」
「颯太くん。ご飯、すごく美味しかった。また週末に」
「はい、お気をつけて」
玄関のドアが閉まる音がして、家の中は急に静かになった。
「そうだね。親戚の集まりに、立場が曖昧なまま来るのは居心地悪いよね」
うん、やっぱりこの人はそう言う。
まず俺の気持ちを受け止めてくれる。否定もしないし、無理に押し切ったりもしない。
「分かった。俺から先方に伝えるよ」
「え、涼が?」
思わず聞き返すと、涼は当たり前みたいに頷いた。
「うん。今回は趣旨が違うから『恋人を連れて行く』とは言わないよ。手伝いを申し出てくれてる人がいるって形にする。それで向こうがいいって言ったら、颯太も来やすいよね」
横で聞いていた仁さんがくすっと笑う。
「相変わらず真面目だねぇ」
「兄貴が適当すぎるだけだろ」
なんて言いながら、もうスマホを手に取ってる。
判断から行動までが早いよね。
こういうところ、仕事できる人なんだなって実感する。
短い通話のあと、涼は「分かりました」とだけ言って電話を切った。
「来てもらうのは全然問題ないって。でも気を遣わせるくらいなら当日少し動いてもらった方が助かる、だってさ」
その一言で、ようやく肩の力が抜けた。
……よかった。
勝手に入り込むわけじゃないし、かといって過剰に歓迎されるわけでもない。
ちゃんと線を引いたうえで、そこにいていいって。
涼が守ってくれる距離感が、こんなに安心できるなんて。
「これでいい?」
「うん」
準備とか配膳なら全然出来るし、役割がある方が俺も気が楽だ。
でも、もちろん――
「これからも涼と一緒にいるなら、そういう場では一線引くよ。涼の立場もあるし、みんなが歓迎ってわけじゃないと思うから」
そう言って涼を見ると、何か言いたそうな顔をしてる。
俺たちを見比べながら、それまで黙っていた仁さんが「なるほどね」と呟いた。
「颯太くんのそういう真っ直ぐなとこ、いいね。涼が好きになるのわかるわー」
別に特別なことじゃない。
ただ、涼には迷惑かけたくないし、正直でありたいとは思ってる。
この人の邪魔はしちゃだめだから。
「颯太、ありがとう。でも俺のせいで困らせてごめんね」
「え? いや、困ってないよ」
慌てて首を横に振ったら、「そう?」と微笑まれる。
「そういうんじゃなくて。その、俺が勝手に気にしてるだけで」
「でも、俺のこと考えてくれたんだよね?」
柔らかくそう言われて、言葉が詰まる。
……この人、こういうところがすごいんだよね。
全て見透かしてくるから、誤魔化しようがない。
「当日は無理しなくていいからね。手伝いも、できる範囲でいいから。疲れたらすぐに言って」
「いや、大丈夫だよ」
「颯太が辛い思いするのが嫌なんだ」
だからそういうの、ずるいんだってば。
過保護って分かってるのに、拒否しづらい言い方するんだから。
「はい、ご馳走様でした。あ、色んな意味で!」
空気をぶった切るみたいに、仁さんがぱん、と手を合わせた。
色んな意味でって、何。
仁さん、ちょっとテンションが空回りしてる気がするけど……そこにはあえて触れないことにする。
ふと横を見ると、リボンがソファの上で丸くなり、目を細めて小さく鼻をひくつかせている。
「なんで眠そうなの……」
こんなに賑やかなのにな。ほんと警戒心、どこに置いてきたの。
前足をちょこんと曲げたその姿は、まるで小さなぬいぐるみ。
思わず顔が緩む。
そっとリボンの頬に手を添えて、軽くキスを落とす。
うっすら目を開けたリボンは俺を見て、またふわりと眠りに戻った。
「……颯太」
「ん?」
俺に近づいてくる涼の顔には、いつもの穏やかさに加えて、別のものが混じってる。
「涼。妬かない妬かない」
横で仁さんも、にやにやと肩を揺らしながら俺たちを見ている。
「え、何……?」
「ていうか、颯太くん無自覚だよね」
「ああ。だからちょっと困るんだよ」
ちょっと待って、ほんとに何の話?
二人の意見がなぜか一致してるっぽいけど。この姿、なかなか見れなそうだから貴重かもしれない。
「よし、そしたら出るわ。泊めてくれてありがとね」
そのまま流れを変えるように、仁さんが立ち上がる。
「兄貴、今からどこ行くんだよ」
「せっかくだから撮影もしたいし、久しぶりに会いたい人もいるから。今夜はホテル取るから心配なく」
軽く手を振って、自分の荷物を担ぐ。
相変わらずリュックとカメラだけ。
海外から帰ってきたはずなのに身軽なんだよね、この人。
仁さんはかなり名の通ったフォトグラファーらしい。
収入だって相当あるはずなのに、いかにも高級ブランドです、みたいな物は一つも持ってない。
でもよく見ると、シャツの生地とか靴の手入れまで、全部きちんとしてるんだよね。
それは、涼も同じで。
仕事ではあれだけの立場にいて、いくらでも“分かりやすい高級品”を持てるはずなのに、見せびらかすようなことはしない。
派手さはないのに、持ち物はどれも質がいい。
……やっぱり似てる。
目立つことで価値を示すんじゃなくて、自分が納得できるものを静かに選ぶ感じとか。
外側じゃなくて、中身にちゃんとお金をかけるところとか。
こういうところに、同じ場所で育った時間が残ってる気がした。
「じゃあな。ありがと、涼」
「ああ」
「颯太くん。ご飯、すごく美味しかった。また週末に」
「はい、お気をつけて」
玄関のドアが閉まる音がして、家の中は急に静かになった。
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