【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍

文字の大きさ
3 / 26
【第一章】優しい隣人と半猫の僕

1.雨に濡れて、秘密バレ

しおりを挟む
雨が降り始めた。

――やばっ……早く帰らないと……!

濡れたら、耳としっぽが出ちゃう。

僕は傘も持たず、駅へ向かって必死に走った。
空はすでに暗く、冷たい雨粒が容赦なく降り注いでくる。
身体が濡れた瞬間、頭の上がむずむずして――

ぴょこん。

三毛猫模様の耳が勝手に飛び出し、腰のしっぽは雨に濡れて、しんなり垂れた。

「最悪……」

僕は慌てて近くのコンビニの軒下へ駆け込む。
濡れた前髪を払って、小さくうずくまった。

「どうしよう……帰れない……」

――これが僕の秘密。

雨に濡れたり、感情が高ぶったりすると、隠していた猫耳としっぽが出てきてしまう“半猫体質”。
普段は完全に人間で大学に通っているけど、一度出てしまうと元に戻るまで時間がかかる。

このままじゃ動けないし……
うぅ……お腹も空いた……。

困り果ててうずくまっていたその時。

「レン? どうしたんだ、そんなところで」

ぴくん、と猫耳が勝手に反応してしまった。

顔を上げた瞬間、全身が固まった。
そこに立っていたのは、同じマンションの隣の部屋に住む――橘カナトさん。
スーツ姿で、片手には折り畳み傘。もう片方にはコンビニの袋。

「か、カナトさん……!」

……終わった。

僕は慌てて猫耳を押さえ、しっぽを背中側に隠そうとしたけど無理だった。
ゆらゆらと暴れるしっぽは、逆に存在を強調するだけで――全然隠れない。

……完全に見られた。

カナトさんの視線が、僕の頭と腰で止まる。

「……可愛いな。猫のコスプレか?」
「ち、違う! 見ないで!」

恥ずかしさで顔が熱くなって、思わず背を向ける。
しっぽがぴん、と跳ね上がる。

「ん? それ……本物、なのか?」
「……っ!」

静かな声で言われた瞬間、しっぽがしゅんと垂れた。
認めたくないのに、否定もできない。

カナトさんは隣の部屋に住んでいて、時々廊下で会って話す関係。
優しいし、落ち着いていて、さりげなく気遣ってくれて――
実は、密かにカッコいいなと思っていたけど。

こんな姿見られたら、気味悪がられるに決まってる。 
絶対、もう普通に接してもらえない……。

「っ、あっち行って!」
「あの、レン。落ち着け」
「落ち着けるわけないよ! こんな姿見られちゃったんだから!」

声が震えて、耳は情けなく伏せたまま。
しっぽもだらりと下がって足の間に隠れようとしてる。

……ほんと、この体質、いまだけは大嫌いだ。

カナトさんは少し考えた後、落ち着いた声で言った。

「とりあえず、俺の傘に入って一緒に帰ろう。このままじゃ風邪引くぞ」

その優しさが、逆に怖かった。

「でも……」
「大丈夫。誰にも言わない」

その表情には嫌悪感は見られなかった。

本当に? 本当に信じていいの?

「……本当に、誰にも言わない?」
「ああ、約束する」

嘘をついてる目じゃない。
僕はしばらく迷った。

……このままじゃ風邪どころか、心が壊れそう。

「……お願いします」
「ん。行こうか」

コンビニを出ると、雨は相変わらず激しく降っていた。
カナトさんが傘を差し出してくれる。

「ほら、入りな」
「あ……ありがとう」

僕は恐る恐るカナトさんの傘の下に入った。

……距離が近い。
スーツの袖が僕の肩に触れそうなくらい。

「寒くないか?」
「別に……平気」

強がってそう答えたけど、実際は濡れた服が冷たくて震えそうだった。
カナトさんは何も言わず、ただ黙々と歩いた。
僕も黙っていた。何を話せばいいのか分からない。

……ていうか、カナトさん、どう思ってるんだろう。
化け物? 
それとも、気持ち悪い?

胸の奥がずきずきして、マンションまでの道のりが、いつもより長く感じた。



マンションに着いて、エレベーターに乗りこむ。
僕たちは同じ3階で、部屋は隣同士。
静かな密室の中で、カナトさんがふと言った。

「レン、とりあえずうちに来ないか? タオルもあるし……風呂もすぐ沸かせる」
「え……でも……」
「そのままじゃ風邪引くだろ。それに……ちゃんと話も聞きたい」

カナトさんの視線がぴょこんと出たままの猫耳に向けられる。
僕は思わず手で隠した。

「別に、話すことなんてないよ……」

どうせ気持ち悪いって思ってるんでしょ。
好奇心で見たいだけなんじゃないの。

「無理強いはしない。でも、俺は何も言わないから。安心して」

カナトさんの声は優しかった。
本当に、心から優しい声だった。

……信じてもいいのかな。

僕は少し迷った後、小さく頷いた。

「……わかった」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

αとβじゃ番えない

庄野 一吹
BL
社交界を牽引する3つの家。2つの家の跡取り達は美しいαだが、残る1つの家の長男は悲しいほどに平凡だった。第二の性で分類されるこの世界で、平凡とはβであることを示す。 愛を囁く二人のαと、やめてほしい平凡の話。

可愛いがすぎる

たかさき
BL
会長×会計(平凡)。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...