アルス『達』の日常

すたるなぁさん

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11話〜

問題の調理実習

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ある日の3限目と4限目、サトシと近藤と杏姉、そしてもう1人の女子生徒の4人で、家庭科室で調理実習を行なっていた。
杏姉は、一緒の班になった青髪のセリナと、料理器具の洗浄をしていた。
男子2人は談笑をしているけど、私達女子からは水と食器が触れ合う音しか聞こえてこない。

サトシ「で、今日はなにを作るんだ?」

ロクに手伝いもしないサトシが、椅子に座ってそう尋ねる。

近藤「なんで知らねぇんだよ。サバの塩焼きだろ?」
セリナ「味噌煮ね」
近藤「そうそれ」

指を鳴らし、セリナにその指を向ける。

セリナ「それよりこの中で料理得意な子っている?私指先切ってて...」

絆創膏をした人差し指と中指を、左手で抑え、申し訳なさそうに訊く。
セリナは、料理が得意なのだが、前日うっかりで指を切ってしまったらしい。

サトシ「おう、カップ麺とゆで卵なら作れるぜ。」
セリナ「それ料理って言うの?」

ドヤ顔のサトシに困惑するセリナ。

セリナ「近藤君は?」

サトシの隣に立っている近藤に聞く。

近藤「ん~...簡単なもんしか作れねぇ。」
セリナ「例えば?」

期待はしていないが、一応訊いておく。

近藤「マルゲリータと親子丼」

予想と違った。雰囲気的に、てっきりレトルトカレーとインスタントラーメンとか言い出すのかとばかり思っていた。

サトシ「なんでマルゲリ作れるんだよ!てかなんでマルゲリ?」
近藤「いや略し方気を付けろ!響き悪いわ!」

サトシもこれには驚いたようだ。
近藤は、思ったよりちゃんとしたものを作れるらしい。
ひとまず安心したセリナは、

セリナ「杏姉さんは何か作れる?」

その流れで、隣にいる杏姉に話しかけた。

杏姉「あっえ、えーと...」

突然聞かれて焦っている、いや、どこか迷った様子の杏姉。
口元に手を添えて、恥ずかしがっている様にも見える。
まさかとは思うが...
近藤に肩を叩かれた。

近藤「察せた?」
セリナ「あ...うん、なんかごめんね...」

セリナは、聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がした。

杏姉「い、いえ!ですが練習はしましたから!だ、大丈夫だと思います...多分...」

徐々に自信を失っていくのを見て、余計に心配になった。

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3限目の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。
サトシは机に座り、携帯を取り出す。

サトシ「やっと休憩か。疲れたぜ」
近藤「いやお前鯖に切れ目入れただけだろ」
サトシ「おめぇだってほぼカカシだっただろ」

サトシは、近藤の後ろに人影が見えた。

近藤「後半活躍するからいいんだわ」

近藤は、そ~っと背後に近付いてきたアルスに、突然両肩を掴まれた。そして、奇声を発した。

近藤「お前引きずるぞ!」

予想以上のリアクションに、アルスとサトシが爆笑する。

3人でいつものように群れていると、フライパンの見張りをしていたセリナが杏姉に任せて、アルスに寄ってくる。

セリナ「そういえばアルス君、そっちの班ってエルちゃんいたよね?」

セリナとアルスは、普通に友達同士だ。エル経由で仲良くなった、といったところだ。

アルス「ああ。ほぼあいつがやって完成しちまった」
セリナ「いや早いよ!やっぱすごいね...てか男子!机に座らない!料理にゴミが入るでしょ!」
サトシ「うおっ!すまねぇ!俺が欲しいのはマネー」

セリナに怒られ、サトシは軽いギャグを言いながら机から降りる。

近藤「しょうもなさすきるだろ」
セリナ「料理冷めちゃう」
アルス「氷点下超えてんぞ」

怒涛のラッシュにサトシは鎮圧した。

その後ろで、フライパンの蓋から漏れる灰色の煙を、ボーッと眺める杏姉。
その事態に一同が気が付くのは、もう少しあとであった。
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