【完結】クズ彼氏に悩んでた俺が、イケメン社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

文字の大きさ
27 / 102
追う者の末路~執着クズ野郎、永久追放~

3.クズの脅しと、残り香

しおりを挟む
side 神谷 拓実

青木が動き出したら、どう出るか――。

あいつが俺のことまで調べて、行動を監視しているのは間違いない。きっと、相当邪魔な存在だと思っているだろう。

昼休憩の静けさの中、オフィスビルのバルコニーで風を感じながら思考を巡らせていると、軽い足音が近づいてきた。

「失礼します。神谷社長宛に、少しおかしなメールが届きまして」

差し出されたタブレットに目をやる。画面には見慣れた名前――青木。

“神谷、お前の大事なものを壊すことなんて簡単だ。邪魔をするな”

文面は短くても明確だった、はっきりとした脅迫の意図がある。

……やはり、出てきやがったか。

胸の奥で小さな苛立ちを覚えつつも、社員には微笑みを浮かべて「ただの嫌がらせだ、気にするな」と軽く流す。

視線を遠くの街並みに投げながら、思考はすでに次の一手へ――。
俺がスムーズに動くには、奴の視線を俺から逸らしてやる必要がある。
そのためには、もっと深く仕掛けを組み立てなければ。

社長室に戻り、机の上の資料に目を落としながら考えていた時、控えめなノックの音が響いた。

「神谷社長、お客様です」
「あれ、予定にはないはずだけど」
「はい。ただ……どうしてもと」

少し訝しみながら「通して」と返す。

やがてドアが開き、現れたのは落ち着いた雰囲気を纏ったスーツ姿の女性。年齢は俺と同じくらいだろうか。姿勢も所作も無駄がなく、ただの飛び込み営業には見えない。

「突然の訪問、失礼します。……先日はありがとうございました。どうしても直接お礼が言いたくて」

そう言って差し出された名刺には、ある業界団体の名前が印字されていた。

なるほど――以前、うちの会社が協力した案件で繋がる相手か。

「ご丁寧にどうも。わざわざここまで」
「いえ……上の者から、神谷社長に会ってきちんと挨拶して来い、と言われてましたから」

その一言に、思わず視線を上げる。彼女は柔らかく微笑んでいた。

“業務上の挨拶”にしては、少しだけ熱がこもっているように見える。

「神谷社長のやり方、ずっと注目してたんです。あれだけ強くても、社員や周囲への気配りを忘れない……。簡単にできることじゃないと思います」

褒め言葉。だが、その目は俺個人を見ている。
単なるリップサービスか――それとも。

「……それは、買いかぶりすぎだね」
「いいえ。本心です」

小さく首を振る仕草は、どこか照れくさそうで自然だ。演技には見えない。

「……今日はご挨拶だけですので。これ以上長居はしません」
「そうか。わざわざありがとう」

立ち去ろうとした彼女は、ふと足を止め、振り返った。

「またお話できる機会があると、嬉しいです」

一瞬、目が合う。その瞳には、揺さぶるような柔らかさが同居していた。

――好意か、それとも。

答えの見えない熱を残したまま、彼女はドアの向こうへ姿を消す。

「……ふう」

椅子にもたれ、深くため息をひとつ。
室内には、残り香のような気配の余韻が淡く漂っていた。

しばらくして、手元のスマホが震える。画面に浮かんだのは、ばあちゃんからのメッセージ。

――遥のことも、俺のことも、心配してくれている。

内容を読み、緊張が少しだけ和らぐ。
軽く息を吐き、「了解、ありがとう」とだけ返信した。
スマホをテーブルに置き、無意識に唇に微かな笑みが浮かんだ。


***


数日後。

夜、仕事を終えて会社を出ると、オフィス街のコンビニの前で見覚えのある姿を見つけた。
先日訪ねてきたあの女性だ。

「……神谷社長?」

買い物袋を片手に、少し驚いたような笑顔を浮かべていた。

「あなたは先日の……」
「すみません、また突然。偶然お見かけして……」
「いや、こちらこそ。こんなところで会うなんて。お一人ですか?」
「ええ。残業帰りにちょっと寄っただけで」

彼女は軽く肩をすくめ、袋の中を覗かせてみせる。
中身はペットボトルとサンドイッチ――普通の買い物。妙な不自然さはない。

「あの、よければ、少しご一緒してもいいですか?」

夜風に髪を揺らしながらそう尋ねる声には、遠慮がちな響きがあった。
一方で、その目はやはり真っすぐ俺を見ている。

「……いいよ」

答えると、彼女は嬉しそうに小さく微笑んだ。

コンビニを出てしばらく並んで歩く。
人通りの少ない夜道。街灯の明かりに照らされた彼女の横顔は、昼間よりも柔らかく見える。

歩きながら交わす会話は、仕事や業界のことが中心だった。
だが、不思議とその合間に漂う沈黙さえも、居心地が悪くなかった。

「……神谷社長って、いつも気を張ってるんですね」

ふいにそう言われ、足が止まった。

「え?」
「今日も、さっきも。周りに気を配ってばかりで、自分のことは後回し。……なんだか、少し心配になります」

その言葉に、胸の奥が揺れる。
仕事上の表情しか見せていないはずなのに――なぜ、そんなふうに見抜かれる。

「……俺のことを、そんなふうに思う人は珍しいな」
「ふふ。気になる人だから、かもしれません」

彼女は冗談めかして笑った。

「では、ここで失礼します。……今日はありがとうございました」
「……待って」

俺が引き留めると、少し沈黙が続いたあと、彼女がこっちを見た。

「もう少しゆっくり話がしたい。近々、時間……取れるかな?」
「……はい、喜んで」

彼女の声は控えめだったが、その視線は最後まで逸らさなかった。

「じゃあ、また連絡する」

裏に連絡先を書いた名刺を渡す。心臓の鼓動が、わずかに速まっている。
掴みきれない想いを抱えたまま、俺は彼女の背中を見送った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気づいたらスパダリの部屋で繭になってた話

米山のら
BL
鎌倉で静かにリモート生活を送る俺は、極度のあがり症。 子どものころ高い声をからかわれたトラウマが原因で、人と話すのが苦手だ。 そんな俺が、月に一度の出社日に出会ったのは、仕事も見た目も完璧なのに、なぜか異常に距離が近い謎のスパダリ。 気づけば荷物ごとドナドナされて、たどり着いたのは最上階の部屋。 「おいで」 ……その優しさ、むしろ怖いんですけど!? これは、殻に閉じこもっていた俺が、“繭”という名の執着にじわじわと絡め取られていく話。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

双子のスパダリ旦那が今日も甘い

ユーリ
BL
「いつになったらお前は学校を辞めるんだ?」「いつになったら俺らの仕事の邪魔をする仕事をするんだ?」ーー高校二年生の柚月は幼馴染の双子と一緒に暮らしているが、毎日のように甘やかされるも意味のわからないことを言ってきて…「仕事の邪魔をする仕事って何!?」ーー双子のスパダリ旦那は今日も甘いのです。

処理中です...