【完結】クズ彼氏に悩んでた俺が、イケメン社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

文字の大きさ
47 / 102
恋と忠誠の間で

4.お前から目が離せない

しおりを挟む
プロデューサーたちとの会話は順調に進む。
軽口を交わしながら、次の企画やスケジュールの話へ移っていく。
俺は輪の中心にいながらも、自然と遥の方に視線が向いていた。

「一ノ瀬さん、こういう場って初めて?」

ディレクターの一人が気さくに遥に声をかける。

「はい。普段は編集部で働いてますけど、今日は勉強のために神谷社長に同行させていただきました。まだ慣れてなくて……足引っ張らないように気をつけます」

言い方は丁寧なのに、変に構えてなくて自然。
そういうところが好きだ。

「そっか。じゃあ今度、現場にも顔出してよ」

別のプロデューサーが笑いながら言うと、遥はちょっと照れたみたいに口元を緩める。
その仕草ひとつで空気が和らいで、周りもつられて笑っていた。

――あいつは自然と人を惹きつけるんだよな。

その時、会話の輪に外国人男性が近づいてきた。
モデルか何かだろうか、顔もスタイルもいい。
身振り手振りを交えながら、にこやかに遥に話しかける。

「Are you…with Takumi Kamiya? Very charming, by the way.」
(神谷拓実の付き添いですか? 魅力的ですね)

遥は一瞬だけ俺をちらりと見た。
でもすぐに柔らかい笑顔を作り、淀みなく英語で返す。

「Yes, I’m here with him. Thank you.」

俺がいないと、やっぱり少し気になるのか。
……いや、気にしてんのは俺か。

俺の隣にいるはずのあいつが、他の男に話しかけられている。
少し嫉妬混じりの熱が、じわじわと体の奥に広がる。

頼もしい対応をする遥に少し安心する一方で、胸のもやもやは消えなかった。

……やっぱり、あいつの視線は俺だけに向けてほしい。

そんなことを考えていると、パーティーの喧騒が少し落ち着いたタイミングで、田中がそっと声をかけてきた。

「神谷社長、この後ちょっとお時間あります? 会場のバーなら、もう少し落ち着いてお話できると思うんですが」

すぐ横で、華園社長が笑顔で乗ってきた。

「私もご一緒していいかしら? 静かな場所の方が、色々聞けそうだもの」

……正直、気分は乗らない。
でもこのタイミングで断るのも変だし、空気を悪くするのも面倒だ。

「……いいですよ。一ノ瀬、行こうか」

ちらりと視線を向けると、遥は一瞬きょとんとして、それから「はい」と小さく頷いた。
その素直さが、やけに可愛く見えてしまう。

こうして俺と遥、華園社長と田中の四人で、会場の片隅にあるバーへ移動することになった。

照明を落としたその空間は、さっきまでの華やかな雰囲気とは違い、ぐっと大人っぽくて静かだ。
カウンター越しにバーテンダーがグラスを磨き、シェイカーの音が乾いたリズムを刻んでいる。

「……緊張してきた」

小声でそう言ってくる遥に、「大丈夫だよ。俺がいるから」とわざと余裕ぶって返す。

カウンター席に腰を下ろすと、並べられたグラスの中で琥珀色の液体がライトにきらりと光った。

「じゃあ、改めて――今夜に乾杯しましょう」

華園社長がグラスを掲げ、俺たちも軽く合わせて口をつける。
すぐに田中が、自然な流れで遥へ話を振った。

「一ノ瀬さん、神谷社長の隣にいると、結構目立ってましたね」
「……そ、そんなことないです」
「いいえ、事実ですわ」

華園社長が面白そうに笑って、グラスを軽く揺らす。

「まあ、優秀だからこそ、俺の側にいるんです」

そう言うと、田中はちらっと俺を見て、肩をすくめる。
遥がふと俺を見上げる。視線が一瞬絡み、互いに何も言わないまま時間が止まったように感じる。

「……神谷社長って、独占欲強いんですね」

華園社長がくすくす笑う。
田中はグラスを口に運びながら、ゆっくりと遥を見据える。

「少し、羨ましくなりますね」

声は穏やかだが、言葉には微かな熱がにじむ。その目は遥から逸れなかった。

「神谷社長の実力も人望も、僕は尊敬しています。そんな人に大事にされる一ノ瀬さんは、やっぱり特別なんでしょうね」

……確かに特別だ。でも、変に勘繰られたくはない。

「まあ、そういうもんだよ」

俺の一言に遥の手がグラスの縁で止まり、視線が一瞬こちらを探す。
その小さな仕草さえ、田中は見逃さずに口の端を上げた。

「正直、僕が社長の立場でも、隣にいてほしいくらいです」

田中はわざと俺へ視線を流す。

――俺の隣にあるものを、奪ってやるとでも言うように。

その微妙な間を縫うように、華園社長が軽く微笑み、グラスを傾けた。

「神谷社長はいつでも余裕なのね……さすがだわ。そういうところ、本当素敵ね」

肩をわずかに内側に寄せ、首をかしげるその仕草に、胸がざわりと熱くなる。
目の前の距離感は自然なのに、やけに“近い”。

隣で遥がふと眉をひそめ、小さく息を呑むのが見えた。

胸の奥でじんわり火が灯り、熱が広がっていく。  
俺はグラスを傾けるふりをして、その熱を隠すようにゆっくりと息を吐いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気づいたらスパダリの部屋で繭になってた話

米山のら
BL
鎌倉で静かにリモート生活を送る俺は、極度のあがり症。 子どものころ高い声をからかわれたトラウマが原因で、人と話すのが苦手だ。 そんな俺が、月に一度の出社日に出会ったのは、仕事も見た目も完璧なのに、なぜか異常に距離が近い謎のスパダリ。 気づけば荷物ごとドナドナされて、たどり着いたのは最上階の部屋。 「おいで」 ……その優しさ、むしろ怖いんですけど!? これは、殻に閉じこもっていた俺が、“繭”という名の執着にじわじわと絡め取られていく話。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

双子のスパダリ旦那が今日も甘い

ユーリ
BL
「いつになったらお前は学校を辞めるんだ?」「いつになったら俺らの仕事の邪魔をする仕事をするんだ?」ーー高校二年生の柚月は幼馴染の双子と一緒に暮らしているが、毎日のように甘やかされるも意味のわからないことを言ってきて…「仕事の邪魔をする仕事って何!?」ーー双子のスパダリ旦那は今日も甘いのです。

処理中です...