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キャラメル・ノワール “隠れた痛み、微かな甘み”
2.探偵と元パティシエの共謀
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コーヒーはすっかり冷め、キャラメルの香りも遠くなっていた。
それでも、何か――この人の言葉には、嘘がないように思えた。
「……わかった。力になれるかはわからないけど、話は聞く」
神崎さんの目が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
そして、ゆっくりと頷いた。
「ありがとうございます。まずは事務所で、詳細を整理しましょう」
店を出ると、午後の柔らかな日差しが二人を包む。
歩道の端を歩きながら、自然と距離を保つ。
肩越しに神崎さんの様子を窺うと、目は周囲を警戒している。
タクシーに乗り込むと、車内は静寂に包まれた。
窓の外を街路樹の影が揺れ、車の揺れに合わせて胸の奥の緊張も微かに揺れる。
「事務所までは、すぐです」
神崎さんの声は静かだったが、そこには無言の重みがある。
「……うん」
無理に言葉を返す必要もないと思い、窓の外を眺める。
街の景色がゆっくり流れる中、頭の奥には三年前の出来事がぼんやりと蘇る。
けれど、その痛みは今、ぎりぎりのところで手の中に抑えられているような気がした。
やがて、駅から少し離れたビルの前でタクシーが停まる。
三階にある神崎調査事務所の看板が、黒いガラスの扉とともに静かに佇む。
――ここで、何が始まるのだろう。
神崎さんが先にドアを開け、静かに手招きする。
「どうぞ」
一歩踏み出すと、中は想像以上に整然としていた。
壁一面に並んだ本棚、大きなデスクに並ぶパソコン二台。
資料はきちんとファイリングされ、ホワイトボードには細かい文字がびっしりと書き込まれている。
「すごい……」
思わず声が漏れると、神崎さんが振り返った。
「仕事柄、情報整理が命なので」
淡々と言いながら、神崎さんは椅子を勧める。
デスクの上には、「西条慎吾」と書かれたファイルが山のように積まれていた。
「これ、全部……」
思わず声に出す。
「ええ。四年分です」
ページをめくると、西条の写真、取引先のリスト、金の流れ、関係者の証言――
細部まで、ひとつも漏らさず記録されている。
神崎さんがどれだけの時間をかけ、どれだけの労力を注いできたのかが、手に取るように伝わった。
その執念に、胸がぎゅっと詰まる。
「でも……これだけあっても、まだ足りないの?」
神崎さんは静かにファイルを閉じ、こちらを見た。
「証拠として、法廷で使えるものが、まだないんです」
目の前の資料の山を見ても、決定的な証拠はまだ見つかっていないなんて――。
「西条は用心深いです。決定的な場面は絶対に記録に残さない。だから、いつも逃げられてきた」
神崎さんはため息をついた。
「……ずっと一人で?」
「はい。これは俺の戦いですから」
そう言って、神崎さんは微かに笑った。
その笑顔が寂しげで――胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「……でも、もう一人じゃないじゃん」
俺がそう言うと、神崎さんは少し驚いたように目を見開いた。
「……そうですね」
ゆっくりと頷いて、神崎さんは俺の目をまっすぐ見た。
「ありがとうございます、花村さん」
「環でいいよ。花村さんって呼ばれると、なんか他人行儀で」
「では……環」
名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねた。
その低い声が、妙に心地よくて――思わず視線を逸らしてしまう。
「俺も、透さんって呼んでいい?」
「……ええ、構いません」
透さんは少し困ったように眉を寄せたけれど、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
それでも、何か――この人の言葉には、嘘がないように思えた。
「……わかった。力になれるかはわからないけど、話は聞く」
神崎さんの目が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
そして、ゆっくりと頷いた。
「ありがとうございます。まずは事務所で、詳細を整理しましょう」
店を出ると、午後の柔らかな日差しが二人を包む。
歩道の端を歩きながら、自然と距離を保つ。
肩越しに神崎さんの様子を窺うと、目は周囲を警戒している。
タクシーに乗り込むと、車内は静寂に包まれた。
窓の外を街路樹の影が揺れ、車の揺れに合わせて胸の奥の緊張も微かに揺れる。
「事務所までは、すぐです」
神崎さんの声は静かだったが、そこには無言の重みがある。
「……うん」
無理に言葉を返す必要もないと思い、窓の外を眺める。
街の景色がゆっくり流れる中、頭の奥には三年前の出来事がぼんやりと蘇る。
けれど、その痛みは今、ぎりぎりのところで手の中に抑えられているような気がした。
やがて、駅から少し離れたビルの前でタクシーが停まる。
三階にある神崎調査事務所の看板が、黒いガラスの扉とともに静かに佇む。
――ここで、何が始まるのだろう。
神崎さんが先にドアを開け、静かに手招きする。
「どうぞ」
一歩踏み出すと、中は想像以上に整然としていた。
壁一面に並んだ本棚、大きなデスクに並ぶパソコン二台。
資料はきちんとファイリングされ、ホワイトボードには細かい文字がびっしりと書き込まれている。
「すごい……」
思わず声が漏れると、神崎さんが振り返った。
「仕事柄、情報整理が命なので」
淡々と言いながら、神崎さんは椅子を勧める。
デスクの上には、「西条慎吾」と書かれたファイルが山のように積まれていた。
「これ、全部……」
思わず声に出す。
「ええ。四年分です」
ページをめくると、西条の写真、取引先のリスト、金の流れ、関係者の証言――
細部まで、ひとつも漏らさず記録されている。
神崎さんがどれだけの時間をかけ、どれだけの労力を注いできたのかが、手に取るように伝わった。
その執念に、胸がぎゅっと詰まる。
「でも……これだけあっても、まだ足りないの?」
神崎さんは静かにファイルを閉じ、こちらを見た。
「証拠として、法廷で使えるものが、まだないんです」
目の前の資料の山を見ても、決定的な証拠はまだ見つかっていないなんて――。
「西条は用心深いです。決定的な場面は絶対に記録に残さない。だから、いつも逃げられてきた」
神崎さんはため息をついた。
「……ずっと一人で?」
「はい。これは俺の戦いですから」
そう言って、神崎さんは微かに笑った。
その笑顔が寂しげで――胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「……でも、もう一人じゃないじゃん」
俺がそう言うと、神崎さんは少し驚いたように目を見開いた。
「……そうですね」
ゆっくりと頷いて、神崎さんは俺の目をまっすぐ見た。
「ありがとうございます、花村さん」
「環でいいよ。花村さんって呼ばれると、なんか他人行儀で」
「では……環」
名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねた。
その低い声が、妙に心地よくて――思わず視線を逸らしてしまう。
「俺も、透さんって呼んでいい?」
「……ええ、構いません」
透さんは少し困ったように眉を寄せたけれど、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
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