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煌めくシュガーグラス―光と影のコントラスト―
1.二つの想いが静かに交わる
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side 一ノ瀬 遥
神谷メディアの編集部には、すでに冬の気配が漂っていた。
窓の外には冷たい雨。
デスクの上には、クリスマス特集の資料が山のように積まれている。
「一ノ瀬くん、クリスマススイーツの企画、担当お願いできる?」
編集長にそう言われたのは、先週の会議だった。
テーマは――
“心を温めるクリスマススイーツとイベントパーティー”。
派手なだけじゃなく、人の想いが感じられる企画にしたい。
そう思って真っ先に頭に浮かんだのが、カフェmadocaで食べた、環のガトーショコラ。
繊細で優しくて、どこか切なさを残す味。
あの味を誌面で届けられたら、きっと多くの人の心に響くはずだ。
俺は、madocaに向かった。
昼下がりの店内。
カウンターの奥で、環が仕込みをしていた。
薄茶色の髪が光に透け、真剣な横顔が硝子越しに見える。
「……環くん、少しいいかな?」
声をかけると、環は驚いたように顔を上げた。
「遥くん! どうしたの?」
「実はさ、雑誌のクリスマス特集で、スイーツの企画をお願いしたくて」
「俺に?」
「心に残るスイーツを探していて……ぜひお願いしたいな」
環はしばらく考え込んだあと、小さく息をついた。
「俺はもうパティシエじゃないし、もし……俺が“あの花村だ”って知ったら、遥くんたちに迷惑がかかるよ」
「それは大丈夫。掲載には環くんの名前も顔も出さないよ。ちゃんと時期が来たら、スイーツ特集組んでもいいし」
「でも、俺なんかでいいのかな?」
「いいんだよ」
思わず少し前のめりになっていた。
「環くんの作るお菓子は、“誰かを想う味”がする」
「え?」
「料理に“想い”がこもってるかどうかって、経験の長さじゃないと思う。俺は、環くんの味を信じてる」
環の指先が、エプロンの裾をきゅっと握った。
そのまま、少し照れたように目を逸らす。
「……そんなふうに言われたの、初めてだよ」
「じゃあ、これが最初の取材ってことで。よろしく、花村シェフ」
「シェフなんて言わないでよ」
環が苦笑する。
でも、その顔はどこか嬉しそうだった。
「撮影は来週でいいかな? スタジオとライティング、こっちで手配するから」
「うん、わかった」
彼の作るスイーツが誰かの心を温める──それを、誌面でどう伝えるかが、これからの仕事だ。
「インタビューは短めでいいからね。レシピの背景や“誰かを想う味”について中心に聞かせてほしい。顔出しは無しで、手元だけで構成する」
「ありがとう。よろしく、遥くん」
「任せて」
その後、撮影スケジュールや試作の打ち合わせを簡単に済ませる。
「もし撮影中に環くんの安全に関わることが出てきたら、すぐ言って。こちらでも対応できることは検討するから」
「うん、助かる……」
「じゃあまた詳しい内容は連絡するね」
俺が荷物をまとめていると、環が小さく声をかけてきた。
「あの、遥くん」
「なに?」
「えっと……俺、透さん……いや、神崎さんと一緒に住むことになって」
「ん? え?」
「……てゆーか、もう住んでるんだけど、」
「えぇぇぇ!?」
周りの客が一瞬こちらを見る。
環は慌てて口に人差し指を当てた。
「しーっ、声、でかいって!」
「だ、だって環くん、それどういうこと!? 神崎さんと一緒に住んでるって……」
環は肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
「保護っていうか……まあ、身の安全のためってやつ」
「身の安全……って、西条の件?」
「うん。透さんが、俺を守ってくれてる」
「……守って、って。環くん、それ……」
「あ、心配しないで! 透さん、ちゃんとしてる人だから、寝室も別だし……」
「そういう問題じゃなくてさ」
俺は苦笑いしながら、でも真剣に環の顔を見る。
「あ、いや、ボディーガード雇うとお金がかかるから。透さんとこでしばらくお世話になることにしただけで……」
環の声の端々に、安心感と甘えが混ざっているのが鮮明に伝わる。
「なるほど……。神崎さん、いい人なんだね」
「あー……まぁ、うん」
「環くん、このまま惚れちゃったりして」
「なっ……そんなことない!」
環が頬を赤くしてむくれる。
けれどその表情は、どこか楽しげだった。
「じゃ、来週に向けて準備しておくよ。神崎さんにもよろしくね」
「うん。遥くん、ありがとう。拓実さんにもよろしく。これお土産」
「ありがとう」
お菓子を受け取って店を出ると、雨は少し弱くなっていた。
街の街灯には早くもクリスマスのリースが飾られている。
今年の冬は、きっと特別なものになる。
――そんな予感が、胸の奥にふわりと灯った。
神谷メディアの編集部には、すでに冬の気配が漂っていた。
窓の外には冷たい雨。
デスクの上には、クリスマス特集の資料が山のように積まれている。
「一ノ瀬くん、クリスマススイーツの企画、担当お願いできる?」
編集長にそう言われたのは、先週の会議だった。
テーマは――
“心を温めるクリスマススイーツとイベントパーティー”。
派手なだけじゃなく、人の想いが感じられる企画にしたい。
そう思って真っ先に頭に浮かんだのが、カフェmadocaで食べた、環のガトーショコラ。
繊細で優しくて、どこか切なさを残す味。
あの味を誌面で届けられたら、きっと多くの人の心に響くはずだ。
俺は、madocaに向かった。
昼下がりの店内。
カウンターの奥で、環が仕込みをしていた。
薄茶色の髪が光に透け、真剣な横顔が硝子越しに見える。
「……環くん、少しいいかな?」
声をかけると、環は驚いたように顔を上げた。
「遥くん! どうしたの?」
「実はさ、雑誌のクリスマス特集で、スイーツの企画をお願いしたくて」
「俺に?」
「心に残るスイーツを探していて……ぜひお願いしたいな」
環はしばらく考え込んだあと、小さく息をついた。
「俺はもうパティシエじゃないし、もし……俺が“あの花村だ”って知ったら、遥くんたちに迷惑がかかるよ」
「それは大丈夫。掲載には環くんの名前も顔も出さないよ。ちゃんと時期が来たら、スイーツ特集組んでもいいし」
「でも、俺なんかでいいのかな?」
「いいんだよ」
思わず少し前のめりになっていた。
「環くんの作るお菓子は、“誰かを想う味”がする」
「え?」
「料理に“想い”がこもってるかどうかって、経験の長さじゃないと思う。俺は、環くんの味を信じてる」
環の指先が、エプロンの裾をきゅっと握った。
そのまま、少し照れたように目を逸らす。
「……そんなふうに言われたの、初めてだよ」
「じゃあ、これが最初の取材ってことで。よろしく、花村シェフ」
「シェフなんて言わないでよ」
環が苦笑する。
でも、その顔はどこか嬉しそうだった。
「撮影は来週でいいかな? スタジオとライティング、こっちで手配するから」
「うん、わかった」
彼の作るスイーツが誰かの心を温める──それを、誌面でどう伝えるかが、これからの仕事だ。
「インタビューは短めでいいからね。レシピの背景や“誰かを想う味”について中心に聞かせてほしい。顔出しは無しで、手元だけで構成する」
「ありがとう。よろしく、遥くん」
「任せて」
その後、撮影スケジュールや試作の打ち合わせを簡単に済ませる。
「もし撮影中に環くんの安全に関わることが出てきたら、すぐ言って。こちらでも対応できることは検討するから」
「うん、助かる……」
「じゃあまた詳しい内容は連絡するね」
俺が荷物をまとめていると、環が小さく声をかけてきた。
「あの、遥くん」
「なに?」
「えっと……俺、透さん……いや、神崎さんと一緒に住むことになって」
「ん? え?」
「……てゆーか、もう住んでるんだけど、」
「えぇぇぇ!?」
周りの客が一瞬こちらを見る。
環は慌てて口に人差し指を当てた。
「しーっ、声、でかいって!」
「だ、だって環くん、それどういうこと!? 神崎さんと一緒に住んでるって……」
環は肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
「保護っていうか……まあ、身の安全のためってやつ」
「身の安全……って、西条の件?」
「うん。透さんが、俺を守ってくれてる」
「……守って、って。環くん、それ……」
「あ、心配しないで! 透さん、ちゃんとしてる人だから、寝室も別だし……」
「そういう問題じゃなくてさ」
俺は苦笑いしながら、でも真剣に環の顔を見る。
「あ、いや、ボディーガード雇うとお金がかかるから。透さんとこでしばらくお世話になることにしただけで……」
環の声の端々に、安心感と甘えが混ざっているのが鮮明に伝わる。
「なるほど……。神崎さん、いい人なんだね」
「あー……まぁ、うん」
「環くん、このまま惚れちゃったりして」
「なっ……そんなことない!」
環が頬を赤くしてむくれる。
けれどその表情は、どこか楽しげだった。
「じゃ、来週に向けて準備しておくよ。神崎さんにもよろしくね」
「うん。遥くん、ありがとう。拓実さんにもよろしく。これお土産」
「ありがとう」
お菓子を受け取って店を出ると、雨は少し弱くなっていた。
街の街灯には早くもクリスマスのリースが飾られている。
今年の冬は、きっと特別なものになる。
――そんな予感が、胸の奥にふわりと灯った。
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