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フランベ・ルミエール―始まりの炎―
6.危険な夜、駆け引きの先に
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――テラスに出ると、西条は欄干にもたれて外を眺めていた。
「あの……西条さん」
声をかけると、西条は振り返り、相変わらずの柔らかい笑みを浮かべた。
「ああ、環。どうした?」
その作られた笑顔に、少しだけ緊張が走った。
でも、時間を稼がないといけない。
「ちょっと……話さない……?」
俺が切り出すと、西条はワイングラスをゆっくり揺らし、口元を歪めた。
「話? いいよ」
テラスへ出ると、夜風が吹き抜け、周りの喧騒が少し遠ざかった。
西条はじっと俺を見て、軽く顎を上げた。
「お前のパートナーはどうした?」
まずい。西条に怪しまれたら、この計画は失敗に終わる。
「えっと……仕事のことで、神谷社長と話してるから」
「……つまり、お前は一人で俺の反応を見に来たってわけか?」
「え……?」
意味が飲み込めず固まると、西条は小さく笑った。
「環、お前さ……そろそろ気づけよ」
「……何を」
「神崎透は、お前を利用してる」
ぞくり、と背筋を何かが這った。
「そんな……」
否定しようとしたが、声が震えてしまう。
西条は一歩、距離を詰めた。
その感覚が、昔と同じように心臓を跳ね上がらせる。
「調べたんだよ。あいつ、俺に恨みがある。だから……お前を巻き込んでる」
「ちが……っ、透さんはそんなこと……」
声が震える。
思っているよりも自分が動揺しているのがわかった。
「環。俺といた頃もそうだろ?」
西条はにやり、と笑う。
「“優しくしてくれる人”の言うことを、何でも信じる」
苦しいところを突かれて、呼吸が浅くなる。
違う。
透さんは……違う、でも……。
胸の奥で、小さな不安が確かに揺れた。
西条がさらに手を伸ばしてきて――
「環に触るな」
乾いた音のように、鋭い声が背後から落ちた。
振り返ると、透さんがまっすぐこちらに歩いてきていた。
表情は張りつめていて、いつもの柔らかさはない。
「環から離れてください」
西条は眉を上げて、薄く笑う。
「……戻ってきたのか」
透さんは答えず、手にしていたUSBメモリをゆっくり見せる。
西条の顔がわずかに引きつった。
「あなたの書斎、確認させてもらいました」
「神崎、お前……本当に……」
西条の声が低く漏れる。
「必要なデータはコピー済みです。あとは警察に提出するだけです」
透さんは俺の手を取った。
その指の強さに、まだ状況を飲み込めていない頭が少しだけ現実へ引き戻される。
「環、行きましょう」
「……う、うん……」
透さんが引っ張るように歩き出す。
「待て……!」
怒りを押し殺した声が背中に響く。
すぐに複数の足音が近づく気配がする。
透さんは俺の手をしっかり握り、早足で建物内へと向かう。
「大丈夫、走れますね?」
「……うん、行ける……!」
怖い。
でも、手を離したくない。
その手を頼りに、人混みの中へ駆け込んだ。
「あの……西条さん」
声をかけると、西条は振り返り、相変わらずの柔らかい笑みを浮かべた。
「ああ、環。どうした?」
その作られた笑顔に、少しだけ緊張が走った。
でも、時間を稼がないといけない。
「ちょっと……話さない……?」
俺が切り出すと、西条はワイングラスをゆっくり揺らし、口元を歪めた。
「話? いいよ」
テラスへ出ると、夜風が吹き抜け、周りの喧騒が少し遠ざかった。
西条はじっと俺を見て、軽く顎を上げた。
「お前のパートナーはどうした?」
まずい。西条に怪しまれたら、この計画は失敗に終わる。
「えっと……仕事のことで、神谷社長と話してるから」
「……つまり、お前は一人で俺の反応を見に来たってわけか?」
「え……?」
意味が飲み込めず固まると、西条は小さく笑った。
「環、お前さ……そろそろ気づけよ」
「……何を」
「神崎透は、お前を利用してる」
ぞくり、と背筋を何かが這った。
「そんな……」
否定しようとしたが、声が震えてしまう。
西条は一歩、距離を詰めた。
その感覚が、昔と同じように心臓を跳ね上がらせる。
「調べたんだよ。あいつ、俺に恨みがある。だから……お前を巻き込んでる」
「ちが……っ、透さんはそんなこと……」
声が震える。
思っているよりも自分が動揺しているのがわかった。
「環。俺といた頃もそうだろ?」
西条はにやり、と笑う。
「“優しくしてくれる人”の言うことを、何でも信じる」
苦しいところを突かれて、呼吸が浅くなる。
違う。
透さんは……違う、でも……。
胸の奥で、小さな不安が確かに揺れた。
西条がさらに手を伸ばしてきて――
「環に触るな」
乾いた音のように、鋭い声が背後から落ちた。
振り返ると、透さんがまっすぐこちらに歩いてきていた。
表情は張りつめていて、いつもの柔らかさはない。
「環から離れてください」
西条は眉を上げて、薄く笑う。
「……戻ってきたのか」
透さんは答えず、手にしていたUSBメモリをゆっくり見せる。
西条の顔がわずかに引きつった。
「あなたの書斎、確認させてもらいました」
「神崎、お前……本当に……」
西条の声が低く漏れる。
「必要なデータはコピー済みです。あとは警察に提出するだけです」
透さんは俺の手を取った。
その指の強さに、まだ状況を飲み込めていない頭が少しだけ現実へ引き戻される。
「環、行きましょう」
「……う、うん……」
透さんが引っ張るように歩き出す。
「待て……!」
怒りを押し殺した声が背中に響く。
すぐに複数の足音が近づく気配がする。
透さんは俺の手をしっかり握り、早足で建物内へと向かう。
「大丈夫、走れますね?」
「……うん、行ける……!」
怖い。
でも、手を離したくない。
その手を頼りに、人混みの中へ駆け込んだ。
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