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【第二章】無自覚メンヘラ発動中
6.君の腕で息をする
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「やめろ……! 触るな……!」
声を張り上げても、笑い混じりの返事が返ってくるだけだった。
「そんな怒るなよ」
今度は別の手が尻尾を掴んだ。
ぞわっと背中を何かが這い上がる。
「……っ」
喉の奥から変な声が漏れそうになるのを必死で堪えた。
「ここ気持ちいいんじゃなかった?」
誰かの手が尻尾の付け根をゆっくりと撫でる。
根元から先端まで、丁寧に。
「あっ……!」
思わず声が出た。
びくん、と体が跳ねる。
「なぁレン。もっと可愛い声、出せよ」
「……は……?」
「猫なんだろ? ほら。鳴けよ。ニャーってさ」
喉がひくりと鳴った。
……知ってる。
こういう目。
半猫だって知った瞬間に、相手の中で僕は“人”じゃなくなる。
みんな、僕を玩具にしたいだけなんだ。
「猫って、首筋弱いんだっけ?」
宮川の指が僕の首筋をなぞる。
「ひゃっ……!」
変な声が出た。恥ずかしい。
「うわ、今の。反応した」
「やっぱり猫だな」
笑い声が重なって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「触んな……」
声が震えていた。
怒りたいのに、怖くてうまく出ない。
頭では拒絶してるのに体が勝手に強張って、言うことを聞かない。
「なぁ、邪魔だろ。それ」
誰かの声。
エプロンの紐に指がかかった。
「やめろ……っ!」
反射的に叫ぶ。
必死に身をよじるけど、腕を押さえられて動けない。
「暴れるなって」
「ほら、落ち着けよ」
「やだ……っ!」
――やめて。
誰か、来て。
……カナトさん。会いたい。助けて。
「ほら、いい加減――」
宮川の手が伸びてきた、その瞬間。
ガンッ!
倉庫の扉が勢いよく開いた。
「――何してる」
低く、怒気を含んだ声。
一斉に視線が向いた先に立っていたのは、スーツ姿のカナトさんだった。
「レンに触るな」
宮川たちが一瞬言葉を失う。
掴まれていた尻尾と耳が、ぱっと解放された。
「……っ、カナトさん……」
カナトさんの視線はまっすぐ僕に向けられた。
次の瞬間、腕を引かれて、カナトさんの胸に引き寄せられる。
「レン、大丈夫か」
背中に回された手が震えている僕をしっかり支えてくれた。
胸いっぱいに、空気が入ってくる。
息、できる……。
「遅くなって悪かった。でも、もう大丈夫だ」
「うん……」
カナトさんは、僕を支えたまま、ゆっくりと顔を上げた。
視線の先にいるのは、宮川たち。
その目は普段の優しいカナトさんからは想像もできないほど、冷たく鋭い。
「お前ら、レンに何した」
「い、いや、別に何も……」
「嘘をつくな」
カナトさんの声が一段と低くなった。
「ち、ちょっとした冗談だって」
「冗談で、人の体を玩具にするな」
ぴしゃりと切り捨てるような声。
「もし、また手を出すようなことがあれば……」
カナトさんは、そこで言葉を切った。
でも、その沈黙がかえって恐ろしかった。
男たちは目を逸らし、気まずそうに黙り込む。
「二度とレンに近づくな。今すぐここから出て行け」
小さく舌打ちを残して、男たちは倉庫から出ていった。
扉が閉まる音がして、ようやく――本当に静かになる。
その瞬間。
足から力が抜けて、僕の体がふらっと傾いた。
「――っ、レン」
すぐに、強く抱き寄せられる。
「……ごめ……」
謝ろうとしたら、頭をそっと抱え込まれた。
「大丈夫か? どこか痛いところは?」
カナトさんが優しく僕の顔を覗き込む。その手が、僕の頬にそっと触れた。
「う、うん……大丈夫」
「本当に? 怖い思いをさせて、ごめんな」
「……カナトさんが、悪いわけじゃない」
「いや……会議、途中で抜けてきたんだ。なんとなく、嫌な予感がしてさ。レンのことが心配で、じっとしていられなくて」
カナトさんの声が悔しそうに歪んだ。
「ずっとレンを探してたんだ。倉庫に行ったって聞いて……。でも、俺がもっと早く来ていれば、こんなことには……」
僕の目が潤んでくる。
「……ありがとう」
「礼なんていらない。レンを守るのは、当たり前のことだから」
カナトさんが僕を優しく抱きしめてくれる。
「……怖かった」
「うん。もう大丈夫だ」
僕はカナトさんの胸に顔を埋めて、その温もりを感じた。
しばらくして、僕たちは倉庫を出た。
すると、騒ぎを聞きつけた人たちが集まってきていた。
「今の、何があったの?」
「レンくんを助けたの、あの人?」
女子たちが次々とカナトさんに視線を向けて、囁き合っている。
「優しそう! っていうか、かっこいい……」
「年上っぽいよね。大人の男って感じ」
僕は、少し離れたところからその光景をぼんやり眺めていた。
……正直、気持ちはかなり複雑だった。
カナトさんが助けてくれた。
それはもう、本当に嬉しかった。
来てくれなかったら――考えるだけで、ぞっとする。
でも周りの視線が全部カナトさんに向いてる。
「レン、帰ろうか」
「……うん」
カナトさんは僕の手をしっかり握ったまま、いつもみたいに優しく微笑んでくれる。
僕はその手を握り返して、人混みを抜けた。
……なのに。
心の奥の奥で、ちくちくする何かが消えない。
カナトさんは、僕だけを見てくれてる。
それはちゃんとわかってる。
でも、他の人たちも見てる。
カナトさんみたいに、優しくて、落ち着いてて、大人で。
かっこよくて、頼れて。
……そんな人、放っておくわけないじゃん。
で、僕はというと。
猫耳と尻尾がついてて、守られてばっかで。
また、変なこと考えてる。
頭の中で振り払おうとしたけど、
正直な体は誤魔化せなくて、尻尾がしゅん……と垂れ下がった。
カナトさんがそれに気づいて、僕の頭を優しく撫でてくれた。
「レン、本当に大丈夫か?」
「……うん。大丈夫」
僕は無理に笑顔を作った。
でも、心の中のもやもやは、消えてくれなかった。
声を張り上げても、笑い混じりの返事が返ってくるだけだった。
「そんな怒るなよ」
今度は別の手が尻尾を掴んだ。
ぞわっと背中を何かが這い上がる。
「……っ」
喉の奥から変な声が漏れそうになるのを必死で堪えた。
「ここ気持ちいいんじゃなかった?」
誰かの手が尻尾の付け根をゆっくりと撫でる。
根元から先端まで、丁寧に。
「あっ……!」
思わず声が出た。
びくん、と体が跳ねる。
「なぁレン。もっと可愛い声、出せよ」
「……は……?」
「猫なんだろ? ほら。鳴けよ。ニャーってさ」
喉がひくりと鳴った。
……知ってる。
こういう目。
半猫だって知った瞬間に、相手の中で僕は“人”じゃなくなる。
みんな、僕を玩具にしたいだけなんだ。
「猫って、首筋弱いんだっけ?」
宮川の指が僕の首筋をなぞる。
「ひゃっ……!」
変な声が出た。恥ずかしい。
「うわ、今の。反応した」
「やっぱり猫だな」
笑い声が重なって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「触んな……」
声が震えていた。
怒りたいのに、怖くてうまく出ない。
頭では拒絶してるのに体が勝手に強張って、言うことを聞かない。
「なぁ、邪魔だろ。それ」
誰かの声。
エプロンの紐に指がかかった。
「やめろ……っ!」
反射的に叫ぶ。
必死に身をよじるけど、腕を押さえられて動けない。
「暴れるなって」
「ほら、落ち着けよ」
「やだ……っ!」
――やめて。
誰か、来て。
……カナトさん。会いたい。助けて。
「ほら、いい加減――」
宮川の手が伸びてきた、その瞬間。
ガンッ!
倉庫の扉が勢いよく開いた。
「――何してる」
低く、怒気を含んだ声。
一斉に視線が向いた先に立っていたのは、スーツ姿のカナトさんだった。
「レンに触るな」
宮川たちが一瞬言葉を失う。
掴まれていた尻尾と耳が、ぱっと解放された。
「……っ、カナトさん……」
カナトさんの視線はまっすぐ僕に向けられた。
次の瞬間、腕を引かれて、カナトさんの胸に引き寄せられる。
「レン、大丈夫か」
背中に回された手が震えている僕をしっかり支えてくれた。
胸いっぱいに、空気が入ってくる。
息、できる……。
「遅くなって悪かった。でも、もう大丈夫だ」
「うん……」
カナトさんは、僕を支えたまま、ゆっくりと顔を上げた。
視線の先にいるのは、宮川たち。
その目は普段の優しいカナトさんからは想像もできないほど、冷たく鋭い。
「お前ら、レンに何した」
「い、いや、別に何も……」
「嘘をつくな」
カナトさんの声が一段と低くなった。
「ち、ちょっとした冗談だって」
「冗談で、人の体を玩具にするな」
ぴしゃりと切り捨てるような声。
「もし、また手を出すようなことがあれば……」
カナトさんは、そこで言葉を切った。
でも、その沈黙がかえって恐ろしかった。
男たちは目を逸らし、気まずそうに黙り込む。
「二度とレンに近づくな。今すぐここから出て行け」
小さく舌打ちを残して、男たちは倉庫から出ていった。
扉が閉まる音がして、ようやく――本当に静かになる。
その瞬間。
足から力が抜けて、僕の体がふらっと傾いた。
「――っ、レン」
すぐに、強く抱き寄せられる。
「……ごめ……」
謝ろうとしたら、頭をそっと抱え込まれた。
「大丈夫か? どこか痛いところは?」
カナトさんが優しく僕の顔を覗き込む。その手が、僕の頬にそっと触れた。
「う、うん……大丈夫」
「本当に? 怖い思いをさせて、ごめんな」
「……カナトさんが、悪いわけじゃない」
「いや……会議、途中で抜けてきたんだ。なんとなく、嫌な予感がしてさ。レンのことが心配で、じっとしていられなくて」
カナトさんの声が悔しそうに歪んだ。
「ずっとレンを探してたんだ。倉庫に行ったって聞いて……。でも、俺がもっと早く来ていれば、こんなことには……」
僕の目が潤んでくる。
「……ありがとう」
「礼なんていらない。レンを守るのは、当たり前のことだから」
カナトさんが僕を優しく抱きしめてくれる。
「……怖かった」
「うん。もう大丈夫だ」
僕はカナトさんの胸に顔を埋めて、その温もりを感じた。
しばらくして、僕たちは倉庫を出た。
すると、騒ぎを聞きつけた人たちが集まってきていた。
「今の、何があったの?」
「レンくんを助けたの、あの人?」
女子たちが次々とカナトさんに視線を向けて、囁き合っている。
「優しそう! っていうか、かっこいい……」
「年上っぽいよね。大人の男って感じ」
僕は、少し離れたところからその光景をぼんやり眺めていた。
……正直、気持ちはかなり複雑だった。
カナトさんが助けてくれた。
それはもう、本当に嬉しかった。
来てくれなかったら――考えるだけで、ぞっとする。
でも周りの視線が全部カナトさんに向いてる。
「レン、帰ろうか」
「……うん」
カナトさんは僕の手をしっかり握ったまま、いつもみたいに優しく微笑んでくれる。
僕はその手を握り返して、人混みを抜けた。
……なのに。
心の奥の奥で、ちくちくする何かが消えない。
カナトさんは、僕だけを見てくれてる。
それはちゃんとわかってる。
でも、他の人たちも見てる。
カナトさんみたいに、優しくて、落ち着いてて、大人で。
かっこよくて、頼れて。
……そんな人、放っておくわけないじゃん。
で、僕はというと。
猫耳と尻尾がついてて、守られてばっかで。
また、変なこと考えてる。
頭の中で振り払おうとしたけど、
正直な体は誤魔化せなくて、尻尾がしゅん……と垂れ下がった。
カナトさんがそれに気づいて、僕の頭を優しく撫でてくれた。
「レン、本当に大丈夫か?」
「……うん。大丈夫」
僕は無理に笑顔を作った。
でも、心の中のもやもやは、消えてくれなかった。
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