リスタート・ショコラ―拾われた俺、溺愛されてます―世界でいちばん甘い場所は、あなたの隣。

砂原紗藍

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フランベ・ルミエール―始まりの炎―

4.嘘と真実のドレスコード

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side 花村 環

数日後。
朝食を終えると、透さんはパソコンを開き、静かに言った。

「今日は、少しリスキーな作戦に出ます」
「え……? リスキーって……」

思わず声が震える。
その視線の先に、透さんは落ち着いたまま画面を向けている。

「西条のレストランで開かれるパーティーに、行ってもらいます」

その一言で、頭の中が一瞬で真っ白になった。

「……パーティーに……行くって? え、ちょっと待って、俺が?」

混乱が一気に押し寄せて、思わず声が裏返る。

「いやいやいや、無理だよ! そんな場に紛れ込めるわけ……!」
「大丈夫です」

透さんは少し笑いながら、画面越しに静かに説明を続ける。

「潜り込むわけではありませんよ。拓実さんが正式に招待されています。ですから、あなたも俺も“同行者”として、すでに招待リストに載っています」
「……え? 本当に?」
「本当です。堂々と参加できます」

優しいけれど芯のある声でそう言われ、ようやく呼吸が戻る。

「そう……なんだ……」

透さんの目が急に真剣になる。

「あなたには、俺の恋人役をお願いしたい」
「こ、恋人……?」

思わず声が震えて、どんどん頬が熱くなる。

「ええ。恋人として参加していただきます」

透さんが椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
差し出された手が、自然な流れで腰に触れた瞬間――体が硬直した。

「ちょっ……!」
「慣れておいてください。本番で緊張して固まったら、すぐバレますから」

透さんは、からかうように、けれど優しく笑った。
俺は観念して、小さく息を吐く。

「……わかったよ」

透さんは満足そうに微笑み、頭をそっと撫でた。



夕方。準備の時間。

透さんは黒のスーツに袖を通し、ネクタイをきっちり締める。
俺も、用意されたジャケットとスラックスに着替える。

「似合っていますよ」

振り返ると、透さんが真剣な目でこちらを見ていた。

「本当に綺麗な顔をしてますね」
「……そういうの、照れるからやめて」

思わず鏡に視線を向けたけれど、透さんは逃がしてくれなかった。
そっと近づき、俺の首元に手を伸ばす。
ネクタイを回され、指が喉元に触れた瞬間、息が少し乱れた。

透さんは黙ったまま、ゆっくりと結び目を作り上げた。
指先の動きがやけに丁寧で、心臓が落ち着かない。
最後に軽く形を整え、肩に手を置かれた。

「今夜は、俺の恋人として振る舞ってください」

声が低くて静かで、耳の奥まで染みた。

「自然に、俺を見つめていればいい。それだけで恋人に見えます」

耳元で囁かれた言葉に、胸が高鳴る。

――透さんのそばにいると、どうしてこんなにドキドキするんだろう。

“任務”だと頭では理解している。
でも、透さんに触れられると、身体の反応だけ勝手に進んでしまう。

深呼吸をひとつ。
透さんの温もりを感じながら、俺は覚悟を決めた。

「……よし、やろう」

今日のパーティーで何が起きるか、全く想像がつかない。
でも、透さんと一緒なら、乗り越えられる――そう信じていた。

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