【完結】ノンケだった俺が、敵対企業の年下イケメンCEOに堕とされました

砂原紗藍

文字の大きさ
11 / 23
【第2章】最悪で最高のライバル

4.境界線の向こうで

「……10年前」

慧がゆっくりと話し始めた。

「俺が17の頃さ、地元のライブハウスでバイトしてたんだ。その日に出てたバンドが、もう……すごくて」

遠くを見るような目。

「音楽に全部を賭けてるのが、ステージから伝わってきた。音一つ一つに覚悟があってさ。その瞬間に決めたんだ。俺は音楽の世界で生きるって」

……わかる。
俺も音大時代、あちこちのライブハウスを回って演奏していた。
あの頃はただ音楽が楽しかった。

「だからECHOは、俺にとって夢そのものなんだ。誰かの下でやるんじゃなくて、自分の力で音楽業界を変えたかった」
「……慧、お前も演奏してたのか?」
「いや、俺は裏方。ずっと技術畑」
「でも音楽が好きなんだろ」
「うん。大好きだよ」

一瞬、慧の声が柔らいだ。

「音楽に……救われたから。高校の頃、色々あってさ。友達とも上手くいかなくて、家にも居場所がなくて」

ほんのわずかに、声が揺れた。

……ああ。
それ、痛いほどわかる。

「でも、ライブハウスで音楽に触れてるうちに……少しずつ立ち直れた。だから音楽を届けたいんだ。俺みたいに音楽に救われる人が、もっと増えるように」

胸の奥がじわりと熱くなる。
こいつは、口だけじゃない。本気だ。

「……いい目標だと思う」
「ありがと」

音楽に向けてる気持ちは、俺も慧も、間違いなく本物。

だからこそ――複雑で、胸が少し痛い。

「でも、甘い部分もあるけどな」

俺は少し意地悪そうに言った。

「……何が?」
「ビジネスは、綺麗事だけじゃ成り立たない。理想だけじゃ生き残れないから」
「……わかってるよ」
「本当に?」

そう聞くと、慧がむっとした顔をした。

「大丈夫。俺、見た目よりしぶといよ」

その言葉に思わず笑う。
そして、慧が何かを思いついたように口を開いた。

「なあ、京介。海外向けの配信なら、どういうのが“来る”と思う?」
「……技術の話?」
「いや、体験設計」

慧はソファに深く腰を下ろし、天井を見上げながら続ける。

「現地に行けない層に、どう“ライブに参加してる感覚”を持たせるか」

……なるほどね。

「それなら、リアルタイムで観客の反応を拾えたら強いよな」

思わず口に出してしまう。

「反応?」
「ああ。歓声とか、手拍子とか。完全な一方通行だと、配信はどうしても冷めるだろ」
「じゃあどうする?」
「例えば、視聴者側の音をAIで解析して、会場側に疑似的に返せたら……アーティストも絶対テンション上がるんじゃないか?」

言った瞬間、部屋が静まり返る。
慧はニヤリと笑った。

……まずい。完全に踏み込みすぎた。
競合相手に核心を話してしまったかも。

「それさ……うちの技術班が、今ちょうど詰まってるところなんだ」
「は?」
「本当だよ。それに、今はメモも録音もしてないし」
「そういう話じゃねぇよ。俺とお前は競合だろ」
「そうだね」
「……もう少し慎重になるべきだった」

そう言うと、慧はゆっくり言葉を選ぶように口を開く。

「でもさ、俺がそのアイデアを“使う”可能性は普通にあるでしょ」
「……っ」
「そのとき、京介はどう思う? “盗まれた”って思う?」
「……思いたくないけど、思うかもしれない」

正直に言うと、慧は小さく息を吐いた。

「それは京介の感情。こっちは、同じアイデアに先に辿り着いてたから」
「そんなの証明できるのかよ」
「できないよ。だからフェアでしょ」

視線が、真正面からぶつかる。

「仮に俺がその案を採用しても、それは京介が話したからじゃない。話す前から、そこを目指してた」

――要するに。

俺のアイデアを盗んだわけじゃない。
俺は、ただ答え合わせに使われただけ。

そう言われている。

「……それ、俺からしたら同じだけどな」
「違うよ」
「でも、結果的に、俺が背中を押したのは事実だろ。競合相手に」

慧は一瞬だけ黙り、それから落ち着いた声で言った。

「違う。俺は最初からそこを目指して走ってた。京介との会話で、“迷う理由が消えた”だけ。俺は、このやり方で戦う。どちらにせよ、ステラには無理。ECHOにしかできないよ」 

感情のない声で、結論だけを告げる。
CEOとして――こいつは、勝負の場に立っていた。

「……お前のこと、全っ然、読めねぇよ」
「じゃあさ、聞くけど」
「ん?」
「京介は、俺の敵なの?」

慧が、感情の読めない目でこちらを見る。

「ステラの専務として、俺のこと潰す気?」

敵……か。
そうだよな、ビジネスの世界では。

「……ライバルだからな」

正直に答えた。

「そうだね。これは勝負だ」
「……勝負?」
「同じ場所を見てたって分かった以上、俺は引かない。京介も、引かないだろ?」

その言葉に、答えはもう決まっていた。

「……ああ。引く気はないね」

その瞬間、空気が変わった。
協力でも雑談でもない。
ライバルとして、同じ土俵に立っただけだ。

「ていうか……最悪だな、この関係」

ぽつりと零すと、慧が苦く笑った。

「そうだね。でも俺、仕事では容赦しないよ」
「……今までの言動、見たらわかる」

呟くと、慧は少しだけ微笑んだ。

まっすぐな目、負ける気ゼロの顔。
最悪の関係。最高の相手。

正直すごく、めんどくさい。

「……胃に悪いな」

でも、逃げたいとは思わなかった。

「京介」
「なんだよ」
「これ以上やると、俺らどっちかが胃潰瘍になるね」
「それは困るな」
「でしょ?」

一拍置いて、慧が続ける。

「京介が倒れたら、勝っても後味悪いしね」
「お前、勝つ前提なんだな」
「当たり前」

……ちょっとムカつく。
でも、こういうとこが好きなのかもしれない。

「仕事の話はもういいでしょ」
「え?」
「今は、恋人だよね?」

その言葉に、心臓が跳ねた。

「……は?!  まだ、そうとは……」
「じゃあ今から恋人になろう」

その声が、甘い。
さっきまでの張り詰めた空気が、一気に溶けていく。


あなたにおすすめの小説

【完結】ハイスぺ課長が毒を盛られてカントボーイになっちゃった

衣草 薫
BL
仕事のできる課長高嶺が何者かに毒を盛られ、副作用でカントボーイになり部下の南に抱かれる話です。 ライバルとの出世争いに勝利するために専務の娘と結婚しようと思っていたのに、それどころではなくなります。高嶺に薬を盛ったのは誰か。そしてそのトリックは…? 第13回BL大賞にて奨励賞をいただきました。 ※カントボーイつまりあそこだけ女性化します。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

弟と妹より劣る僕が自信家を演じてたら、部下にバレた件

ゆきりんご
BL
【重い感情を隠している年下敬語攻め×自己肯定感低い年上受け】 イリアスは職場で「優秀で顔もそこそこ良くて頼りになる上司」を演じているが、本当は自信がない。付き合っていた相手に振られることが続いてさらに自信をなくした。自棄になろうとしていたところを、気になっていた部下に止められて、成り行きで体の関係を持つことになり……?

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕