【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍

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【第二章】無自覚メンヘラ発動中

5.檻の外から僕を呼んで

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猫耳コスプレ店員の僕はやたら人を集めてしまい、接客は想像以上に大変だった。

注文を取って、料理を運んで、笑顔で対応する。
猫耳は出たまま、尻尾は僕の感情に合わせて勝手に揺れてしまう。

「かわいー! その猫耳、すっごくリアル!」
「ねえねえ、ちょっと触ってもいい?」
「写真撮らせて!」

お客さんたちが次々と声をかけてくる。
僕は愛想笑いを浮かべながら、丁重に断った。

「あ、ありがとうございます。でも、これ繊細な作りなんで……触るとすぐ壊れちゃうんです」
「えー、残念!」

カナトさんがいてくれたら、もう少し落ち着けたのに。
そんなことを考えた瞬間、尻尾がしゅんと垂れ下がった。

「あ、尻尾が動いた!」
「どうやって動かしてるの? すごい!」
「え、あ、えっと……特殊な、仕組みで……」

僕は誤魔化すのに必死だった。

そんな中、一人の男子学生が僕をじっと見ていることに気づいた。
宮川という、同じサークルのメンバーだ。

爽やかな笑顔を浮かべているけれど、その目には何か探るような、ちょっと変な感じ。

「レン、すごいね。そのコスプレ」
「あ、うん……ありがとう」
「なんかすごくリアルだよな。本物みたいだ」
「そ、そんなことないよ。ただの作り物だし」
「ふーん。ちょっと触ってみてもいい?」

宮川が手を伸ばしてきたから、僕は咄嗟に身を引いた。

「っ……ごめん、これ、繊細な作りだから。触ると壊れちゃうかも」
「へえ、そうなんだ」

宮川は引き下がったけれど、その視線は相変わらず僕の耳と尻尾に注がれていた。

……なんだか、すごく嫌な感じがする。

数時間が経ち、カフェはピークタイムを迎えていた。

さすがに休む暇もなく動き回ってたら、足も腰も痛い。
それに、耳としっぽも出たままだし。

「レン、ちょっといい?」

振り返ると、宮川が優しい笑顔で立っていた。

「厨房で手伝ってほしいんだけど。人手が足りなくてさ」
「……うん、わかった」

僕は宮川について厨房へ向かった。
狭い通路を抜けると、宮川が突然立ち止まった。

「ちょっとこっち通るから」

そう言いながら、宮川が僕の後ろを通り過ぎようとした、その瞬間。

ぎゅっ。
尻尾が、掴まれた。

「――っ!? ん……っ!」

思わず声が漏れる。
いきなり、全身に電流が走るような感覚に襲われた。

「っ……や、……」

膝が震えて、思わず壁に手をついた。

「おっと、ごめんごめん。邪魔だったから、つい」

宮川は軽い口調で謝ったけど、その目は明らかに愉しんでいた。

「お前……わざと……」
「わざとじゃないよ。でもさ、すごい反応するんだな」

宮川の声が、さっきまでの優しい口調から変わっていた。

「やっぱり、本物なんだ? これ」
「ち、ちがうから!」

僕は宮川を睨みつけたけれど、まだ体が震えていて、うまく力が入らなかった。

「っ……触るなって言っただろ……!」
「そんなに嫌なんだ。面白いね、レン」

宮川はにやりと笑うと、厨房から出て行った。
僕は壁に寄りかかったまま、荒い息を整えた。

カナトさん……。

無意識に、カナトさんの名前を心の中で呼んでいた。

その後も、宮川は何度も僕に話しかけてきた。
表面上は優しく親切なふりをしているけれど、その目には明らかな下心が見える。

時々、すれ違いざまにわざと尻尾に触れてきたり、耳の近くで囁いてきたりする。

……でも、我慢だ。
ここで騒ぎを起こしたら、みんなに迷惑がかかる。
それに、カナトさんが来るまで、何とかしなきゃ。

でも。
でも、本当は。

――カナトさん、早く来て。

そう思わずにはいられなかった。



そして、閉店間際。

「レンくん、倉庫にある在庫を確認してもらえる?」
「わかりました」

先輩に頼まれ、僕は倉庫へ向かった。

薄暗い倉庫の中で段ボールの山を確認していると、背後でドアが閉まる音がした。

「よお、レン」

え……?

振り返ると、宮川が立っていた。
そして、その後ろには一般客の男性が数人。

「宮川……? なんで、お客さんまで……」
「いやあ、さっきから気になってたんだよね。その耳と尻尾」
「これはコスプレだって……」
「嘘つくなよ。さっき触った時の反応、絶対本物だろ?」

宮川の言葉に、背後の男たちがざわついた。

「マジで? 本物なの?」
「すげー、見せてよ」

僕は後ずさりしたけれど、背中が棚にぶつかった。

……やばい、逃げ場がない。

「やめろよ……!」
「別にいいじゃん。ちょっと見せてくれるだけで」
「や、やだって……」

声が震える。
耳が勝手に伏せて、尻尾がきゅっと体に巻きついた。

「うわ、動く」
「すげー! やっぱ本物だ」
「触っていい?」
「ダメだって――」

言い終わる前に、宮川の指先が猫耳に触れた。

「――っ!!」

ぴくっ、と耳が勝手に動いたのを見て、男たちが笑う。

「反応いいな」
「超可愛いじゃん」

……怖い。

カナトさん、助けて……。









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