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ビター・メモリー“甘くも苦い、傷ついた日々の痕”
5.影を抱くパティシエ
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side 一ノ瀬 遥
カフェを出て、秋の風に頬を撫でられた。
拓実が隣で小さく息を吐く。どこか、胸の奥に重いものを抱えたような表情だった。
マンションに戻ると、二人でソファに腰を下ろした。
「なあ、拓実。環くん……すごく頑張ってるよな」
「うん。表情は落ち着いてたけど、きっとまだ整理しきれていないと思う。裏切られた痛みって、時間が経っても簡単に消えないから」
拓実の言葉は、まっすぐに胸に響く。
その静かな優しさに、俺は小さく頷いた。
「俺さ、放っておけないなって思ったんだ。だってあの時の俺と似てる。全部失って、それでも立とうとしてる感じ」
「……うん。俺も同じことを思ってた」
拓実が少しだけ笑う。けれどその瞳の奥には、真剣な光が宿っていた。
「環くんが失ったものを全部取り戻すのは難しいかもしれない。けど、支えることならできるから。正しい形で、ちゃんと力になりたい」
その言葉が嬉しくて、俺も笑みをこぼす。
「ああ。俺も、できることがあれば何でもしたい。環は誰かがそばにいてあげないと――無理して壊れちゃいそうだもん」
拓実は静かに俺の頭を撫でた。
「やっぱりお前は優しいな」
「そう言うけど、拓実の方がずっと優しいだろ。俺なんて、見てるだけで何もできねぇよ」
「そんなことないって。お前がそうやって心を向けることが、一番の支えになるんじゃねえかな」
その言葉に、胸が温かく満たされていく。
拓実と出会って、救われたように――今度は、誰かを救える側でいたい。
「な、拓実」
「ん?」
「環くんのこと、ちゃんと助けよう。俺たちにできる形で」
拓実が頷き、柔らかく笑った。
「もちろん。俺たちで、守ろう」
その瞬間、心の中で静かに決意する。
過去に苦しんだ自分たちだからこそ、あの人の痛みを分かってあげられる――
そして、少しずつでも光へ導けるように。
――と、スマホをいじっていた拓実が何かを見つけたように眉を動かした。
「……あ、やっぱりあったか」
「え? 何が?」
「花村環の記事。昔のニュース」
「……記事?」
「これ見てみ」
スマホを受け取ると、そこには見覚えのある名前があった。
“高級レストラン「Lumière」で発生した集団食中毒事件。原因は、元パティシエ・花村環による衛生管理の不備とされ――”
「……これ……環くんの名前だ」
指先が震えた。画面の中で、ひとりの男――“西条”と名乗る人物が会見で語っている。
“原因は彼のずさんな管理体制です。責任を痛感しています”
拓実の表情が、静かに険しくなる。
「……濡れ衣って、このことだったのか」
低く呟いたその声に、わずかに怒りが混じっていた。
俺はただ、画面を見つめながら息を呑むしかなかった。
「……こんな形で、全部奪われたんだな」
リビングの空気が少しだけ張りつめる。
沈黙を破るように、俺は拓実の方を向いた。
「なあ、拓実。この西条って人が……環くんの恋人だったのか?」
「まあ、恐らくだな」
拓実の低い声が胸の奥に刺さる。
頭の中では、カフェでの環の言葉が蘇っていた。
――“その恋人は……仕事のパートナーでもあって、共同経営だったんです。俺は自分の資金と借金で店を開いたのに、店もレシピも奪われて……さらに、濡れ衣まで着せられて。メディアでも叩かれました”――
「酷すぎる……」
言葉にした途端、怒りとも悲しみともつかない感情が胸に広がる。
そんな俺の横で、拓実がふと何かを思い出したように表情を変えた。
「……あのさ」
「ん?」
「俺、この“西条”ってやつ……知ってるかもしれない」
「は? どういうこと?」
拓実は視線を落とし、しばらく黙ったあと、低く続けた。
「俺の知人なんだけど――この西条を調べてたんだよね」
「……調べてた? それって、どういう意味?」
「まだ確証はない。けど、もしかしたら環くんの件とも繋がるかもしれない」
拓実の瞳が、一瞬だけ鋭く光った。
カフェを出て、秋の風に頬を撫でられた。
拓実が隣で小さく息を吐く。どこか、胸の奥に重いものを抱えたような表情だった。
マンションに戻ると、二人でソファに腰を下ろした。
「なあ、拓実。環くん……すごく頑張ってるよな」
「うん。表情は落ち着いてたけど、きっとまだ整理しきれていないと思う。裏切られた痛みって、時間が経っても簡単に消えないから」
拓実の言葉は、まっすぐに胸に響く。
その静かな優しさに、俺は小さく頷いた。
「俺さ、放っておけないなって思ったんだ。だってあの時の俺と似てる。全部失って、それでも立とうとしてる感じ」
「……うん。俺も同じことを思ってた」
拓実が少しだけ笑う。けれどその瞳の奥には、真剣な光が宿っていた。
「環くんが失ったものを全部取り戻すのは難しいかもしれない。けど、支えることならできるから。正しい形で、ちゃんと力になりたい」
その言葉が嬉しくて、俺も笑みをこぼす。
「ああ。俺も、できることがあれば何でもしたい。環は誰かがそばにいてあげないと――無理して壊れちゃいそうだもん」
拓実は静かに俺の頭を撫でた。
「やっぱりお前は優しいな」
「そう言うけど、拓実の方がずっと優しいだろ。俺なんて、見てるだけで何もできねぇよ」
「そんなことないって。お前がそうやって心を向けることが、一番の支えになるんじゃねえかな」
その言葉に、胸が温かく満たされていく。
拓実と出会って、救われたように――今度は、誰かを救える側でいたい。
「な、拓実」
「ん?」
「環くんのこと、ちゃんと助けよう。俺たちにできる形で」
拓実が頷き、柔らかく笑った。
「もちろん。俺たちで、守ろう」
その瞬間、心の中で静かに決意する。
過去に苦しんだ自分たちだからこそ、あの人の痛みを分かってあげられる――
そして、少しずつでも光へ導けるように。
――と、スマホをいじっていた拓実が何かを見つけたように眉を動かした。
「……あ、やっぱりあったか」
「え? 何が?」
「花村環の記事。昔のニュース」
「……記事?」
「これ見てみ」
スマホを受け取ると、そこには見覚えのある名前があった。
“高級レストラン「Lumière」で発生した集団食中毒事件。原因は、元パティシエ・花村環による衛生管理の不備とされ――”
「……これ……環くんの名前だ」
指先が震えた。画面の中で、ひとりの男――“西条”と名乗る人物が会見で語っている。
“原因は彼のずさんな管理体制です。責任を痛感しています”
拓実の表情が、静かに険しくなる。
「……濡れ衣って、このことだったのか」
低く呟いたその声に、わずかに怒りが混じっていた。
俺はただ、画面を見つめながら息を呑むしかなかった。
「……こんな形で、全部奪われたんだな」
リビングの空気が少しだけ張りつめる。
沈黙を破るように、俺は拓実の方を向いた。
「なあ、拓実。この西条って人が……環くんの恋人だったのか?」
「まあ、恐らくだな」
拓実の低い声が胸の奥に刺さる。
頭の中では、カフェでの環の言葉が蘇っていた。
――“その恋人は……仕事のパートナーでもあって、共同経営だったんです。俺は自分の資金と借金で店を開いたのに、店もレシピも奪われて……さらに、濡れ衣まで着せられて。メディアでも叩かれました”――
「酷すぎる……」
言葉にした途端、怒りとも悲しみともつかない感情が胸に広がる。
そんな俺の横で、拓実がふと何かを思い出したように表情を変えた。
「……あのさ」
「ん?」
「俺、この“西条”ってやつ……知ってるかもしれない」
「は? どういうこと?」
拓実は視線を落とし、しばらく黙ったあと、低く続けた。
「俺の知人なんだけど――この西条を調べてたんだよね」
「……調べてた? それって、どういう意味?」
「まだ確証はない。けど、もしかしたら環くんの件とも繋がるかもしれない」
拓実の瞳が、一瞬だけ鋭く光った。
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