【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍

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【第四章】組織 VS 溺愛彼氏

2.ここでは、愛もデータになる

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膝を抱えたまま、壁に額を預ける。

冷たい。
でも、この冷たさが、少しだけ僕を現実に引き戻してくれる。

……耳、出てないよね。

無意識に確かめて、ほっと息を吐く。
同時に胸の奥がちくりと痛んだ。

カナトさんに触れられると、すぐ出ちゃうくせに。

「……会いたい」

声にした途端、喉の奥がきゅっと締まった。

抱きしめてほしい。
大丈夫だって、言ってほしい。

そんなことを考えていた、そのとき。
ガチャ、と金属音がして、肩がびくっと跳ねる。

「……っ」

反射的に立ち上がろうとしてまた足がもつれる。
心臓がうるさいくらい鳴ってる。

ドアが開く。

白衣の男と、さっきの黒いスーツの男がいた。

「……何」
「食事です」

トレーを床に置いて、こちらを一瞥する。

「食べないと、体力が落ちます」
「……毒とか、入ってない?」
「入ってません」

トレーに目を落とす。
簡素な食事。見た目は、普通。

「体調は?」
「……答える義務、ある?」
「あります。今は“被験者”なので」

被験者。その単語が胸に刺さる。

……人じゃない、みたいだ。

「やっぱり……研究、する気なんだ」
「ええ。半猫の生理反応と精神状態の相関は、非常に興味深い」

言い方が、気持ち悪い。

白衣の男がタブレットに視線を落とす。
その目が、僕の頭と腰に向くのがわかって、思わず耳を押さえた。

「怯えていますね」
「当たり前……」
「恐怖時の反応も重要なデータです」
「触らないで」
「今日は“観察”だけです」

……“今日は”。

その言葉が、嫌な余韻を残す。

二人はしばらく、何かを話してから出て行った。
ドアが閉まる。

また、一人。

「……カナトさん」

名前を呼ぶと、少しだけ胸が落ち着く。
魔法みたいに。

きっと、探してる。
僕が消えた理由も、相手も。

……でも。

もし、危険すぎるって思われたら?
巻き込まれるくらいなら、距離を置こうって――

「……やだ」

小さく、首を振る。

置いていかれるのは嫌だ。
守られたいとか、甘えたいとか。そういうの全部ひっくるめて。
僕は、カナトさんのそばにいたい。

その瞬間。

ぴく。

頭の上が、熱を持った。

「……っ」

耳が、出かけてる。

必死に集中して抑え込む。こんなところで出たら、絶対に――

「……落ち着け」

深呼吸。
カナトさんの顔を、思い浮かべる。

優しい声。大きな手。
「大丈夫だ」って言ってくれる顔。

すると、耳の熱が少し引いた。

不安は消えない。でも――

「……待ってる」

もう一度、心の中で言う。

カナトさん。ちゃんと待ってるから。
早く、見つけて。
このまま、“研究対象”になる前に。

しばらくしてドアが開く音がした。

「っ……」

また男たちが来たのかと思って、身構えた瞬間――。

「レン!」
「え……」

その声。

「カナトさん……!?」

黒いスーツの男たちに挟まれたまま、カナトさんが部屋に入ってくる。
腕を放された瞬間、まっすぐ僕のところへ来た。

「レンの居場所、スマホで追跡できるようにしてたんだ」

そう言って、強く抱きしめられる。

「……っ」

カナトさん。やっぱり来てくれた……。

「パートナーの方から来ていただけるとは、手間が省けました」

壁のモニターが点灯する。
画面の向こうに、白衣の男たち。

カナトさんが、僕を背に庇う。

「レンを連れて帰る」

カナトさんが強く言った。

「残念だが、それは認められない。君にも協力してもらいます」
「……何をする気だ」
「半猫の発情期における生理的変化、パートナーとの関係性。すべてが貴重なデータになる」

空気が、冷える。

「発情した半猫と性行為をする人間のデータを収集する。映像も音声もすべて記録させてもらいます」
「……は?」
「え!?」

僕は思わず声を上げた。

「ふざけるな」

カナトさんがカメラに近づこうとした。
男がカナトさんの肩を掴む。

「君が協力しないなら、他の被験者にそこの半猫を提供する。我々の研究には、サンプルデータが必要ですから」

……え?

「なにをバカな……」
「カナトさん……」

僕は怯えた目でカナトさんを見た。

「ごめん」
「……うん」

僕は小さく頷いた。他に選択肢はない。

「レン」

カナトさんが僕を優しく抱き寄せた。


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