【完結】俺の教育係は、甘くて意地悪なエリート【α】――未熟御曹司【Ω】の恋レッスン

砂原紗藍

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【第一章】スパダリαのスパルタ授業

2.まさかのスキンシップ指導

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冬馬のゲストルームは、俺の部屋の隣。
広くて、ベッド、デスク、本棚、ソファと、シンプルだけど機能的に揃っている。

「ここで勉強するのか?」

声をかけると、冬馬が振り返った。

「ああ。自分の部屋だと色々あって集中できないだろ」

なんだ、このからかうような言い方……思わず口を尖らせる。

「別に、大丈夫だけど……」
「本当か?」

軽く笑い、冬馬はデスク前の椅子を指す。
並んだ二つの椅子の片方に腰を下ろすと、自然に距離が近くなる。

αの、少し強めのフェロモンが鼻をくすぐる。
俺はΩだから、αの匂いには敏感だ。
でも冬馬の匂いは……嫌じゃない。むしろ落ち着く。

「じゃあ、始めるか」

冬馬は厚みのある冊子を取り出した。
表紙には『礼儀作法とマナー』と書かれている。

「……社交の勉強?」
「ああ。将来的に色んな場に出ることになるだろ? 恥をかかないようにな」

確かに、父さんもよくそう言っていた。

「まずは基本の挨拶からだ」

冬馬は冊子を開き、会食のマナーや名刺交換、言葉遣いまで丁寧に説明する。

――正直、退屈だ。
でも、冬馬の説明は分かりやすい。

「……全部覚えなきゃいけないの」
「まさか。今日は基本だけでいい」

そう言って笑う横顔が、やけに整って見える。

「今日は“立ち姿勢”と“お辞儀”だけだ」

冬馬が立ち上がり、ゆっくり姿勢を整える。
背筋がスッと伸びて、無駄のない所作。

「お前もやってみろ」
「……うん」

立ち上がると、冬馬が近づいてきた。
そして――顎に手を添えられる。

「っ……」

指先が触れた瞬間、心臓が強く跳ねた。

「……こうだ」

低い声が耳に落ちる。

「……わかった」

できるだけ冷静に答えるけど、顔が熱い。

「ああ、いい感じだ」

頷く冬馬の目が真っ直ぐに俺を見つめる。
視線だけで息が詰まりそうだ。

「次はお辞儀。腰から折るように」

滑らかにお手本を見せる冬馬を真似する。

「うーん、浅いな。もう少し深く」

そう言って――背中に手を添えられる。
体温が伝わって、呼吸が止まる。

「……っ」

冬馬のフェロモンがふわりと空気に溶ける。
その匂いに頭がぼんやりしてくる。

「律、顔赤いぞ?」
「赤くない」

反射で顔を上げると、口元を緩めて笑う冬馬。

「意識しすぎだろ」
「意識なんてしてない」

その一言で、余計に熱くなる。

「じゃあ次は冊子の内容を復習だ」

冬馬は再びページを開き、指で示す。

「さっきの言葉の意味、覚えてるか?」
「……覚えてる」
「じゃあ言ってみろ」
「……忘れた」

正直に答えると、冬馬が苦笑した。

「やっぱりな」
「……うるさい」

もう一回説明される。
低く響く声、ページをめくる音、穏やかな説明。

真面目に聞こう――と思ったけど。
眠い。
どうしようもなく眠い。

冬馬のフェロモンのせいだ。
Ωは安心できるαの匂いを嗅ぐと眠くなる――そんな話をどこかで聞いた。

「……律」

名前を呼ばれて、はっと目を開ける。

「寝るな」
「……寝てない」

否定するけど、まぶたが重い。

「こら、寝るなっつってんだろ」
「……ん」

声が遠い。
ダメだ――

「律!」

突然、すぐ近くで声。
びくっとして顔を上げると、目の前に冬馬の顔。

「っ……!」

反射でのけぞると、椅子がガタッと傾く。

「っと」

冬馬がすぐに背もたれを掴み、倒れそうな俺を支える。
息が触れそうな距離。

「……近い」
「起きろ」
「起きてる……」

嘘だけど。

「ふぅ……」

冬馬がため息をついた。
次の瞬間――

唇に、柔らかい感触。
時間が止まる。

……は?

数秒遅れて脳が理解する。

キス。
冬馬に、キスされた。
顔が一気に熱くなる。

「な、何……!」

声が上ずる。冬馬が小さく笑って離れる。

「これで、起きたろ」
「……最低」

そう言うのが精一杯。
眠気なんて、どこかに吹き飛んでいた。

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