【完結】クズ彼氏に悩んでた俺が、イケメン社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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追う者の末路~執着クズ野郎、永久追放~

5.疑念のスクリーン

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side 一ノ瀬 遥

仕事を終え、新しく借りたマンションへ帰ろうと夜の街を歩いていた。

ふと視線が吸い寄せられたのは、シティホテルのラウンジのガラス越し。柔らかな灯りの中、人々が静かに笑い合っている。

……ちょっと羨ましいんだけど。

本来なら俺も拓実と並んで食事をして、他愛ない会話を交わしていたはずだ。けれど今は、それも許されない。

“青木を刺激しないため、しばらく二人では会わないようにしよう”

――拓実にそう言われていた。

ポケットに入れたスマホをそっと握りしめ、ため息を吐きながら歩を進める。
やっとマンションにたどり着き、玄関を閉めると全身から力が抜けた。

「あー……だりぃ」

引っ越してからまだ数日。
家具もほとんど揃っておらず、この部屋はまだ仮住まいのような落ち着かなさがある。

着替えや日用品の一部は前のマンスリーマンションに置いたまま。
――そうしておけば、洋介はまだ自分があの部屋にいると思い込めるだろう。

「さてと……何食おっかな」

しかし、完全に新しい生活に切り替えたわけではない。
荷ほどきも中途半端で、毎日の食事も簡単に済ませている俺の部屋に、ふとインターホンが響いた。

「……っ」

思わず肩が跳ねる。誰だろう、と胸がざわつきながらも、ほんの一瞬――拓実かもしれない、そんな期待が頭をかすめた。

けれど、すぐに自分で打ち消す。
二人で会わないようにしているんだから、来るわけないか……。

苦笑まじりに心の中でそう呟きながら、そっと玄関へ歩み寄る。

「……はい、どなたですか?」

ドアを開けてみると――そこに立っていたのは拓実ではなく、見知らぬ男だった。

「すみません、隣の部屋に越してきた滝沢という者です。ちょっとご挨拶をと思いまして……」

中肉中背で落ち着いた雰囲気。スーツ姿だがネクタイを緩め、微かに疲れを滲ませている。
だが、その目だけは妙に鋭く、観察するように俺を見ていた。

「どうも、一ノ瀬です。俺も最近引っ越してきたところで……よろしく」
「こちらこそ。あの、最近この辺りで事件や不審者の噂もあるのご存知ですか?」
「……いや、特には」

思わず曖昧に返す。
本当はそういう物騒な話に敏感になっているはずなのに、唐突にそんなことを切り出され、少し身構えてしまった。

滝沢さんはわずかに首を傾げ、声を落として続ける。

「夜に女性がつけられたとか、部屋を覗かれたとか……。警察沙汰にはなってないみたいですけど」
「……そう、なんですか」

わざとらしくはない。だが、妙に具体的な言葉が耳に残る。
ただの隣人の挨拶にしては、少し踏み込みすぎている気がした。

「もし困ったことがあれば、気軽に連絡してください」

滝沢さんはそう言って、胸ポケットから名刺大のカードを取り出す。
差し出されたそれには電話番号とメールアドレスだけが記されていて、肩書きも会社名もない。

自然な笑みを浮かべる滝沢さん。
だが、俺の胸の奥には、どうしても拭えない違和感が残った。

「……ありがとうございます」

滝沢さんを見送ったあとも、しばらく玄関のあたりに立ち尽くしてしまった。

――観察されているような、そんな感覚。

受け取ったカードを眺めながら、落ち着かない気持ちを抱えたまま、俺は部屋の奥へと戻っていった。



半端に積み上げたダンボールの山に目をやりつつ、気を紛らわせるようにベッドに腰を下ろす。

ポケットから取り出したスマホを開いた瞬間、タイムラインの見出しが目に飛び込んできた。

"大手映像制作会社の神谷 拓実社長が、一般人女性と交際か!?"

「……は?」

指先が止まる。
添えられているのは、拓実と見知らぬ女性が並んで歩く写真。
笑顔で肩を並べるその姿が、胸の奥を一気にざわつかせた。

コメント欄も賑やかで、軽い噂話のように盛り上がっている。
見間違いじゃない。何度見返しても、そこに映っているのは拓実だ。

「……いや……マジかよ」

呼吸が浅くなる。
二人で会うことさえ控えている俺の知らないところで、拓実は――?

スクロールを進めるたびに写真は増え、二人の距離の近さが強調されるように目に入ってくる。
胸の奥のもやもやが重く膨らみ、思わず肩をすくめた。

スマホからは非通知着信。
たぶん、洋介だ。

留守番電話には大量の脅迫メッセージ。

「もうやめてくれ……」

夜の静けさの中、手の中のスマホが、俺の心をさらにかき乱していく。


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