【完結】運命の人が敵対企業の専務だったので、ビジネスも恋も全部奪いました

砂原紗藍

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【第二章】ビジネスは敵、恋は本気

3.50億円の重みとキス

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数日後、Kファンドから連絡が入った。

「名波社長、投資を決定しました。50億円です」

――50億円。
電話口で、思わず息を呑んだ。

「本当ですか?」
「はい。ECHOの技術力を高く評価しています。ただし、結果を出すことが条件です」

当たり前だ。だって50億円だぞ。
その重みをしっかり受け止めないと。

「ありがとうございます!」

電話を切った後、その場に座り込んだ。
デスクの冷たさが、手のひらに伝わってくる。

これで、ようやくステラと対等に戦える。
サーバー増強もスタッフ増員も、全部できる。
ECHOが、次のステージに進める。

嬉しさとプレッシャーが同時に押し寄せてきた。



そして、ミュージックビジネスサミットが開催された。

シャンデリアが輝くホール。
BGMに流れるジャズ。
音楽業界の人間が一堂に会する夜。

……当然、京介もいた。

俺は何人かの投資家と話をした。
名刺を交換して、技術の話をして、ECHOの将来性をアピールする。

視線を感じた気がして、一瞬だけ周囲を見渡す。

案の定だ。
決定権を持つ連中が、さりげなく配置されている。

……いたな。

島崎プロデューサー。
業界では知らない者はいない影響力の持ち主。
今回の配信に深く関わる、外せないキーマンだ。

こういう人は、基本的に向こうから近づいてこない。
周囲も遠巻きに様子をうかがうだけで、下手に声をかけない。

でも――だからこそ、今だ。

俺は迷わず歩み寄った。

「島崎さん。お久しぶりです」

少しだけ驚いた顔。
すぐに、その表情が和らぐ。

「おお、名波くん」

言葉を交わしながら、相手の呼吸と距離感を測る。
力まず、媚びず、でも礼は欠かさない。
雑談に見せかけて、こちらの立場と意図を自然に滲ませる。

――焦る必要はない。
今日は“印象”だけで十分だ。

島崎さんが小さく笑って、うなずいたのを見て、手応えを確信する。

「今日はゆっくり話せてよかったよ」
「こちらこそ。また改めて」

軽く手を差し出すと、向こうも迷いなく応じた。
短く、けれど意味のある握手。

手を離し、自然に距離を取る。

……さて。

迷わず、京介のほうへ歩く。

「こんばんは。瀬戸専務」

そう言って、にこっと笑う。
今の俺は、完全に社交用の顔。

「……名波社長、こんばんは」
「お久しぶりですね」

……京介、緊張してるな。

視線の揺れと、わずかな間でわかる。

ビジネスモードのやり取り。
裏では恋人同士だけど、そんなことは欠片も出さない。

「瀬戸専務。バルコニー行きません?」
「……え?」
「ちょっと、二人で話したいんで」

意味を含ませて、視線を送る。
京介の顔が、ふっと熱を帯びるのが見えた。

バルコニーには誰もいない。
夜景が一面に広がり、街の光が静かに瞬いている。
冷たい空気が頬を撫でる。

「綺麗だね」

俺が手すりに寄りかかって呟いた。
吐く息が白く染まる。

「……ああ」
「Kファンドの投資、正式に決まったよ」
「ああ。50億だろ。正直、驚いた」
「これで、ようやく対等に戦える」

京介が俺を見る。
その瞳に、街の灯りが映っている。

「アーティストが動かなきゃ、意味がない」
「……それは」
「ステラには、300組のアーティストがいる。ECHOは?」

図星を突かれたわけじゃない。
でも、核心を撫でられた気がして、反射的に返せなかった。

その瞬間、肩に手が置かれる。

「だから、無理なんだよ。慧は理想を追いすぎてる。現実を見てない」

悔しさが、胸の奥でじわっと広がる。

「ちゃんと見てるよ」
「あのさ、慧。まだ間に合う。真面目な話、ステラと組まないか?」
「それは前に断ったはずだよ」

肩に置かれた手に、力がこもる。

……わかってる。
これはもう、純粋なビジネスの話じゃない。

「このまま戦って、負けて、ECHOが全てを失うより――」
「負けない」

その手を振りほどいた。

「俺は、絶対に負けない」

京介が、一瞬言葉を失ったのがわかった。

「……ほんと、頑固だな」
「頑固で結構。俺は、お前に絶対に勝つ」

――全部、本気だ。

でもさ、京介。

「……お前も相当、頑固だよね」
「え?」
「だってステラと組めって、何度も言ってくる」
「……別に。ただ、ビジネスの話」
「ふふ」

少しだけ、笑ってしまった。
張り詰めていた空気が、ほんのわずか緩む。

これ以上、踏み込むのはやめた。
今はここまででいい。

「そろそろ戻ろうか」

踵を返した、その直後。

「京介」

腕を掴む。

「え……」

振り返った瞬間、壁際へ押し込んだ。

「っ……!」
「京介」

距離が近い。吐息が、肌に触れる。

「慧……誰かに見られたら……」
「大丈夫。誰もいないよ」

唇に、軽くキスを落とす。

「んっ……」

ほんの一瞬。
それだけで、確かに伝わる熱。

「俺、本気で戦うから。容赦しないよ」
「……ああ。俺も、容赦しない」

その返事に、自然と口角が上がった。

「それでこそ、ライバル」

そう言って、何事もなかった顔で会場へ戻る。

……背中に、まだ視線を感じながら。


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