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フランベ・ルミエール―始まりの炎―
1.奪われた夢の晩餐
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side 神谷拓実
俺は遥とともに“ある場所”に向かっていた。
「今日は視察を兼ねて、ちょっと食事をしよう」
運転席から声をかけると、遥は少し緊張した様子で頷く。
「環くんが西条に奪われた……店だよな」
「……そうだな」
ハンドルを握る手に、わずかに力が入る。
『Lumière』――環が夢を注いだ店であり、同時にその夢を奪われた場所。
信号で止まった瞬間、遥の方を見た。
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと緊張するけど……拓実がいるからな」
遥がそう言って、小さく微笑んだ。
その笑顔に少し胸が軽くなる。
『Lumière』に到着すると、上品なスタッフが二人を迎えた。
店内は洗練されている。白を基調とした内装、シャンデリアの柔らかい光。
席に案内され、コース料理が運ばれてくる。
一皿目のアミューズ。美しい盛り付けだが――。
「……どう思う?」
遥に小声で尋ねる。
「うーん……技術もあるし、綺麗だけど、なんていうか」
遥が少し首を傾げる。
「環くんの料理みたいな、心に残る感じはないかも」
俺も同感だった。
完璧、だが――魂がない。
そんなとき、気配をまとって一人の男が俺たちの席に近づいてきた。
黒のスーツ。無駄のない動作。
笑みを浮かべていても、目の奥だけは笑っていない。
「アークメディアの神谷社長ですね。初めまして、西条慎吾と申します」
遥の肩が、わずかに強張るのを感じた。
――こいつが“西条”。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は握手を交わしながら、穏やかに微笑む。
「紹介します。こちらはパートナーの一ノ瀬です」
「はじめまして。神谷メディア編集者の一ノ瀬遥と申します」
遥が緊張しながらも、しっかりと挨拶する。
「始めまして。いや、まさか神谷社長とパートナー様が来てくださるとは光栄です」
西条は丁寧に頭を下げ、それから低い声で話を切り出した。
「今度、当店で富裕層向けのパーティーを開催します。神谷さんとお連れの方も、ぜひご参加ください」
俺は柔らかく頷いた。
「もちろん、喜んで伺います」
自然に遥の方を向き、視線を合わせる。
「遥も一緒に参加して」
「ああ、わかった」
西条は満足そうに微笑み、名刺を差し出す。
「……神谷社長。もしよければ、他の関係者の方にもお声をかけていただけると幸いです。招待状はこちらで用意いたします」
――やはり、そうきたか。
アークメディア社長の肩書きは利用価値が高い。
俺が呼べば人は集まるし、SNSで拡散されれば宣伝効果は抜群だ。
そうして店の価値を“作り上げたい”のだろう。
その思惑は、あまりにも透けて見えた。
さらに遥が編集者だと知って、西条の目が一瞬光ったのを見逃さなかった。
もしかしたら雑誌に取り上げてもらえるかもしれない――そう計算しているのが見え見えだ。
「いいですよ。数名に声かけてみます」
俺は表情を変えず、穏やかに答える。
「ありがとうございます。それでは、ごゆっくりお楽しみください」
西条は丁寧な笑みを残し、去っていった。
その背中を見送りながら、俺は静かに息を吐く。
――典型的なビジネスのやり方だ。
人脈の上に店を飾り、その価値を演出する。
やり方自体は間違っていない。
ただし、“環の夢を奪った上で俺たちを利用する”というのなら――話は別だ。
胸の奥に、冷たいものがひとつ落ちた気がした。
隣で遥が肩の力を抜く。
「……緊張した」
「お疲れ様」
俺は遥の手を、テーブルの下でそっと握った。
俺は遥とともに“ある場所”に向かっていた。
「今日は視察を兼ねて、ちょっと食事をしよう」
運転席から声をかけると、遥は少し緊張した様子で頷く。
「環くんが西条に奪われた……店だよな」
「……そうだな」
ハンドルを握る手に、わずかに力が入る。
『Lumière』――環が夢を注いだ店であり、同時にその夢を奪われた場所。
信号で止まった瞬間、遥の方を見た。
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと緊張するけど……拓実がいるからな」
遥がそう言って、小さく微笑んだ。
その笑顔に少し胸が軽くなる。
『Lumière』に到着すると、上品なスタッフが二人を迎えた。
店内は洗練されている。白を基調とした内装、シャンデリアの柔らかい光。
席に案内され、コース料理が運ばれてくる。
一皿目のアミューズ。美しい盛り付けだが――。
「……どう思う?」
遥に小声で尋ねる。
「うーん……技術もあるし、綺麗だけど、なんていうか」
遥が少し首を傾げる。
「環くんの料理みたいな、心に残る感じはないかも」
俺も同感だった。
完璧、だが――魂がない。
そんなとき、気配をまとって一人の男が俺たちの席に近づいてきた。
黒のスーツ。無駄のない動作。
笑みを浮かべていても、目の奥だけは笑っていない。
「アークメディアの神谷社長ですね。初めまして、西条慎吾と申します」
遥の肩が、わずかに強張るのを感じた。
――こいつが“西条”。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は握手を交わしながら、穏やかに微笑む。
「紹介します。こちらはパートナーの一ノ瀬です」
「はじめまして。神谷メディア編集者の一ノ瀬遥と申します」
遥が緊張しながらも、しっかりと挨拶する。
「始めまして。いや、まさか神谷社長とパートナー様が来てくださるとは光栄です」
西条は丁寧に頭を下げ、それから低い声で話を切り出した。
「今度、当店で富裕層向けのパーティーを開催します。神谷さんとお連れの方も、ぜひご参加ください」
俺は柔らかく頷いた。
「もちろん、喜んで伺います」
自然に遥の方を向き、視線を合わせる。
「遥も一緒に参加して」
「ああ、わかった」
西条は満足そうに微笑み、名刺を差し出す。
「……神谷社長。もしよければ、他の関係者の方にもお声をかけていただけると幸いです。招待状はこちらで用意いたします」
――やはり、そうきたか。
アークメディア社長の肩書きは利用価値が高い。
俺が呼べば人は集まるし、SNSで拡散されれば宣伝効果は抜群だ。
そうして店の価値を“作り上げたい”のだろう。
その思惑は、あまりにも透けて見えた。
さらに遥が編集者だと知って、西条の目が一瞬光ったのを見逃さなかった。
もしかしたら雑誌に取り上げてもらえるかもしれない――そう計算しているのが見え見えだ。
「いいですよ。数名に声かけてみます」
俺は表情を変えず、穏やかに答える。
「ありがとうございます。それでは、ごゆっくりお楽しみください」
西条は丁寧な笑みを残し、去っていった。
その背中を見送りながら、俺は静かに息を吐く。
――典型的なビジネスのやり方だ。
人脈の上に店を飾り、その価値を演出する。
やり方自体は間違っていない。
ただし、“環の夢を奪った上で俺たちを利用する”というのなら――話は別だ。
胸の奥に、冷たいものがひとつ落ちた気がした。
隣で遥が肩の力を抜く。
「……緊張した」
「お疲れ様」
俺は遥の手を、テーブルの下でそっと握った。
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