【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍

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【第三章】独占欲は、愛の裏側

1.不安ごと、抱きしめて

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僕はそのまま、カナトさんの部屋に連れて来られた。

玄関を閉めた瞬間、張りつめていたものが一気にほどけて、足の力が抜けそうになる。

「レン、身体は大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」

そう答えながら、気づいたらカナトさんの胸に顔を埋めていた。
スーツ越しでもわかる体温、心臓の音。

「今日は怖かったよな」
「……でも、カナトさんが来てくれたから」
「そうか」

カナトさんの手が僕の頭を撫でる。
耳の付け根を避けるみたいに、慎重で優しくて、胸がきゅっとなった。

「レン」
「ん?」
「俺、お前のこと、もっと守りたい」

抱きしめ方が、ほんのわずかに強くなった。

カナトさんの腕の中は、あたたかい。
それでも、不安は勝手に湧いてくる。
放っておいたら、どんどん大きくなる、嫌なやつ。

僕はぎゅっと、カナトさんの服を握った。

「……レン?」

言葉にしたら、重いって思われそうで。
面倒くさいって、嫌われそうで。

だから黙ってたのに――
カナトさんは、それを許してくれなかった。

「さっきから、尻尾が元気ないな」
「……見ないで」
「無理」

くすっと笑う声は、相変わらず優しい。

「レン、何考えてる?」
「……別に」
「嘘」

背中に回された手が、ゆっくり撫でてくる。
急かさないし、責めない。
ただ、逃げ場だけを塞いで、待ってくれる。

……ずるい。

「……カナトさんって」
「うん」
「……モテるから。今日だってさ、みんな見てた」
「見てたな」

――やっぱり気づいてたよね。

「誰かに取られそうで」
「……」
「いつか、いなくなりそうで」

声が震えた。

あ、これ、言っちゃダメなやつかも。
頭ではそう思うのに、止まらない。

「僕さ……」
「うん」
「捨てられるの、すごく怖い。カナトさんを他の人に取られたくない」

子どもみたいで、独占欲丸出しで。
情けないけど。

「……置いていかないで」

沈黙が落ちた。

……やっぱり。
重いよね。面倒だよね。

そう思った瞬間。

「レン」

呼ばれ方がいつもと違った。
静かで……でも強い。

「顔、上げて」

そっと顎に指がかかる。
逃げられない距離で、目が合った。

「俺が誰かに取られるって?」
「……」
「俺が、レンを置いていくって?」

低い声。
でも、怒ってない。むしろ――確かめるみたいに。

「……うん」
「そう思わせたなら、ごめんな」

胸がきゅっと縮む。

「でもな」

額と額が、こつんと触れた。

「俺は、選んでここにいる。全部わかった上で……それでも、レンのところに戻ってきてるんだ」

一つ一つ、言い聞かせるみたいに。

「不安になるな、なんて言わない。離れたくないって思うのは、当たり前だ」

……否定されない。
笑われない。切り捨てられない。

「レンはさ」
「うん」
「俺が好きで、失うのが怖いだけだろ」
「……うん」
「それを、俺は可愛いと思ってるよ」
「……重いとか面倒とか、思ってない?」
「思ってたら、ここにいない。むしろ――」

胸に引き寄せられる。さっきより、少し強く。

「俺の腕を必死に掴むの、俺だけにしてくれてるのが嬉しい」
「っ……」

胸の奥でぐちゃぐちゃだった不安が、ゆっくり、甘く溶けていく。

「……カナトさん」
「うん」
「……いなくならない?」
「ならない」
「……ほんと?」
「何回でも言う」

背中を撫でる手が、確かで。

「俺は、レンのだ」

その一言で尻尾がふわっと揺れた。

怖がりで独占欲強くて、厄介な僕を。
この人はちゃんと抱きしめてくれる。

「俺はどこにも行かないよ」

カナトさんが優しく笑った。

「……絶対に離れないでね」
「うん。レンは可愛すぎるな」

カナトさんは少し照れたように視線を逸らして、僕の頭に手を伸ばした。
今度は猫耳の根元を避けずに、そっと。

……ここにいていい。
守られていい。独り占めしたいって思っても、いい。

尻尾が、ゆっくり左右に揺れた。

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