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【第3章】恋人で、敵で。それでも惹かれ合う
1.敵対するほど、近くなる
あれから、表立った進展は特にない。
水面下ではいろいろ動いているはずなのに、俺の目に見える形では、何も変わっていなかった。
そして今夜。
業界最大級のイベント、
“ミュージックビジネスサミット”が開催された。
音楽業界の人間が、文字通り一堂に会する夜。
投資家、アーティスト、レコード会社、配信プラットフォーム。
それぞれが名刺と本音を胸に隠して、この場所に集まってくる。
当然、俺もいる。
ステラの人間として、顔を売りつつ情報を拾わなきゃならない。
――そして。
慧も、いた。
黒いスーツを完璧に着こなして、周囲と軽く言葉を交わしてる。
……いや、見惚れてる場合じゃないって。
目を逸らし、会場をざっと見渡すと、決定権を持つ側の人間がチラホラいるのがわかる。
そのうちの一人、島崎プロデューサーだ。
ステラ寄りで、業界でもかなり影響力のある人。
父と旧知の仲だから、俺はもちろん知ってる。
島崎さんは今回の配信に直接関わる、重要な人物だ。
普段なら、気安く声をかける人はほとんどいない。
でも慧は――迷わず島崎さんに話しかけてる。
会話の内容は聞こえないけど、仕草や笑顔でわかる。ぎこちなさはゼロだ。
島崎さんも自然に笑い返している。
……慧って本当に、こういう場でも全然動じないんだな。
しばらく様子を見ていると、二人は握手を交わして、自然に離れた。
慧は迷わずこっちに歩いてくる。
「こんばんは。瀬戸専務」
そう言って、慧がにこっと笑った。
今の慧は完全に社交用の顔。
柔らかく笑っているけど、計算された表情。
「……名波社長、こんばんは」
「お久しぶりですね」
ビジネスモードとはいえ、裏では恋人なんだから久しぶりじゃないけどな。
俺は心臓バクバクなのに、こいつは顔色ひとつ変えない。隠すの上手すぎる。
「瀬戸専務。バルコニー行きません?」
「……え?」
「ちょっと、二人で話したいんで」
意味ありげな視線。
顔が熱くなるのを、自分でも自覚する。
「……いいですよ」
会場を抜け、慧の後を追う。
バルコニーには誰もいなかった。
夜景が一面に広がり、街の光が静かに瞬いている。
「綺麗だね」
慧が手すりに寄りかかって呟いた。
もうプライベートモードかよ。
「……ああ」
隣に立つ。夜風が心地いい。
こうして並ぶと、ビジネスのこともライバル意識も、全部ちょっと遠くに感じる。
「Kファンドの投資、正式に決まったよ」
「ああ。50億だろ。正直、驚いた」
「これで、ようやく対等に戦える」
慧がまっすぐ俺を見る。
その目に、迷いはない。
「絶対にステラには負けないから」
「……自信満々だな」
「根拠のない自信じゃないよ。ECHOの技術なら、絶対に誰にも負けない配信ができる」
「だから、技術だけじゃ勝てないって言ってるだろ」
「そんなことない」
「アーティストが動かなきゃ、意味がない」
「……それは」
「ステラには、300組のアーティストがいる。ECHOは?」
慧が、言葉に詰まった。その顔が悔しそうで。
俺は慧の肩に手を置いた。
「だから、無理なんだよ。慧は理想を追いすぎてる。現実を見てない」
「ちゃんと見てるよ」
「あのさ、慧。まだ間に合う。真面目な話、ステラと組まないか?」
「それは前に断ったはずだよ」
俺の手がさらに力を込める。
こんなの、純粋なビジネスの話じゃない。
「このまま戦って、負けて、ECHOが全てを失うより――」
「負けない」
慧が俺の手を振りほどいた。
「俺は、絶対に負けない」
その目があまりにも真っ直ぐで、一瞬、言葉を失う。
「……ほんと、頑固だな」
「頑固で結構。俺は、お前に絶対に勝つ」
その顔。その声。
全部が俺の心を揺さぶる。
しばらく、沈黙が流れた。
「京介」
「なんだよ」
「……お前も相当頑固だよね」
「え?」
「だってステラと組めって、何度も言ってくる」
慧が少し笑った。その笑顔に胸が高鳴る。
「……別に。ただ、ビジネスの話」
「ふふ」
慧はそれ以上追及せず、踵を返した。
「そろそろ戻ろうか」
俺も続こうとした、その時。
「京介」
慧に腕を掴まれる。
「え……」
振り返った瞬間、慧に壁際へ押し込まれた。
「っ……!」
「京介」
顔が近い。吐息が、俺の肌に触れる。
「慧……誰かに見られたら……」
「大丈夫。誰もいないよ」
慧が俺の唇にキスを落とした。
「んっ……」
短いキス。でも、それだけで体が熱くなる。
慧がぱっと離れた。
「俺、本気で戦うから。容赦しないよ」
「……ああ。俺も、容赦しない」
慧が満足そうに笑う。
「それでこそ、ライバル」
そう言って、会場へ戻っていった。
俺はその背中を見送る。
「慧……」
敵だ。間違いなく。
でも、好きだ。
どうしようもなく、好きだ。
「……ほんと、厄介だな」
この気持ち、どうすればいい?
仕事と恋。どっちも譲れない。
夜景を見つめながら、深く息を吐く。
……答えは、まだ出ない。
水面下ではいろいろ動いているはずなのに、俺の目に見える形では、何も変わっていなかった。
そして今夜。
業界最大級のイベント、
“ミュージックビジネスサミット”が開催された。
音楽業界の人間が、文字通り一堂に会する夜。
投資家、アーティスト、レコード会社、配信プラットフォーム。
それぞれが名刺と本音を胸に隠して、この場所に集まってくる。
当然、俺もいる。
ステラの人間として、顔を売りつつ情報を拾わなきゃならない。
――そして。
慧も、いた。
黒いスーツを完璧に着こなして、周囲と軽く言葉を交わしてる。
……いや、見惚れてる場合じゃないって。
目を逸らし、会場をざっと見渡すと、決定権を持つ側の人間がチラホラいるのがわかる。
そのうちの一人、島崎プロデューサーだ。
ステラ寄りで、業界でもかなり影響力のある人。
父と旧知の仲だから、俺はもちろん知ってる。
島崎さんは今回の配信に直接関わる、重要な人物だ。
普段なら、気安く声をかける人はほとんどいない。
でも慧は――迷わず島崎さんに話しかけてる。
会話の内容は聞こえないけど、仕草や笑顔でわかる。ぎこちなさはゼロだ。
島崎さんも自然に笑い返している。
……慧って本当に、こういう場でも全然動じないんだな。
しばらく様子を見ていると、二人は握手を交わして、自然に離れた。
慧は迷わずこっちに歩いてくる。
「こんばんは。瀬戸専務」
そう言って、慧がにこっと笑った。
今の慧は完全に社交用の顔。
柔らかく笑っているけど、計算された表情。
「……名波社長、こんばんは」
「お久しぶりですね」
ビジネスモードとはいえ、裏では恋人なんだから久しぶりじゃないけどな。
俺は心臓バクバクなのに、こいつは顔色ひとつ変えない。隠すの上手すぎる。
「瀬戸専務。バルコニー行きません?」
「……え?」
「ちょっと、二人で話したいんで」
意味ありげな視線。
顔が熱くなるのを、自分でも自覚する。
「……いいですよ」
会場を抜け、慧の後を追う。
バルコニーには誰もいなかった。
夜景が一面に広がり、街の光が静かに瞬いている。
「綺麗だね」
慧が手すりに寄りかかって呟いた。
もうプライベートモードかよ。
「……ああ」
隣に立つ。夜風が心地いい。
こうして並ぶと、ビジネスのこともライバル意識も、全部ちょっと遠くに感じる。
「Kファンドの投資、正式に決まったよ」
「ああ。50億だろ。正直、驚いた」
「これで、ようやく対等に戦える」
慧がまっすぐ俺を見る。
その目に、迷いはない。
「絶対にステラには負けないから」
「……自信満々だな」
「根拠のない自信じゃないよ。ECHOの技術なら、絶対に誰にも負けない配信ができる」
「だから、技術だけじゃ勝てないって言ってるだろ」
「そんなことない」
「アーティストが動かなきゃ、意味がない」
「……それは」
「ステラには、300組のアーティストがいる。ECHOは?」
慧が、言葉に詰まった。その顔が悔しそうで。
俺は慧の肩に手を置いた。
「だから、無理なんだよ。慧は理想を追いすぎてる。現実を見てない」
「ちゃんと見てるよ」
「あのさ、慧。まだ間に合う。真面目な話、ステラと組まないか?」
「それは前に断ったはずだよ」
俺の手がさらに力を込める。
こんなの、純粋なビジネスの話じゃない。
「このまま戦って、負けて、ECHOが全てを失うより――」
「負けない」
慧が俺の手を振りほどいた。
「俺は、絶対に負けない」
その目があまりにも真っ直ぐで、一瞬、言葉を失う。
「……ほんと、頑固だな」
「頑固で結構。俺は、お前に絶対に勝つ」
その顔。その声。
全部が俺の心を揺さぶる。
しばらく、沈黙が流れた。
「京介」
「なんだよ」
「……お前も相当頑固だよね」
「え?」
「だってステラと組めって、何度も言ってくる」
慧が少し笑った。その笑顔に胸が高鳴る。
「……別に。ただ、ビジネスの話」
「ふふ」
慧はそれ以上追及せず、踵を返した。
「そろそろ戻ろうか」
俺も続こうとした、その時。
「京介」
慧に腕を掴まれる。
「え……」
振り返った瞬間、慧に壁際へ押し込まれた。
「っ……!」
「京介」
顔が近い。吐息が、俺の肌に触れる。
「慧……誰かに見られたら……」
「大丈夫。誰もいないよ」
慧が俺の唇にキスを落とした。
「んっ……」
短いキス。でも、それだけで体が熱くなる。
慧がぱっと離れた。
「俺、本気で戦うから。容赦しないよ」
「……ああ。俺も、容赦しない」
慧が満足そうに笑う。
「それでこそ、ライバル」
そう言って、会場へ戻っていった。
俺はその背中を見送る。
「慧……」
敵だ。間違いなく。
でも、好きだ。
どうしようもなく、好きだ。
「……ほんと、厄介だな」
この気持ち、どうすればいい?
仕事と恋。どっちも譲れない。
夜景を見つめながら、深く息を吐く。
……答えは、まだ出ない。
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