リスタート・ショコラ―拾われた俺、溺愛されてます―世界でいちばん甘い場所は、あなたの隣。

砂原紗藍

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煌めくシュガーグラス―光と影のコントラスト―

4.夜の帳に、あなたの声だけが響く

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マンションに戻ると、リビングのテーブルに資料が広げられていた。

「環、少し手伝ってもらえますか」
「何を?」

透さんはノートパソコンを開き、画面をこちらに向ける。
そこには、ヴィノテークの情報がずらりと並んでいた。

「桐谷さんについて、もう少し調べたいんです。取引記録や西条との契約内容――表に出ている情報だけでも、何か掴めるかもしれません」

俺も隣に座り、画面を覗き込む。
透さんの指が、キーボードを滑るように叩いていく。

「……あった」

透さんが画面を止めた。

「来週、西条が大口の取引でヴィノテークを訪れる予定です」
「えっ、そうなの?!」

透さんの真剣な瞳が、じっとこちらを捉えた。

「もう一度、桐谷さんに会いに行きましょう」



翌日、再びヴィノテーク。

「また来てしまって、すみません」

透さんが丁寧に頭を下げる。
カウンターの向こうで桐谷さんは少し驚いた表情を見せたが、やがて苦笑する。

「……執念深いですね」
「ええ。それが仕事ですから」

透さんは真っ直ぐ桐谷さんを見つめ、低く静かな声で告げる。

「桐谷さん、来週西条が来店される予定ですね」

桐谷さんの表情が、一瞬強張った。

「……どうして、それを?」
「調べました」

透さんは言葉を切らずに続ける。

「その場に、俺たちを立ち会わせてください」

桐谷さんは息を呑む。

「さすがにそれは……」

透さんは一歩、静かに前へ出た。

「店のバックヤードからの観察のみで結構です。絶対に姿は見せません」

俺はそこで、透さんの言葉を引き取った。

「桐谷さん。西条の本性を、あなたの目で確かめてください」

店の空気が、少しだけ揺れた。
透さんの声が静かに重なる。

「もし俺たちが間違っていたなら、謝罪します。二度とあなたの前に現れません」

長い沈黙。
カウンターの上のワイングラスが、わずかに光を反射している。
やがて、桐谷さんは小さく息をつき、ゆっくりと頷いた。

「……わかりました」

顔を上げたその目には、迷いと決意が入り混じっていた。

「ありがとうございます」

透さんは深く頭を下げ、俺も慌てて頭を下げた。

外に出た瞬間、張りつめていた空気がふっと解ける。
夜風が冷たくて、けれど少しだけ気持ちよかった。

――帰りの車内。
窓の外を流れる街の灯が、まるで星のように遠く瞬いている。

「……透さん」
「はい?」
「本当に、うまくいくのかな」

透さんはハンドルを握ったまま、信号で車を止めた。
ゆっくりとこちらに視線を向け、穏やかに言う。

「わかりません」

その言葉に、思わず息をのむ。
完璧な人だと思っていたのに――こんな風に正直に言われると、なぜか安心した。

「でも、環の一言が桐谷さんを動かしたのも事実です」

彼の口元が、わずかに緩む。

「やらなければ、何も変わらない」

その言葉が、胸に深く落ちた。
そして、透さんの手がそっと俺の手に触れる。
柔らかく、確かに包み込む温度。
鼓動が一瞬で跳ね上がり、息が詰まる。

「……透さん」
「ん?」
「……俺は、信じる」

透さんは何も言わず、ただ静かに手を握ってくれた。
指先から伝わる温もりが、少しずつ不安を溶かしていく。

視線を前に戻すと、夜の街が、さっきよりも少しだけ優しく見えた。


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