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【第四章】組織 VS 溺愛彼氏
1.半猫な僕の受難
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それから数週間が経った。
僕とカナトさんの関係は、静かに、でも確実に深くなっていた。身体も、心も。
ある日の午後。
僕は大学からの帰り道を歩いていた。
見慣れた舗道、見慣れた街並み。
でも、今日は何だか変な感じがする。
「……気のせいかな」
自分に言い聞かせるみたいに呟いて、歩き続ける。
その瞬間だった。
「すみません。少し、お時間よろしいですか?」
振り返ると、黒いスーツの男が立っていた。
「……何ですか?」
自然と距離を取る。
警戒してるのが、自分でもわかる。
「あなた、三毛乃レンさんですよね?」
「え……」
なんで、僕の名前を知ってるんだろう。
「私たちは、半猫について研究している組織の者です」
「……研究?」
「あなたのような存在はとても貴重で。是非、研究所に来てほしいんです」
「……嫌です」
考えるより先に、言葉が出た。
「そうですか。それは残念だ」
次の瞬間、男の手が伸びてくる。
「やめてください!」
腕を引かれそうになった、その時。
「レン!」
聞き慣れた声。
振り向くより早く、手首を掴まれた。
「カナトさん……!」
強く引き寄せられて、そのまま走り出す。
「こっちだ!」
「待て!」
背後から怒号が飛ぶ。
心臓が耳の奥でうるさいくらい鳴っている。
角を曲がり、路地に入り、人混みに紛れる。
息が切れて足がもつれそうになる。
「レン、しっかり掴まってろ!」
「うん……!」
どれくらい走っただろう。
ようやく、追ってくる気配が消えた。
「はあ……はあ……」
僕は息を切らしていた。足が震える。
「大丈夫か?」
「……大丈夫」
カナトさんが、すぐに僕を抱き寄せた。
「怖かったな」
「うん……でも、カナトさんがいてくれたから」
「ああ。俺が、お前を守る」
カナトさんの腕に力が込められた。
「レン、あいつら何て言ってた?」
「半猫について研究してる組織の者だって……研究所に来てほしいって」
「研究所……やっぱりか」
「カナトさん、知ってるの?」
「ああ。半猫の能力とか、体質とか。色々調べてる組織があるらしいんだ」
「え……」
「これから、レンは俺が必ず迎えに行く。仕事で無理な時はタクシーを使って」
「うん……」
……怖かった。
もし、また狙われたら。
そして――その不安は、現実になる。
数日後。
大学が終わって、僕は駅に向かった。
今日はカナトさんが仕事で来られない。一人で帰らなきゃいけない日だ。
空を見上げると、もう薄暗くなり始めていた。
「タクシー……」
辺りを見回すけど、空車は見当たらない。
仕方ない。駅まで歩こう。
足を早めた、その時だった。
目の前に黒い車が滑り込んできて、急ブレーキの音が響いた。
「えっ……」
反射的に立ち止まる。
次の瞬間、ドアが開いて複数の人影が飛び出してきた。
「ちょっ……」
言葉が続かない。両腕を掴まれる。
「離して!」
叫んだけど、男たちの力は強かった。
引きずられるように車へ押し込まれる。
「やめて! 誰か……!」
でも、誰も助けに来ない。
周りに人はいなかった。
ドアが閉まる。
「カナトさん……!」
名前を叫んだ瞬間、車が発進した。
窓の外の景色が流れて、どんどん遠ざかっていく。
どれくらい走ったんだろう。
時間の感覚がない。ただ、すごく長く感じた。
引きずり出されて、大きな建物の前に立たされる。
「……ここ、どこ……」
腕を掴まれ、廊下を歩かされる足音だけが響く。
空気が冷たくて、湿っぽい。
「どこに連れて行くの……」
声が震えた。
男たちは無言のまま、一番奥の部屋の前で立ち止まった。
「何……」
薄暗い部屋に入れられた。
窓はない。換気口みたいなものが、天井の高い位置に一つだけ。
ベッドとテーブル、モニターがある。
「……最悪」
声に出したら、余計に現実感が増した。
立ち上がろうとして、足に力が入らないことに気づく。
怖い。それに、頭が少しぼんやりする。
「あなたには、協力していただきたい」
「嫌だ」
「拒否権はありません」
男は一歩近づく。僕は反射的に後ずさった。
「安心してください。今すぐ何かするわけではない」
「……何企んでんの」
「研究です。あなたのような半猫は、非常に貴重なサンプルですから」
サンプル。
その言葉に、背筋が凍った。
「帰りたい……」
「協力していただければ、いずれは解放します」
“いずれ”――その言葉が、すごく曖昧で不安だった。
「では、準備が整うまで休んでいてください」
男は出て行き、ドアがガチャン、と閉まる音がした。
静かな部屋。時計の音も聞こえない。
今、何時なんだろう。
カナトさんは、もう気づいてるかな。
心配してるかな。
探してくれてるよね。
そう思いたいのに、不安は勝手に膨らむ。
もし、迷惑だって思われたら?
もし、危険だからって、手を引かれたら?
「……ばか」
小さく呟いて、頭を振る。
違う。
カナトさんは、そんな人じゃない。
「カナトさん……」
大丈夫。信じてる。
手、離さないって、守ってくれるって……言ったよね。
その言葉を何度も胸の中でなぞりながら、時間が過ぎるのを耐えるしかなかった。
僕とカナトさんの関係は、静かに、でも確実に深くなっていた。身体も、心も。
ある日の午後。
僕は大学からの帰り道を歩いていた。
見慣れた舗道、見慣れた街並み。
でも、今日は何だか変な感じがする。
「……気のせいかな」
自分に言い聞かせるみたいに呟いて、歩き続ける。
その瞬間だった。
「すみません。少し、お時間よろしいですか?」
振り返ると、黒いスーツの男が立っていた。
「……何ですか?」
自然と距離を取る。
警戒してるのが、自分でもわかる。
「あなた、三毛乃レンさんですよね?」
「え……」
なんで、僕の名前を知ってるんだろう。
「私たちは、半猫について研究している組織の者です」
「……研究?」
「あなたのような存在はとても貴重で。是非、研究所に来てほしいんです」
「……嫌です」
考えるより先に、言葉が出た。
「そうですか。それは残念だ」
次の瞬間、男の手が伸びてくる。
「やめてください!」
腕を引かれそうになった、その時。
「レン!」
聞き慣れた声。
振り向くより早く、手首を掴まれた。
「カナトさん……!」
強く引き寄せられて、そのまま走り出す。
「こっちだ!」
「待て!」
背後から怒号が飛ぶ。
心臓が耳の奥でうるさいくらい鳴っている。
角を曲がり、路地に入り、人混みに紛れる。
息が切れて足がもつれそうになる。
「レン、しっかり掴まってろ!」
「うん……!」
どれくらい走っただろう。
ようやく、追ってくる気配が消えた。
「はあ……はあ……」
僕は息を切らしていた。足が震える。
「大丈夫か?」
「……大丈夫」
カナトさんが、すぐに僕を抱き寄せた。
「怖かったな」
「うん……でも、カナトさんがいてくれたから」
「ああ。俺が、お前を守る」
カナトさんの腕に力が込められた。
「レン、あいつら何て言ってた?」
「半猫について研究してる組織の者だって……研究所に来てほしいって」
「研究所……やっぱりか」
「カナトさん、知ってるの?」
「ああ。半猫の能力とか、体質とか。色々調べてる組織があるらしいんだ」
「え……」
「これから、レンは俺が必ず迎えに行く。仕事で無理な時はタクシーを使って」
「うん……」
……怖かった。
もし、また狙われたら。
そして――その不安は、現実になる。
数日後。
大学が終わって、僕は駅に向かった。
今日はカナトさんが仕事で来られない。一人で帰らなきゃいけない日だ。
空を見上げると、もう薄暗くなり始めていた。
「タクシー……」
辺りを見回すけど、空車は見当たらない。
仕方ない。駅まで歩こう。
足を早めた、その時だった。
目の前に黒い車が滑り込んできて、急ブレーキの音が響いた。
「えっ……」
反射的に立ち止まる。
次の瞬間、ドアが開いて複数の人影が飛び出してきた。
「ちょっ……」
言葉が続かない。両腕を掴まれる。
「離して!」
叫んだけど、男たちの力は強かった。
引きずられるように車へ押し込まれる。
「やめて! 誰か……!」
でも、誰も助けに来ない。
周りに人はいなかった。
ドアが閉まる。
「カナトさん……!」
名前を叫んだ瞬間、車が発進した。
窓の外の景色が流れて、どんどん遠ざかっていく。
どれくらい走ったんだろう。
時間の感覚がない。ただ、すごく長く感じた。
引きずり出されて、大きな建物の前に立たされる。
「……ここ、どこ……」
腕を掴まれ、廊下を歩かされる足音だけが響く。
空気が冷たくて、湿っぽい。
「どこに連れて行くの……」
声が震えた。
男たちは無言のまま、一番奥の部屋の前で立ち止まった。
「何……」
薄暗い部屋に入れられた。
窓はない。換気口みたいなものが、天井の高い位置に一つだけ。
ベッドとテーブル、モニターがある。
「……最悪」
声に出したら、余計に現実感が増した。
立ち上がろうとして、足に力が入らないことに気づく。
怖い。それに、頭が少しぼんやりする。
「あなたには、協力していただきたい」
「嫌だ」
「拒否権はありません」
男は一歩近づく。僕は反射的に後ずさった。
「安心してください。今すぐ何かするわけではない」
「……何企んでんの」
「研究です。あなたのような半猫は、非常に貴重なサンプルですから」
サンプル。
その言葉に、背筋が凍った。
「帰りたい……」
「協力していただければ、いずれは解放します」
“いずれ”――その言葉が、すごく曖昧で不安だった。
「では、準備が整うまで休んでいてください」
男は出て行き、ドアがガチャン、と閉まる音がした。
静かな部屋。時計の音も聞こえない。
今、何時なんだろう。
カナトさんは、もう気づいてるかな。
心配してるかな。
探してくれてるよね。
そう思いたいのに、不安は勝手に膨らむ。
もし、迷惑だって思われたら?
もし、危険だからって、手を引かれたら?
「……ばか」
小さく呟いて、頭を振る。
違う。
カナトさんは、そんな人じゃない。
「カナトさん……」
大丈夫。信じてる。
手、離さないって、守ってくれるって……言ったよね。
その言葉を何度も胸の中でなぞりながら、時間が過ぎるのを耐えるしかなかった。
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