10 / 20
第一章
その10
しおりを挟む『……明日にはお前の部屋を用意するから今日はここで寝ろ。風呂場はこっちだ、好きに使え。』
呆然とする私の顔に向かってぼふんとバスタオルと着替えを投げてよこしたオスカーさんは、氷の結晶のようなマークが描かれた黒い箱から透明な液体の入った瓶を一本取り出すと寝室の扉を後ろ手でバタンと閉めた。
ど、どうしよう……。
バスタオルを手にうろうろと部屋の中を歩いて……意を決してお風呂に入ることにした。
だ、だって……そういうこと……しなきゃいけないんだよね………⁉︎
◇ ◇ ◇ ◇
『おい、泣くな、喧しい……!』
『だ、だって無理ですぅ……!私、初めてなのに、さ、30人もなんて……‼︎』
『……今まで働いたこともないのか?随分と気楽に暮らしてきたんだな。』
何でもないことのように、さらりとそう言って退けたオスカーさんに背筋が凍る思いがした。
なっ、そんな、普通のバイトならしたことあるけど………風俗で働いたことなんてないってば‼︎
異世界にもシャワーがあってよかった。頭から水圧MAXで頭からばっしゃばっしゃとお湯をかけていると不思議と落ち着か……ない!
えー、どうしよう……やっぱりオスカーさん悪い人なの……⁉︎
仕事紹介するって……男の人相手の肉体労働って……そういうこと…だよね…?
『慣れない間は全員の部屋を……』なんて優しさなんかじゃないし!何その謎の気遣い‼︎
き、きっとオスカーさんやあの体の大きな獣人さん達に輪姦されちゃうんだ……。私……処女なのにぃ……、彼氏だっていたことないのに……!
お姉ちゃんごめんなさい……。せっかく結婚しても一緒に暮らそうと思ってくれていたのに……。自分の結婚相手の条件に容姿のことばかりあげてしまって反省しています。大事なのは『性格』
と『職業』でした。お姉ちゃんの言う通りでしたぁぁぁ………。
『あの、で、出来ればオスカーさんの専属!専属でお願いします!』
『……俺の専属?………俺は事足りている。』
あっ、そうですよねー。オスカーさんくらいのイケメンなら女なんか十分間に合ってますよねー。なにもこんな貧乳女子大生に手を出さなくたって……。
『それより隊の若い奴の掃除を任せたい。随分汚れているからな……。』
えっ、何⁉︎どういうこと……‼︎『掃除』って……何かの隠語⁉︎汚れている……⁉︎
もしかしてソープ……とか体洗うやつ⁉︎確か九頭竜さんが……。
『へー、エマちゃん介護系の大学行くんだ。オジサンも同じようなお店経営しててるんだよー。洗体エステって知ってる?えっ、あぁ大丈夫大丈夫、「ヌキなし」だからさー、こんど研修してみる?なんてね、あははー。』
……もしかして「ヌキあり」の方なのかな。嫌ぁぁぁあ!ハード、ハードすぎるよぉぉぉぉお‼︎
『ほんっとに!オスカーさんの専属がいいんです!自分で他の仕事見つけて来ますから、それまではどうかオスカーさんの専属でぇぇぇ………!』
『………分かった!分かったから鼻水を垂らしながら近づいてくるな……!』
………た、助かった。
いや、助かったわけではないけれど、30人の男性をかわるがわる相手にしないといけないことを考えると……それよりはマシ。
きっとお風呂からあがったら『研修』が待っているんだ……。
『………俺が直々に研修してやるよ。』
『気に入った。お前、俺の女になれ。』
あるあるーー‼︎
ヤクザ系少女漫画によくある展開を思い浮かべてちょっとだけ興奮してしまった。いや、だってオスカーさんてば世にも珍しいイケメンヤクザ(異世界人)だし!
お姉ちゃん本当にごめんなさい……!異世界に来て早々に身を持ち崩してしまいました……!そして流されるままイケメンヤクザの愛人になってしまいそうです……。
火が出そうなくらい全身を擦って丁寧に洗って………着替えとして渡されたオスカーさんの襟付きシャツに袖を通した。
一回り大きなシャツの袖を折って……あれ、これ萌え袖ってやつじゃないの……?『彼シャツ』がオスカーさんの趣味なら折らない方がいいのかな……ってちがーーうっ‼︎何を乗り気になってるんだ私は‼︎
ぶんぶんと濡れた髪を洗い立ての犬のように振り乱した私は乱暴にバスタオルを被ると……。
仕方ない………、全部自分で撒いた種だ………。とにかくお姉ちゃんに迷惑がかからないように……。あと、九頭竜さんからのプレゼントも回収しないと……!
真珠をお姉ちゃんに渡して、そうしたら私はひっそりとヤクザの姐さんとして異世界で生きていこう。
……色々ありすぎたせいかテンションがおかしくなっている気がする。暴走機関車と化した私は、戦闘服を見に纏ったまま、寝室の扉を叩いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「しっ、失礼しまーす。」
上擦った声で少しだけ開けた寝室の扉からおそるおそるベッドの方を覗くとオスカーさんはベッドフレームにもたれかかったまま再び手元の小説に視線を戻した。
「………入れ。」
そう声をかけられたけれど……寝室にはベッドが二台。オスカーさんが使っている方といない方。これって………。
「………何をしている?あっちのベッドを使え。」
「えっ、いいんですか?」
「………ベッドくらい遠慮せずに使ったらいい。」
……あるぇ?
てっきり、このまま『研修』って名目でオスカーさんのベットに引き摺り込まれて、あれやこれやを教えられた挙句、めくるめく快楽と共に愛人になるよう脅されて………という展開を予想していたのだけれど。
「あの、私、こっちのベッドで寝ていいんですよね?」
「そうだ。」
「本当にこっちのベッドでいいんですか?」
「………しつこい……!」
苛立ったような口調のオスカーさんに何度もちらちらと視線を向けながら、綺麗にベッドメイクされたままの白いスプレッドに手をかけた。
「お布団、入っちゃいますよ⁉︎」
「…………いちいち俺に報告するな!」
「あー私!疲れてるからお布団入ったらすぐ寝ちゃうかも‼︎」
「………おい、独り言にしては常軌を逸した声のボリュームだぞ……⁉︎」
顔をあげたオスカーさんは整った眉を不愉快そうに歪めている。
えっ、ほんとに何もないの……⁉︎『研修』は?
「じゃ、じゃあ、もう寝よっかなーーー‼︎私、本当に寝ますよ⁉︎いいんですね⁉︎」
「五月蝿い!さっさと黙って寝ろ!」
ひゃわっ!怒られた……。読んでいた小説を自分のベッドに叩きつけたオスカーさんの怒鳴り声に、慌てて布団を頭から被って……。
腹立たしげにごくごくと喉を鳴らして瓶から水を飲む音が聞こえた。えっ、オスカーさん本当に何もしないつもり……?
いや別に期待してた訳じゃないし、何もないならその方がありがたいはずなんだけれどなんて言うかさぁ………。
とにかく今日一日でめちゃくちゃに疲れてしまった。九頭竜さんから真珠の宝飾品をお姉ちゃんの結婚祝いでもらって、お姉ちゃんが縁結びしてもらった神社の常田さんに私も縁結びをしてもらうことになって………気付いたら異世界に転移していて………。
……早く、お姉ちゃんに会いたいな……。
お姉ちゃんに会って、お姉ちゃんが幸せそうならそれでいいから。
何処でだってお姉ちゃんなら逞しく生きていけそうだし……。
私は……お姉ちゃんのお荷物にはなりたくない。ずっと、お姉ちゃんに守ってもらうばかりだったから………オスカーさんのことも、自分で……なんとか………しないと…………。
とろりと瞼が下りて、私はゆっくりと白い靄の中へ意識を手放した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる