【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍

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【第四章】組織 VS 溺愛彼氏

3.君がいれば怖くない

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男たちは部屋から出ていき、二人きり。

「レン、怖がらなくていいよ。俺がいるから」
「……うん」 

カナトさんが僕の顔を両手で包んで、優しくキスをした。
モニターの向こうで、カチカチとキーボードを叩く音が聞こえる。

「見られてる……」
「俺だけを見て」

カナトさんの手が僕の服に触れる。
その時、カナトさんが小さく囁いた。

「少しだけ、我慢してね」
「……うん」

え、何を……?

カナトさんが僕の服を脱がせ始める。
でも、動きがゆっくりだ。

……いつもと違う。
何か、おかしい。

「んっ……」
「レン……」

カナトさんの手が、僕の体を撫でる。
でも、その目が何かを探っているのがわかった。

部屋の中を見回してる。
カメラの位置を、確認してるんだ。
……もしかして。

モニターの向こうで、淡々とデータを記録する音が聞こえた。

その時、カナトさんの手が素早く動いて、天井のカメラに向かって何かを投げた。

一瞬の暗転。

「今だ!」

カナトさんが僕の手を引いて、迷わず部屋のドアを開けた。

「えっ……!」

急いで服を整えながら、走り出す。

「待て!」

背後から声が聞こえる。

やばい、追われてる……!

「行こう」

二人で廊下を走る。
非常灯の赤い光が点滅している。

「レン、大丈夫?」
「うん……!」

カナトさんの手を握ったまま、必死に走った。

息が切れる。足が痛い。
でも、止まれない。
角を曲がり、階段を駆け下りる。

「止まれ!」

黒いスーツの男たちが追ってくる。
一階まで降りて、裏口を蹴り開ける。

夜の空気が肺に流れ込んだ。

「こっち!」

建物の裏手から、路地に入る。
カナトさんは僕の手をしっかり握ったまま、迷路のような路地を走り抜けた。

角を曲がり、また曲がり。
やがて、追ってくる足音が遠のいていった。

「……はあ……はあ……」
「レン、まだ走れる?」
「……うん」
「もう少しだけ頑張って」

カナトさんが優しく言った。
駅の近くまで来て、ようやく人通りのある場所に出た。
追跡してくる気配はもうない。

「……大丈夫そうだな」

カナトさんが周りを確認してから、僕を見た。

「怪我は?」
「ない……大丈夫」
「そうか。よかった」
「カナトさん、さっきの……」
「ああ。最初から、あいつらを騙すつもりだった」
「え……」
「あんな状況でするわけないだろ。俺に抱かれる可愛いレンは、誰にも見せたくないしね」

カナトさんが優しく笑った。

……ああ、そっか。
カナトさんは、最初から助け出すつもりだったんだ。

「カメラの死角を探って、タイミングを見計らってた」
「……そっか」
「ごめんな。事前に説明できなくて」
「ううん。カナトさんを信じてた」
「ありがとう」

カナトさんが僕の頭を撫でた。

「行こう。安全な場所に移動する」
「……どこに?」
「信頼できる友人のマンションだ。そこなら、誰にも見つからない」

手を引かれて、歩き出す。
夜道を歩きながら、カナトさんが優しく話しかけてくれた。

「レン、大丈夫?」
「……うん」

カナトさんの手が温かい。
その温もりだけで、僕は歩き続けることができた。
やがて、大きなマンションの前に着いた。

「ここだよ」

エレベーターに乗り上階へ。
カードキーの音、ドアが開く音。
部屋に入った瞬間、張り詰めていたものが一気に切れた。

「……はぁ……」

……もう、大丈夫なんだ。

ソファに座らされ、コートを脱がされる。
靴も、いつの間にか脱がされていた。

「はい、水」
「……ありがと」

差し出されたグラスを両手で受け取る。
少しだけ手が震えていて、水面が揺れた。

「まだ、怖い?」
「……うん」

正直に言うと、カナトさんは何も言わず、隣に座った。
肩に、そっと腕が回る。
引き寄せられて、自然と寄りかかってしまう。

「ごめんな。怖い思いさせて」
「カナトさんは悪くない……」
「でも、もっと早く気づいていれば」
「違う……カナトさんが来てくれた。それだけで十分」
「……レン」

カナトさんが僕を優しく抱きしめた。

「俺、すごく怒ってるんだ」

怒りや冷静さを含んで、色が感じられない声音。
でも、僕に向けられたものじゃない。

「お前を“データ”とか“サンプル”とか呼んだ連中に」
「……」
「二度と、同じことはさせない。お前に指一本触れさせない」

その言葉が、ゆっくり胸に染みていく。

「……僕が弱いから」

ぽろっと、口から零れた。

「守られるだけで、足手まといで……」
「レン」

名前を呼ばれて、顔を上げる。

「守るってのは、一方通行じゃないんだよ」

真っ直ぐな目。逃げ場のない、でも優しい視線。

「……じゃあ」
「ん?」
「僕、カナトさんの側にいていい?」
「当たり前だよ。お前がいない人生なんて、意味がないから」

その言葉に、目の奥が熱くなった。

「……今日は、もう休もう」
「一人で寝るの……?」
「一人にするわけないよ」

優しく笑って、毛布をかけられる。

「ここにいるから」
「……うん」

視界の端にカナトさんの姿を確認する。
ちゃんと、いる。

「……カナトさん」
「なに?」
「ありがとう」
「……当たり前だよ。お前のためなら、何だってする」

灯りが落とされる。
闇の中でも、不思議と怖くなかった。

――この腕の届く距離に、彼がいるから。​​​​​​​​​​​​​​​​

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