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ビター・メモリー“甘くも苦い、傷ついた日々の痕”
4.壊れた心と、二人の温もり
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数日ぶりの穏やかな午後。
カフェ「madoca」のカウンターの向こうで、いつものように準備を整えていた。
すると、聞き覚えのある声が店内に響く。
「環くん!」
あの時と同じ明るい声――でも、今日は遥くんの隣に背の高いイケメン男性がいる。
「こんにちは。はじめまして、神谷拓実といいます。遥の夫です」
――神谷拓実さん……。
この人が、俺をこのカフェで雇ってくれた潔さんの孫なのか。
そして、遥くんの旦那さん。
拓実さんは威圧感はなく、初対面の俺でも不安は感じない。
俺は少し身を正して頭を下げた。
「あ、こんにちは。あの……初めまして。花村環です」
「環くん、よろしくな」
拓実さんが優しく微笑んだ。
「ご注文は何かになさいますか?」
「じゃあ、コーヒー二つお願い」
席に着いた遥くんがにこりと笑う。
「そうだ、環くん。今日も何か作った?」
「うん、ちょうど焼き上がったばかりだよ。今日は秋らしいスイーツを用意したんだ。和栗のモンブランとパンプキンタルト」
カウンターの向こうで手早く皿を並べる。
モンブランはメレンゲと生クリームで仕上げ、渋皮栗をひとつ丁寧に飾る。
パンプキンタルトにはキャラメリゼしたナッツを散らし、香ばしさを添えた。
拓実さんは皿を見つめ、自然に感心の声を漏らす。
「……これ、手作りだよね? 仕込みも全部?」
「はい、全部自分でやりました」
「そうか、盛り付けのバランスも完璧だね……すごいな」
その一言で少し心が軽くなる。
初対面でも、技術や丁寧さを認めてもらえる――それだけで少し救われる気がした。
遥くんが隣でにこにこと笑っている。その笑顔を見ていると、不思議と胸が落ち着いた。
この二人になら、過去のことを話しても大丈夫かもしれない――そう思えた。
深く息を吸い、言葉を選ぶようにして口を開く。
「……あの、話を聞いてもらえますか?」
拓実さんの瞳がほんの少し大きく見開かれ、遥くんも小さく頷いた。
「……環くん、いいよ。話してくれるかな」
拓実さんの優しい声に背中を押されるように、口を開く。
「遥くんには少し話したんですが、実は……三年前、俺は大切なものをほとんど失ってしまったんです」
自然に、胸の奥にしまっていた記憶が言葉として流れ出す。
「恋人に裏切られて、夢も仕事も、信頼も――全部、なくしてしまったんです」
遥くんはじっと言葉を待ってくれる。
拓実さんも黙ってうなずき、遮ることなく聞いてくれる。
「その恋人は……仕事のパートナーでもあって、共同経営だったんです。俺は自分の資金と借金で店を開いたのに、店もレシピも奪われて……さらに、濡れ衣まで着せられて。メディアでも叩かれました」
言葉にするたび、胸の奥でくすぶる怒りが少しずつ顔を出す。
指先もわずかに震えるのを感じる。
「……なるほど。辛かったな、環くん」
拓実さんは静かに、しかし確かな声で言った。
遥くんを守ってきたこの人の言葉は、温かく感じた――。
「環くん、メディアの件に関しては俺から謝る。嘘の情報で君が傷ついたことや、不快な思いをさせてしまったこと、本当に申し訳ない」
「俺からも……編集者として。ごめん……」
「えっ!? いや、あなたたちが悪いわけじゃないです! でも……そうやって言われると、少しだけ救われる気がする。ありがとう」
遥くんも小さく頷き、柔らかい笑顔を見せる。
――過去の重い話をしても、否定や軽視はされない。
カフェの空気は穏やかに流れる。
秋の香りとスイーツの甘さに包まれ、胸の重さが少し和らぐ。
復讐心はまだ消えないけれど、この二人との時間が、少しだけ救いになった――そう思えた。
カフェ「madoca」のカウンターの向こうで、いつものように準備を整えていた。
すると、聞き覚えのある声が店内に響く。
「環くん!」
あの時と同じ明るい声――でも、今日は遥くんの隣に背の高いイケメン男性がいる。
「こんにちは。はじめまして、神谷拓実といいます。遥の夫です」
――神谷拓実さん……。
この人が、俺をこのカフェで雇ってくれた潔さんの孫なのか。
そして、遥くんの旦那さん。
拓実さんは威圧感はなく、初対面の俺でも不安は感じない。
俺は少し身を正して頭を下げた。
「あ、こんにちは。あの……初めまして。花村環です」
「環くん、よろしくな」
拓実さんが優しく微笑んだ。
「ご注文は何かになさいますか?」
「じゃあ、コーヒー二つお願い」
席に着いた遥くんがにこりと笑う。
「そうだ、環くん。今日も何か作った?」
「うん、ちょうど焼き上がったばかりだよ。今日は秋らしいスイーツを用意したんだ。和栗のモンブランとパンプキンタルト」
カウンターの向こうで手早く皿を並べる。
モンブランはメレンゲと生クリームで仕上げ、渋皮栗をひとつ丁寧に飾る。
パンプキンタルトにはキャラメリゼしたナッツを散らし、香ばしさを添えた。
拓実さんは皿を見つめ、自然に感心の声を漏らす。
「……これ、手作りだよね? 仕込みも全部?」
「はい、全部自分でやりました」
「そうか、盛り付けのバランスも完璧だね……すごいな」
その一言で少し心が軽くなる。
初対面でも、技術や丁寧さを認めてもらえる――それだけで少し救われる気がした。
遥くんが隣でにこにこと笑っている。その笑顔を見ていると、不思議と胸が落ち着いた。
この二人になら、過去のことを話しても大丈夫かもしれない――そう思えた。
深く息を吸い、言葉を選ぶようにして口を開く。
「……あの、話を聞いてもらえますか?」
拓実さんの瞳がほんの少し大きく見開かれ、遥くんも小さく頷いた。
「……環くん、いいよ。話してくれるかな」
拓実さんの優しい声に背中を押されるように、口を開く。
「遥くんには少し話したんですが、実は……三年前、俺は大切なものをほとんど失ってしまったんです」
自然に、胸の奥にしまっていた記憶が言葉として流れ出す。
「恋人に裏切られて、夢も仕事も、信頼も――全部、なくしてしまったんです」
遥くんはじっと言葉を待ってくれる。
拓実さんも黙ってうなずき、遮ることなく聞いてくれる。
「その恋人は……仕事のパートナーでもあって、共同経営だったんです。俺は自分の資金と借金で店を開いたのに、店もレシピも奪われて……さらに、濡れ衣まで着せられて。メディアでも叩かれました」
言葉にするたび、胸の奥でくすぶる怒りが少しずつ顔を出す。
指先もわずかに震えるのを感じる。
「……なるほど。辛かったな、環くん」
拓実さんは静かに、しかし確かな声で言った。
遥くんを守ってきたこの人の言葉は、温かく感じた――。
「環くん、メディアの件に関しては俺から謝る。嘘の情報で君が傷ついたことや、不快な思いをさせてしまったこと、本当に申し訳ない」
「俺からも……編集者として。ごめん……」
「えっ!? いや、あなたたちが悪いわけじゃないです! でも……そうやって言われると、少しだけ救われる気がする。ありがとう」
遥くんも小さく頷き、柔らかい笑顔を見せる。
――過去の重い話をしても、否定や軽視はされない。
カフェの空気は穏やかに流れる。
秋の香りとスイーツの甘さに包まれ、胸の重さが少し和らぐ。
復讐心はまだ消えないけれど、この二人との時間が、少しだけ救いになった――そう思えた。
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