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【第一章】運命の歯車
2.再会という奇跡
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あれから一週間。
午前6時。
私は『まんぷく亭』の厨房で、せっせと唐揚げを揚げていた。
「カヤちゃん、そっちのご飯炊けた?」
「はい! 今ちょうど蒸らし終わりました!」
元気に返事して、炊飯器を開ける。
ふわりと立ち上る湯気と、炊きたてのご飯の香り。
あー、幸せな匂い。
『まんぷく亭』は、この辺りで評判のお弁当屋さん。
店主の田中幸三さんと、その奥さんの春子さんが営んでいる小さなお店。
私は週に5日、朝6時から昼12時まで、ここで働いてる。
「カヤちゃんは本当に働き者だねえ。でも無理しちゃダメだよ?」
春子さんが、お母さんみたいな優しい目で私を見つめてくる。
「大丈夫です! 私、体力には自信ありますから!」
幸三さんが厨房から顔を出した。
「おお、そういえばカヤちゃん。最近、新しい常連さんが来るんだよ」
「常連さん、ですか?」
「ああ。すごいいい男でさあ。スーツがバシッと決まっててよ。毎日、カヤちゃんが作った唐揚げ弁当を買っていくんだ」
春子さんもうんうん、と頷く。
「そうそう! 背が高くて、ハンサムで。でもなんだか、近寄りがたい雰囲気もあるのよね。あ、でも悪い人じゃなさそうよ」
「へえ……」
私の作ったお弁当を気に入ってくれる人がいるんだ。
それだけで、何だか嬉しい。
「もしかしたら、カヤちゃん狙いかもね」
「な、春子さん! そんなわけないですって!」
顔が熱くなる。
私なんかを狙う人なんて、いるはずない。
お昼過ぎ。
ちょうど昼休憩で、私は店の片隅でおにぎりを頬張っていた。
カランカラン――
入口のベルが鳴る。
「はーい、いらっしゃいませ!」
幸三さんの声と共に、私も顔を上げる。
そして――固まった。
「……!!」
スーツ姿の男の人。
先週、私を助けてくれた、あの人だった。
嘘、でしょ……?
男の人も、私に気づいた。
一瞬、驚いたような表情。でも、すぐに穏やかな顔に戻る。
「……唐揚げ弁当を一つ」
「はいよ! カヤちゃん、お願い!」
幸三さんに促されて、私は慌てて立ち上がった。
「は、はいっ!」
心臓がバクバクうるさい。
お礼、ちゃんと言わなきゃ。でも何て言えばいいんだろう……。
私は震える手で弁当を包みながら、何度も口を開きかけた。でも、言葉が出てこない。
レジで会計を済ます男の人。
私は意を決して、小さく呟いた。
「あの……この前は、ありがとうございました」
男の人は、少しだけ目を細めた。
「気にしなくていい。無事で何より」
すごく優しい声。
胸が、ぎゅっとなった。
「あの、その……お名前、聞いてもいいですか?」
「……桐島。桐島柊也」
「桐島さん……」
私は、その名前をもう一度心の中で繰り返した。
桐島柊也さん。
桐島さんは、私の名札を見る。
「深月、さん?」
「え? あ、深月カヤです!」
「カヤ、さんか」
自分の名前が、桐島さんの口から発せられる。
なんだか、それだけで胸がドキドキした。
「また来る」
桐島さんはそう言い残して、お店を出て行った。
私は、その背中を見送りながら、小さく微笑んだ。
――また会える。
なぜか、そう確信できた。
幸三さんが、ニヤニヤしながら言う。
「カヤちゃん、あの人だよ。毎日来る常連さん」
「え……そうなんですか? 毎日……」
「そう。もう一週間くらい通ってるかな」
一週間も……?
私、全然気づかなかった。
朝は厨房にこもってることが多いから。
「きっとカヤちゃん狙いだよ」
「もう、幸三さんったら」
顔を赤くする私を、春子さんと幸三さんは楽しそうに笑った。
でも……
また会えるんだ。桐島さんに。
その事実が、何だかとても嬉しかった。
午前6時。
私は『まんぷく亭』の厨房で、せっせと唐揚げを揚げていた。
「カヤちゃん、そっちのご飯炊けた?」
「はい! 今ちょうど蒸らし終わりました!」
元気に返事して、炊飯器を開ける。
ふわりと立ち上る湯気と、炊きたてのご飯の香り。
あー、幸せな匂い。
『まんぷく亭』は、この辺りで評判のお弁当屋さん。
店主の田中幸三さんと、その奥さんの春子さんが営んでいる小さなお店。
私は週に5日、朝6時から昼12時まで、ここで働いてる。
「カヤちゃんは本当に働き者だねえ。でも無理しちゃダメだよ?」
春子さんが、お母さんみたいな優しい目で私を見つめてくる。
「大丈夫です! 私、体力には自信ありますから!」
幸三さんが厨房から顔を出した。
「おお、そういえばカヤちゃん。最近、新しい常連さんが来るんだよ」
「常連さん、ですか?」
「ああ。すごいいい男でさあ。スーツがバシッと決まっててよ。毎日、カヤちゃんが作った唐揚げ弁当を買っていくんだ」
春子さんもうんうん、と頷く。
「そうそう! 背が高くて、ハンサムで。でもなんだか、近寄りがたい雰囲気もあるのよね。あ、でも悪い人じゃなさそうよ」
「へえ……」
私の作ったお弁当を気に入ってくれる人がいるんだ。
それだけで、何だか嬉しい。
「もしかしたら、カヤちゃん狙いかもね」
「な、春子さん! そんなわけないですって!」
顔が熱くなる。
私なんかを狙う人なんて、いるはずない。
お昼過ぎ。
ちょうど昼休憩で、私は店の片隅でおにぎりを頬張っていた。
カランカラン――
入口のベルが鳴る。
「はーい、いらっしゃいませ!」
幸三さんの声と共に、私も顔を上げる。
そして――固まった。
「……!!」
スーツ姿の男の人。
先週、私を助けてくれた、あの人だった。
嘘、でしょ……?
男の人も、私に気づいた。
一瞬、驚いたような表情。でも、すぐに穏やかな顔に戻る。
「……唐揚げ弁当を一つ」
「はいよ! カヤちゃん、お願い!」
幸三さんに促されて、私は慌てて立ち上がった。
「は、はいっ!」
心臓がバクバクうるさい。
お礼、ちゃんと言わなきゃ。でも何て言えばいいんだろう……。
私は震える手で弁当を包みながら、何度も口を開きかけた。でも、言葉が出てこない。
レジで会計を済ます男の人。
私は意を決して、小さく呟いた。
「あの……この前は、ありがとうございました」
男の人は、少しだけ目を細めた。
「気にしなくていい。無事で何より」
すごく優しい声。
胸が、ぎゅっとなった。
「あの、その……お名前、聞いてもいいですか?」
「……桐島。桐島柊也」
「桐島さん……」
私は、その名前をもう一度心の中で繰り返した。
桐島柊也さん。
桐島さんは、私の名札を見る。
「深月、さん?」
「え? あ、深月カヤです!」
「カヤ、さんか」
自分の名前が、桐島さんの口から発せられる。
なんだか、それだけで胸がドキドキした。
「また来る」
桐島さんはそう言い残して、お店を出て行った。
私は、その背中を見送りながら、小さく微笑んだ。
――また会える。
なぜか、そう確信できた。
幸三さんが、ニヤニヤしながら言う。
「カヤちゃん、あの人だよ。毎日来る常連さん」
「え……そうなんですか? 毎日……」
「そう。もう一週間くらい通ってるかな」
一週間も……?
私、全然気づかなかった。
朝は厨房にこもってることが多いから。
「きっとカヤちゃん狙いだよ」
「もう、幸三さんったら」
顔を赤くする私を、春子さんと幸三さんは楽しそうに笑った。
でも……
また会えるんだ。桐島さんに。
その事実が、何だかとても嬉しかった。
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