【完結】クズ彼氏に悩んでた俺が、イケメン社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

文字の大きさ
48 / 102
恋と忠誠の間で

5.今日の疲れは、俺の腕の中で

しおりを挟む
パーティーとその後のバーでの時間を終え、ようやく解放された。
タクシーで送ってもらった帰り道、玄関を開けた瞬間にどっと疲れが押し寄せる。

「はぁー……疲れたぁ!」

遥は靴を脱ぎ散らかして、リビングのソファーにそのまま倒れ込む。
ネクタイを緩めてだらんと腕を投げ出す姿に、思わず笑ってしまった。

「お前、帰ってくるなりそれかよ」
「だって……今日一日緊張しっぱなしだったんだってば」

ぐったりした声で天井を見ながら、遥が弱音を吐く。
俺もジャケットを椅子にかけて、隣に腰を落とした。
ソファーに沈み込む感覚と、すぐ隣にいる遥の熱が心地いい。

「でも、ちゃんとやれてたじゃん」
「え?」
「プロデューサーたちとも普通に話してたし、英語だってすぐ返してたし。……俺、ちょっとびっくりした」
「なにそれ、褒めてんの?」
「当たり前。めっちゃ助かった」

そう言うと、遥が照れたみたいに小さく笑う。

「でもさ」

俺はわざとらしく体を傾けて、ソファーに横たわる遥に近づいた。

「お前、あの外国人とやり取りしてる時……俺のこと見ただろ?」
「えっ……だって、ちょっと不安だったし」
「ふーん。不安、ねぇ」

口の端が自然に上がる。思わず、遥の額を軽く指でつついた。

「なにすんだよ」

むっとした顔で俺を見上げてくる。

「可愛いってこと」

そのまま頬に触れる。少し冷たくなっていて、つい自分の体温を移すように撫でた。

「……拓実、やめろよな」

小さな声で抗議しながらも、逃げようとはしない。

「やめない」

わざと低い声で囁いて、額に軽く唇を触れさせる。

「ちょ、近いって……」

焦ったように身じろぎする遥をソファーに軽く押さえ込む。

「俺のことチラチラ見て、緊張してたくせに」
「そんなに見てねえよ!」
「嘘。さっきもバーで、俺のこと見てただろ」

遥は完全に言葉に詰まって視線を逸らす。
それがまた、たまらなく可愛くて。

「ほらな」

笑いながら、今度は首筋に軽くキスを落とす。

「ひゃっ……!」

小さく肩をすくめて声を上げる遥。

「なにその声。……もっと聞きたい」
「バカ……っ」

その反応が楽しくて、つい頬や耳に何度もキスを散らす。

「もう、疲れてんのに……」

小さく笑いながら抗議する声も、頬を赤らめる仕草も、全部愛おしい。

「いいじゃん。疲れ取れるかもしんねえし」
「そんなわけ……」

言いかけて視線を伏せる。その照れ隠しの横顔を見ながら、胸の奥がじんわり温かくなる。

――なのに、ふと脳裏をよぎる。

さっきバーで、遥に向けられていた田中の目。そして、意味深に笑っていた華園社長。

気づけば、遥を抱き寄せる腕に力がこもっていた。

「拓実?」

不思議そうに俺を見上げる遥。

「……いや、なんでもない」

首を振り、強引に笑みを作る。
せっかく二人きりの時間なのに――あの二人の顔が浮かぶのが、妙に気に入らなかった。

「……シャワー浴びてくる」

起き上がった遥は、視線を逸らしたまま立ち上がる。

「おい、逃げんなよ」
「逃げてねぇし。ただ汗かいたし……」
「俺だって汗かいてんのに」

俺がじとっと睨むと、遥はタオルを手にしてそそくさとバスルームへ向かう。

「一緒に入るとか言わねぇよな?」
「言わねぇよ。でも……俺はその方がいいけどな」
「バカか」

振り返りざま、ちょっとだけ視線が合った。

「……後で、ちゃんと相手すっから」

小声で言い捨てるようにして、すぐにドアの向こうへ消えていく。
バスルームのドアが閉まる音が妙に響いて、俺は思わず苦笑した。

ソファーに背を預けて息を吐き、スマホを手に取る。
画面には、華園社長からのメッセージ通知が光っていた。

――“今夜は楽しかったわ。またゆっくりお話ししましょう”

「……はぁ」

眉がわずかに動き、指先でスクリーンをなぞりかけて、やめる。
既読はつけずに、画面を伏せてテーブルへ置いた。

しばらくして、バスルームのドアが開く。
濡れた髪をタオルで拭きながら、白いTシャツ姿の遥が戻ってきた。
頬がほんのり赤く、シャンプーの匂いが漂う。

「……何してんの? そんな顔して」

不思議そうに首をかしげられ、俺はそっぽを向いた。

「だって、お前……逃げただろ」

遥が苦笑しながら隣に腰を下ろす。
その瞬間、体温と匂いが一気に近づき、余計に拗ねた気持ちが膨らむ。

「……逃げてねえし。ただ、顔熱くなって……恥ずかしかっただけ」

その一言で、胸の奥がほどけていく。

「なら、ちゃんとこっち来いよ」
「……はいはい」

渋々みたいに言いながら、遥が俺の肩に体を預ける。

「やっぱり遥は可愛い」
「……言うなって」

軽い体温が伝わってきて、思わず笑ってしまった。
スマホに残る華園のメッセージなんて、どうでもよくなる。

――俺が欲しいのは、目の前のこいつだけだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気づいたらスパダリの部屋で繭になってた話

米山のら
BL
鎌倉で静かにリモート生活を送る俺は、極度のあがり症。 子どものころ高い声をからかわれたトラウマが原因で、人と話すのが苦手だ。 そんな俺が、月に一度の出社日に出会ったのは、仕事も見た目も完璧なのに、なぜか異常に距離が近い謎のスパダリ。 気づけば荷物ごとドナドナされて、たどり着いたのは最上階の部屋。 「おいで」 ……その優しさ、むしろ怖いんですけど!? これは、殻に閉じこもっていた俺が、“繭”という名の執着にじわじわと絡め取られていく話。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

双子のスパダリ旦那が今日も甘い

ユーリ
BL
「いつになったらお前は学校を辞めるんだ?」「いつになったら俺らの仕事の邪魔をする仕事をするんだ?」ーー高校二年生の柚月は幼馴染の双子と一緒に暮らしているが、毎日のように甘やかされるも意味のわからないことを言ってきて…「仕事の邪魔をする仕事って何!?」ーー双子のスパダリ旦那は今日も甘いのです。

処理中です...