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キャラメル・ノワール “隠れた痛み、微かな甘み”
3.甘くほろ苦いスパダリ同行
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「では、早速ですが――」
透さんがタブレットを取り出した。
画面に西条の情報が映し出される。
「西条慎吾、三十四歳。高級レストラン『Lumière』のオーナーです」
透さんの指先が画面を滑る。
俺はその写真に思わず顔をしかめた。
見慣れた笑顔。けれど、あの笑顔の裏を、俺は知っている。
「表向きは慈善活動家で評判もいいようですが――裏では違法な取引、詐欺、恐喝を繰り返しています」
透さんはわずかに息をついて、目を細めた。
「証拠一部は掴んでいます。ただ、決定的なものがない」
そして、まっすぐに俺を見た。
「だから、証言が必要なんです」
「俺の証言だけで、足りるの?」
「いいえ。それだけでは弱い」
透さんは静かに首を振る。
「西条の現在進行形の犯罪の証拠――それを得るために、内部に潜入する必要があります」
「……潜入?」
「はい。ひとまず環には『Lumière』に関する情報を提供していただきます」
透さんの視線は真剣そのものだった。
「取引先、従業員、経営の実態……環が知っている範囲で、すべて教えてください」
その言葉の重さに、喉が乾いた。
「でも、俺……もうあの店には戻れないし」
「戻る必要はありません。あなたには、情報を提供してもらうだけで十分です。その上で、俺が別のルートから動きます」
落ち着いた口調でそう言われて、少しだけ肩の力が抜けた。
「……わかった」
俺が頷くと、透さんはふっと表情を和らげた。
「次に、環の安全を確保します」
「俺の……安全?」
一瞬、意味が飲み込めずに聞き返す。
神崎さんの声のトーンがわずかに低くなった。
「西条が、あなたの動きに気づく可能性があります」
その言葉に、背筋がひやりとする。
そして、彼は何気ない調子で続けた。
「ですから――今日からしばらく、俺のマンションに来てください」
「……は?」
思わず間抜けな声が出た。
「一緒に住む、ってことですか!?」
「ええ。その方が安全ですから」
あまりにも当然のように言うから、思わず机を叩きそうになる。
「いや、それ普通におかしくない?!」
「別におかしくありません。あなたの身を守るためです」
「守るって……一緒に住む必要ある!?」
透さんは静かに笑って、さらりと続ける。
「もちろん、部屋は別です。安心してください」
「……別とか言われても、そういう問題じゃなくて」
いや、まあ……少しは気になるけど。
「嫌なら、ボディーガードを雇いますか?ただし、費用はかなりかかります」
柔らかい声なのに、逃げ道を塞ぐような優しい圧があった。
気づけば、俺は黙り込んでいた。
お金なんてないし――
一人でいるのは、確かに危険だ。
「……わかった。お世話になる」
ようやくそう言うと、神崎さんはほっとしたように小さく頷いた。
「ありがとうございます。では、帰ったら荷物をまとめておいてください」
「え?」
あまりに自然に次の段取りを口にするから、思わず聞き返す。
透さんは椅子から立ち上がり、俺の前に歩み寄る。
「今夜、迎えに行きます。住所を教えていただけますか?」
「え、あ……うん」
差し出したメモを受け取ると、透さんはそれを丁寧にたたんでポケットにしまった。
その仕草ひとつまで無駄がなくて、思わず見とれてしまう。
「では、夜八時に伺います。それまでに荷物をまとめておいてください」
「……仕方ないな、わかった」
透さんは軽く頷くと、スマートフォンを取り出し、すぐにどこかへ電話をかけた。
「タクシーを一台。――はい、今すぐ。……ありがとうございます」
通話を終えると、透さんは俺の方に視線を戻した。
「帰りはこれで。夜道を歩かせるわけにはいかないので」
「え、いいって! 悪いよ」
「悪くなんてありません。俺が呼びたくて呼んだので」
低く落ち着いた声が、やけに心に響く。
窓の外にタクシーのヘッドライトが見えたころ、透さんは上着を手に取った。
「行きましょう。送っていきます」
「えっ、自分で――」
「いいから」
軽く笑みを浮かべて立ち上がると、透さんはポケットから財布を取り出した。
数枚の紙幣を抜き取り、さらりと俺の手に差し出す。
「タクシー代です。降りるときに払ってください」
「そんな……受け取れないよ」
「遠慮はいりません。俺が誘ったんですから」
その言い方があまりにも自然で、仕事でもプライベートでも“抜かりがない人”なんだと思わされる。
手の中の紙幣が、やけに温かく感じた。
ビルの外に出ると、夜風が少し冷たかった。
「気をつけて帰ってください。……また今夜」
「……うん」
乗り込んだ俺を、透さんは最後まで見送っていた。
その姿が視界から消えるまで、胸の奥で静かに熱がくすぶっていた。
――あんなの、完璧すぎじゃん。
気づけば、思わず口の中でつぶやいていた。
顔まで思い出して、なんか、ちょっと……顔が熱い。
透さんがタブレットを取り出した。
画面に西条の情報が映し出される。
「西条慎吾、三十四歳。高級レストラン『Lumière』のオーナーです」
透さんの指先が画面を滑る。
俺はその写真に思わず顔をしかめた。
見慣れた笑顔。けれど、あの笑顔の裏を、俺は知っている。
「表向きは慈善活動家で評判もいいようですが――裏では違法な取引、詐欺、恐喝を繰り返しています」
透さんはわずかに息をついて、目を細めた。
「証拠一部は掴んでいます。ただ、決定的なものがない」
そして、まっすぐに俺を見た。
「だから、証言が必要なんです」
「俺の証言だけで、足りるの?」
「いいえ。それだけでは弱い」
透さんは静かに首を振る。
「西条の現在進行形の犯罪の証拠――それを得るために、内部に潜入する必要があります」
「……潜入?」
「はい。ひとまず環には『Lumière』に関する情報を提供していただきます」
透さんの視線は真剣そのものだった。
「取引先、従業員、経営の実態……環が知っている範囲で、すべて教えてください」
その言葉の重さに、喉が乾いた。
「でも、俺……もうあの店には戻れないし」
「戻る必要はありません。あなたには、情報を提供してもらうだけで十分です。その上で、俺が別のルートから動きます」
落ち着いた口調でそう言われて、少しだけ肩の力が抜けた。
「……わかった」
俺が頷くと、透さんはふっと表情を和らげた。
「次に、環の安全を確保します」
「俺の……安全?」
一瞬、意味が飲み込めずに聞き返す。
神崎さんの声のトーンがわずかに低くなった。
「西条が、あなたの動きに気づく可能性があります」
その言葉に、背筋がひやりとする。
そして、彼は何気ない調子で続けた。
「ですから――今日からしばらく、俺のマンションに来てください」
「……は?」
思わず間抜けな声が出た。
「一緒に住む、ってことですか!?」
「ええ。その方が安全ですから」
あまりにも当然のように言うから、思わず机を叩きそうになる。
「いや、それ普通におかしくない?!」
「別におかしくありません。あなたの身を守るためです」
「守るって……一緒に住む必要ある!?」
透さんは静かに笑って、さらりと続ける。
「もちろん、部屋は別です。安心してください」
「……別とか言われても、そういう問題じゃなくて」
いや、まあ……少しは気になるけど。
「嫌なら、ボディーガードを雇いますか?ただし、費用はかなりかかります」
柔らかい声なのに、逃げ道を塞ぐような優しい圧があった。
気づけば、俺は黙り込んでいた。
お金なんてないし――
一人でいるのは、確かに危険だ。
「……わかった。お世話になる」
ようやくそう言うと、神崎さんはほっとしたように小さく頷いた。
「ありがとうございます。では、帰ったら荷物をまとめておいてください」
「え?」
あまりに自然に次の段取りを口にするから、思わず聞き返す。
透さんは椅子から立ち上がり、俺の前に歩み寄る。
「今夜、迎えに行きます。住所を教えていただけますか?」
「え、あ……うん」
差し出したメモを受け取ると、透さんはそれを丁寧にたたんでポケットにしまった。
その仕草ひとつまで無駄がなくて、思わず見とれてしまう。
「では、夜八時に伺います。それまでに荷物をまとめておいてください」
「……仕方ないな、わかった」
透さんは軽く頷くと、スマートフォンを取り出し、すぐにどこかへ電話をかけた。
「タクシーを一台。――はい、今すぐ。……ありがとうございます」
通話を終えると、透さんは俺の方に視線を戻した。
「帰りはこれで。夜道を歩かせるわけにはいかないので」
「え、いいって! 悪いよ」
「悪くなんてありません。俺が呼びたくて呼んだので」
低く落ち着いた声が、やけに心に響く。
窓の外にタクシーのヘッドライトが見えたころ、透さんは上着を手に取った。
「行きましょう。送っていきます」
「えっ、自分で――」
「いいから」
軽く笑みを浮かべて立ち上がると、透さんはポケットから財布を取り出した。
数枚の紙幣を抜き取り、さらりと俺の手に差し出す。
「タクシー代です。降りるときに払ってください」
「そんな……受け取れないよ」
「遠慮はいりません。俺が誘ったんですから」
その言い方があまりにも自然で、仕事でもプライベートでも“抜かりがない人”なんだと思わされる。
手の中の紙幣が、やけに温かく感じた。
ビルの外に出ると、夜風が少し冷たかった。
「気をつけて帰ってください。……また今夜」
「……うん」
乗り込んだ俺を、透さんは最後まで見送っていた。
その姿が視界から消えるまで、胸の奥で静かに熱がくすぶっていた。
――あんなの、完璧すぎじゃん。
気づけば、思わず口の中でつぶやいていた。
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