【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍

文字の大きさ
4 / 26
【第一章】優しい隣人と半猫の僕

2.気になっていた隣人に拾われる

しおりを挟む
「……お邪魔します」
「ああ、入って」

カナトさんの部屋に足を踏み入れた瞬間、ふわっと柔らかい空気に包まれた。

僕の部屋と同じ間取りだけど、印象がまるで違う。
リビングには本棚とソファ、小さなテーブル。無駄なものがなくて、落ち着いた雰囲気。

「そこ座ってて。タオル持ってくる」
「うん……」

僕はソファに腰を下ろした。

……しっぽが邪魔で座りにくい。

少し位置をずらして座ると、自然とソファの背もたれに沿うように落ち着いた。

カナトさんが洗面所から戻ってきて、ふかふかのタオルを手渡してくれた。

「ありがとう……ございます」
「ふはっ、なんで敬語なんだよ」

そっと猫耳を押さえながら、タオルで濡れた髪と耳を拭く。
しっぽも軽くタオルで包んで、びしょびしょの水分を吸い取る。

カナトさんはじっと僕の様子を見ていた。

「……そんなに見ないでよ」
「悪い。でも、可愛いって思っただけ」

にっこり笑って、彼はソファの反対側へ腰を下ろした。
触れられない程度の、絶妙な距離。

「風呂、沸かしてるから」
「……うん」
「濡れて冷たかっただろ。少しはあったまるといいんだけど」
「……ありがとう」

そっけなく言ったつもりなのに、しっぽが嬉しそうに揺れてしまって――
僕は思わずタオルで隠した。

「本物の、猫なのか?」
「……半猫」

小さな声で答えながら、髪を拭きつつぽつぽつと話し始める。

「人間の姿だけど、猫の特徴も持ってる。雨に濡れたり、感情が高ぶったりすると、耳としっぽが出ちゃうんだ」
「……そうなのか」

カナトさんは真剣な表情で聞いていた。
からかったり、遠ざけたりする様子なんて少しもない。

「……気持ち悪いでしょ」

僕はうつむいた。
猫耳がしゅんと下がってしまう。

いつもこうだ。
誰かに知られると、最初は興味本位で近づいてくる。
でも、そのうち飽きて、気味悪がられて、離れていく。

「気持ち悪いなんて、思うわけないだろ」

カナトさんの声が優しく響いた。

「むしろ……可愛いと思うけど」
「えっ?」

僕は顔を上げた。カナトさんは少し照れたように笑っていた。

「なっ……か、可愛くないから! 僕は男なんだけど!」
「男とか関係ないだろ。耳も、しっぽも……見てたら、普通に可愛い」

そう言いながら、カナトさんの手がそっと伸びてきた。

「ちょ、ちょっと……! 触んないで――」

止めるより早く、指先が猫耳に触れた。
ふわ、と優しく撫でられる。

「……っ、ん……!」

こみ上げる声が抑えきれず、漏れてしまう。
その瞬間、顔の熱が一気に上がった。

……恥ずかしすぎる。

耳は敏感だ。
触られたところから、くすぐったいような、ぞくっとするような感覚が全身に広がる。

「ごめん。つい、触りたくなって」

本気で悪気がない声だった。

「……触んないでって言ったのに……」

そう言ってるのに、しっぽだけは嬉しそうに大きく揺れていた。
自分でも止められなくて、思わず睨むようにしっぽを押さえる。

……もう、勝手に反応するなよ。

「はは。お前のしっぽ、めちゃくちゃ正直だな」

カナトさんが楽しそうに笑う。
でも、馬鹿にしてる笑顔じゃない。本当に、楽しそうに笑ってる。

その声がまた胸をくすぐって、余計にしっぽは止まらなくなった。

「しっぽは勝手に動くだけだし!」
「そっか。じゃあ、レンは本当は嬉しいってことか?」
「う、嬉しくなんか……」

言葉が続かなかった。
だってカナトさんが、あまりに優しく笑うから。

「レン、俺はお前の秘密、誰にも言わないから」
「……なんでそんなに優しくしてくれるの?」

ずっと疑問だった。
普通なら気持ち悪がられてもおかしくないのに。

「理由なんていらないだろ。お前が困ってるのを放っとけなかっただけだよ」
「……変なの」
「そうかもな」

カナトさんはまた笑った。
その笑顔が、何だかとても温かくてかっこよくて。
僕のしっぽが、ふわりとカナトさんの方に伸びた。

「あ……」

慌ててしっぽを引っ込めようとしたけど、カナトさんはそれを見て優しく笑った。

「……かーわいい」
「可愛くない……」
「レン、無理に隠さなくていいよ。ここでは、ありのままでいて」

その言葉に僕の胸が温かくなった。
この姿を、こんなに優しく受け入れてくれる人がいる。

それから、他愛ない話をいくつかした。
カナトさんは会社員で、IT関係の仕事をしているらしい。25歳。僕より6歳上。

「レンは大学生なんだよな。何年生?」
「2年」
「そうか。勉強は大変か?」
「まあ、普通」

素っ気なく答えたつもりなのに、カナトさんは全く気にした様子もなく、話を続ける。

「そういえば、レンはいつからその……半猫なんだ?」
「生まれつき。物心ついた時からこう」
「そうなのか。大変だったろうな」
「別に……慣れてるから」

嘘だ。本当は大変だった。

雨の日は絶対に濡れないように。
体育の授業で興奮しすぎないように。
友達と喧嘩しても怒りすぎないように。

子供の頃から、気をつけなきゃいけないことがたくさんあった。

「レン、もしよかったら、これからも俺の部屋に来ていいから」
「え……」
「ここなら、誰も見てないから。耳やしっぽが出てても大丈夫だろ?」

カナトさんの優しい提案に、少し驚いた。

「でも……迷惑じゃない?」
「迷惑なわけないだろ。むしろ……来てくれたら俺は嬉しいよ」

カナトさんの言葉は本心のように聞こえた。

ほんとに? 
本当に、僕なんかがいても迷惑じゃないの?

「……じゃあ、たまに来るかも」
「いつでも歓迎」

カナトさんが優しく笑った。
その笑顔を見て、僕は少しだけ安心した。

――もしかしたらこの人は、今まででとは違うかもしれない。

そんな期待を抱きながら、僕はカナトさんの優しい笑顔を見つめていた。

その日は遅くまでカナトさんの部屋にいた。
耳としっぽがすっかり引っ込んだ頃、僕は立ち上がった。

「今日は……ありがとう」
「どういたしまして。また来いよ」
「……うん」

小さく返事をして部屋に戻り、ドアを閉める。
背中をそっと壁に預けると、ふっと息が漏れた。

「……優しい人だな」

耳を撫でられたときの感触が、まだ頭に残っている。
あんなふうに触られたの、初めてだった。

「別に……嬉しくなんかないし」

そう呟いたけど、しっぽは隠そうとしても揺れてしまう。

ベッドに倒れ込み、天井を見つめる。

もしかしたら、これから少しずつ仲良くなれるのかもしれない。

だけど。

きっとそのうち飽きられる。
いつもそうだった。

最初だけ優しくして、慣れてきたら離れていく。

「……期待しちゃダメだよ」

自分に言い聞かせるように呟く。

でも、胸の奥では、小さな期待が芽生えていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

αとβじゃ番えない

庄野 一吹
BL
社交界を牽引する3つの家。2つの家の跡取り達は美しいαだが、残る1つの家の長男は悲しいほどに平凡だった。第二の性で分類されるこの世界で、平凡とはβであることを示す。 愛を囁く二人のαと、やめてほしい平凡の話。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

可愛いがすぎる

たかさき
BL
会長×会計(平凡)。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...