リスタート・ショコラ―拾われた俺、溺愛されてます―世界でいちばん甘い場所は、あなたの隣。

砂原紗藍

文字の大きさ
37 / 44
フランベ・ルミエール―始まりの炎―

5.潜入者は静かに笑う

しおりを挟む
高級車が静かに停まり、煌びやかな光が車内に差し込んだ瞬間、心臓がぎゅっと縮まった。

レストラン《Lumière》。
色んな思いが詰まった場所。

隣を見ると、透さんはいつもの落ち着いた表情で俺を見つめている。

「大丈夫ですか?」

その声だけで、少し息が吸えるような気がした。

「……ちょっと、怖い」

素直に吐き出すと、透さんはためらわず俺の手を握った。
温かくて、しっかりしていて、頼れる手。

「俺がいます。何があっても、守りますから」

その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。

「……うん」

小さく頷くと、透さんは満足そうに微笑んだ。

俺たちは車を降りる。
夜風が少し冷たくて、緊張で指先が震えた。
すると――透さんの手が、そっと俺の腰に回される。

「恋人らしく、ね」
「っ……!」

顔が一気に熱くなる。
だけど身体の重心が透さんに寄ると、不思議と安心もした。

二人で歩き、Lumièreの扉をくぐる。
シャンデリアの光が眩しい。
上品な音楽が流れ、ゆっくりと人々が談笑している。

――そこで目が合った。

西条。
俺の体が、反射的に固まった。
西条もすぐに気づき、にっこり笑って歩み寄ってくる。

「環じゃないか」

声は明るいのに――やはり目は笑ってない。
全身が強張って呼吸が浅くなる。
その瞬間、透さんがぐっと俺を引き寄せた。

「大丈夫。俺がいます」

その一言で、やっと足が地についている気がした。
西条が目の前に立つ。

「久しぶりだね、環。……まさか、神谷社長の知り合いだったとはね」

俺は喉がつまって何も言えない。
代わりに、透さんが一歩前に出た。
西条の視線が透さんに移る。

「……で、あなたは?」
「はじめまして、神崎透です。神谷社長の経営コンサルタントをしています」

その声は氷みたいに冷たくて、ゾクッとした。
西条の表情がほんの一瞬、歪んだ。

「……経営コンサルタント……ね」

透さんは挑発的に視線を合わせる。
二人の間で、火花が散るような空気を感じる。

「まあ、今日はパーティーだ。楽しんでいってくれ」

西条は笑顔を貼り付けたまま、そう言い残して、俺たちに背を向け歩き去った。

「……俺たちには興味ないって感じだね」

思わず吐き出すと、透さんが優しく頭を撫でた。

「そうですね、環。よく耐えました」

胸にじんと温かいものが広がる。
でも透さんの目はすぐに鋭さを取り戻し、任務モードに切り替わった。

「さて、本題に入りましょう」
「……本題?」

透さんの声に背筋がぞくっとする。

「西条の書斎に入り、証拠を押さえます」
「証拠を……?」

人混みのざわめきの中、透さんがそっと耳元で囁く。

「俺が書斎に向かいます。あなたは、西条の気を引いてください」
「えっ……!? 無理だよ……!」

声が思わず裏返る。

「大丈夫です。この場では、西条は絶対にあなたに手を出せません」

透さんがしっかりと肩を掴み、真っすぐ見つめてくる。

「拓実さんも、遥くんも近くにいます」

震える声で「……でも」と言うと、透さんは小さく息を吐いた。

「本当は離れたくない。でも……俺を信じてください」

環の心は不安と期待で揺れる。
透さんの言葉に、体の奥が熱くなる。

そして、覚悟を決めるしかない――

「……わかった」

頷くと、透さんが俺の額にふっとキスを落とした。

「っ……! ちょ、ここ……人前……!」
「恋人らしく、でしょう?」

意地悪い笑みを残して、透さんは人混みに消えた。
置いていかれた瞬間、心臓の音がやたら大きく聞こえる。

今は恋人のふりする必要ないのに……。

そう思いながら、深呼吸して、西条の方へ向かった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。

ゆう
BL
八代秋(10月12日) 高校一年生 15歳 美術部 真面目な方 感情が乏しい 普通 独特な絵 短い癖っ毛の黒髪に黒目 七星礼矢(1月1日) 高校三年生 17歳 帰宅部 チャラい イケメン 広く浅く 主人公に対してストーカー気質 サラサラの黒髪に黒目

気付いたらストーカーに外堀を埋められて溺愛包囲網が出来上がっていた話

上総啓
BL
何をするにもゆっくりになってしまうスローペースな会社員、マオ。小柄でぽわぽわしているマオは、最近できたストーカーに頭を悩ませていた。 と言っても何か悪いことがあるわけでもなく、ご飯を作ってくれたり掃除してくれたりという、割とありがたい被害ばかり。 動きが遅く家事に余裕がないマオにとっては、この上なく優しいストーカーだった。 通報する理由もないので全て受け入れていたら、あれ?と思う間もなく外堀を埋められていた。そんなぽややんスローペース受けの話

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜

高菜あやめ
BL
昼はフリーのプログラマー、夜は商社ビルの清掃員として働く千野。ある日、ひどい偏頭痛で倒れかけたところを、偶然その商社に勤める津和に助けられる。以来エリート社員の津和は、なぜか何かと世話を焼いてきて……偏頭痛男子が、エリート商社マンの不意打ちの優しさに癒される、頭痛よりもずっと厄介であたたかい癒し系恋物語。【マイペース美形商社マン × 偏頭痛持ちの清掃員】 ◾️スピンオフ①:社交的イケメン営業 × 胃弱で塩対応なSE(千野の先輩・太田) ◾️スピンオフ②:元モデル実業家 × 低血圧な営業マン(営業担当・片瀬とその幼馴染)

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
暫くの間、毎日PM23:10分に予約投稿。   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...