社長に拾われた貧困女子、契約なのに溺愛されてます―現代シンデレラの逆転劇―

砂原紗藍

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【第一章】運命の歯車

6.正体の発覚

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「桐島、社長……?」

思わず呟いた私の声に、桐島さんとその隣の男性が一瞬、固まった。

「あ……」

男性が慌てた表情になる。

「し、失礼しました! 私の勘違いで――」
「葉山」

桐島さんの低く落ち着いた声が、男性を制した。
そしてゆっくりと私に向き直る。

「深月さん、少し話がある」

私は呆然としたまま頷いた。

店の外のいつものベンチに座り、私と桐島さんの二人きり。

――沈黙。

どう切り出せばいいのか、言葉が出てこない。

「……驚いたか」

桐島さんが先に口を開いた。
私は小さく頷く。

「はい……あの、桐島さんって――」
「桐島グループの、代表取締役社長だ」

――桐島グループ。
テレビのニュースで何度も見た、大きな会社。
その社長が……目の前に?

「隠しててすまない」

桐島さんの声が、申し訳なさそうだった。

「でも、最初から社長だと名乗ったら、君は距離を置いただろう?」
「え……」
「俺は、普通の男として、君と話がしたかった」

桐島さんは、真っ直ぐに私を見つめた。

「だから、隠していた。ごめん」

私は少し混乱していた。
桐島さんが、社長。すごい人。
……私なんかとは、全然違う世界の人。

「私……」
「嫌いになったか?」

桐島さんの声が、少しだけ不安そうだった。
私は、慌てて首を横に振った。

「いえ、そんなことないです! ただ……びっくりして」
「そうか」

桐島さんは、ホッとしたような表情を浮かべた。

「よかった」
「でも……」

私は、俯いた。

「私、桐島さんが社長さんだって知らなくて。すごく失礼なこと、たくさん言っちゃってたと思います」
「そんなことない」
「それに……社長さんと、私みたいな普通の子が友達だなんて、おかしいですよね」

そう言った瞬間——

「おかしくない」

桐島さんの声が、優しい。

「桐島、さん……」
「社長だろうが何だろうが、俺は俺だ」

桐島さんは、少しだけ目を細めて穏やかに笑った。

「それに、君とは――」

その瞬間、桐島さんのスマホが鳴った。

「……すまない」

桐島さんは少し残念そうに電話に出た。

「ああ、今から戻る」

電話を切ると、立ち上がった桐島さん。

「仕事が入った。行かないと」
「はい……」

私も立ち上がると、桐島さんはそっと私の頭に手を置いた。

「また明日」
「はい。お仕事、頑張ってください」

小さく笑って車に乗り込む桐島さんを見送り、私はその場に立ち尽くす。

桐島さんが、社長。
……すごい人。

でも、変わらず優しくて温かい。
私の中で、桐島さんへの想いが——さらに深まっていくのを感じた。



数日後。
私は、いつものように『まんぷく亭』で働いていた。

桐島さんが社長だと知ってから、少しだけ緊張するようになった。
でも、桐島さんは変わらず優しく接してくれる。

「深月さん、今日の仕事が終わったら、少し時間をもらえないか?」

昼休み、桐島さんがそう言った。

「え? あの……」
「話したいことがある」

桐島さんの真剣な表情に、私は思わず息を呑んだ。

「は、はい」
「じゃあ、18時に店の前で」
「分かりました」

桐島さんは、弁当を持って店を出て行った。
私は、その背中を見送りながら、胸を押さえた。

ドキドキが止まらない。
話って、何だろう。

18時。
私は、『まんぷく亭』の前で桐島さんを待っていた。
着替えて髪も整えて、少しだけお化粧もした。

「深月さん」

振り返ると、桐島さんが車から降りてきた。
いつものスーツ姿。
でも、何だかいつもより緊張してる気がする。

「お疲れ様です」
「ああ。車に乗ってくれ」
「え……? あの、どこに――」
「少し、静かな場所で話したい」

桐島さんの真剣な表情に、私は頷いた。
車は、高台にある展望台に着いた。
夜景が綺麗に見える場所。

「綺麗……」

思わず呟くと、桐島さんは小さく笑った。

「気に入ってくれたか」
「はい!」

二人で、ベンチに座る。
桐島さんが何か言おうとして、でも、言葉が出ない様子。

「深月さん」

やっと、桐島さんが口を開いた。

「俺には問題がある」
「問題……?」

桐島さんは、夜景を見つめながら話し始めた。

「祖母から、30歳までに結婚しろと迫られている」
「結婚……」
「ああ。『結婚しなければ、会社を弟に譲る』とまで言われた」

桐島さんは、ため息をついた。

「それに、ビジネス絡みの縁談も多い。正直、面倒で仕方ない」

私は、黙って聞いていた。

「だから――」

桐島さんは、真っ直ぐに私を見つめた。

「君に、頼みたいことがある」

私の心臓が、大きく跳ねる。

「俺の“偽装恋人”になってほしい」
「……え?」


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